自転車事故の相手から「誠意を見せろ」とすごまれた・・・どう対応すればいいの?
交通事故の被害者から「誠意を見せろ」とすごまれて、とても怖くなった――。そんな相談が弁護士ドットコムに寄せられている。
自転車に乗っていた相談者は、歩行者と接触事故を起こした。相手のカバンの持ち手部分を破損させてしまったが、幸いにも身体のほうは特に問題なかった。
相談者によると、完全に「自分の過失」だったので、カバンの弁償だけでなく、今後身体に異変があれば、その治療費も支払うと説明した。
ところが、相手側は「そうじゃないだろ、誠意を見せろ。ものや治療費の金額だけじゃないだろ」とすごまれたという。
「すこしでも早く終わらせたい」。必要以上に威圧的な態度で、とても怖くなったので、相手の言い値のお金を支払ったそうだ。
こうした事故の際、相手から「誠意を見せろ」と言われたら、どのように対応するのがよいのだろうか。交通問題にくわしい平岡将人弁護士に聞いた。
●カバンの修理費などを支払う必要はあるが・・・――そもそもカバンの弁償や治療費以外に支払う必要はあるでしょうか?
自転車に乗って、相手のカバンを破損させたならば、修理費の支払いあるいは賠償(ただし現在の価格評価)をしなくてはならないでしょう。
相手にケガがないのであれば、それ以上は支払う必要はありませんが、ケガをしているならば、さらに治療費・慰謝料などの賠償の必要があります。
――大切にしていた物を破損した場合にも慰謝料が発生しますか?
たしかに精神的苦痛が生じる可能性はあると思いますが、物損に関して、慰謝料は原則として認められないとするのが現在の賠償実務となります。
したがって、ケガをしていない以上、カバンの修理費または時価を超えて、慰謝料を払う必要はありません。
●賠償すべき責任のあるものはきちんと支払う「スタンス」――「誠意を見せろ」と言われた場合、どう対応すればいいでしょうか?
今回のケースで、相手側は「誠意を見せろ。モノや治療費の金額だけじゃないだろ」と発言して、その後、お金を受け取っていますから、つまりは金を払えと要求していると理解できます。
この点、前述した通り、カバンの賠償以外は支払う必要がありませんので、カバンの賠償を超えたお金の要求であり、法的義務のない金員の支払いを要求されています。
したがって、今回のケースに限らず、「誠意を見せろ」と言われた場合の対応としては、「賠償すべき責任のあるものはきちんと支払います」というスタンスが正解です。
また、交通事故賠償における損害は、損害を受けた側(ここでは「誠意を見せろ」と言っている側)が、一応の立証をしなくてはなりません。加害者側は、被害者に生じた損害の詳細を知りようがないからです(たとえばカバンが、どこのブランドでいつ、いくらで買ったのかを知りようがありません)。
そのため、「損害について、改めてご請求をお願いできますか?」とするのが良いでしょう。
それでも「誠意を見せろ」と脅されたり、さらに一歩踏み越えて「勤務先に言うぞ」とか「近所にばらまくぞ」と言われたら、これは事故をきっかけとして、紛争を円満におさめてやるのと引き換えに、「法的義務のない金員の支払い」を要求されていると理解できます。
このような場合には、恐喝や脅迫にあたりうると思います。悩まれるならば、警察や弁護士に相談するのが良いでしょう。
●「悪いと思ったなら、きちんと謝罪したほうが良い結果につながる」――よく事故の後、「私がすべて悪かった。すみません」と、きちんと「誠意を見せた」謝罪をする人がいます。
人として正しい姿勢だと私は思います。しかし、後から「あのときすべて悪いと言ったのだから、すべての損害を賠償しろ」となってしまうことが稀にあります。
このような状況を避けるため、事故は「謝ったら負け」と思っている方も多いのではないでしょうか。
私が多数の交通事故事件を担当した経験から思うことは、悪いと思ったなら、きちんと謝罪したほうが良い結果につながることが多いと思います。そもそも、事故を起こした場合に備えて保険に加入しているわけですし、多くの場合、事故状況に関する証拠がありますから、どちらの責任が多いのかという過失割合は、ほかの証拠によって決まることがほとんどです。
ただ、「不注意で事故を起こしてすみませんでした」という謝罪を超えて、「損害はすべて支払います」と約束するのは、少し無責任な発言ではないかと思いますから、控えるべきでしょう。
また、事故直後に謝罪を受けたからといって、被害者側の道路交通法違反などの事実がなくなるわけではありませんから、過失割合がゼロとなるわけではないことも覚えておいたほうが良いでしょう。
●事故はほんの少しの不注意で起きる――自転車による人身事故が最近目立っています。
実は、先日も私が横断歩道を青信号で渡ろうとしたら、右手から車道を走る自転車が横切ろうとして、危ないなと思うことがありました。
最近、こうした経験が多いので、いつも横断歩道を渡るまえに左右確認していますし、歩道も自転車が増えているので、歩道を歩いていても、急な方向転換は後方確認してからにしています(笑)。
自転車に限らず、事故はほんの少しの不注意で起きます。事故を起こそうと思って起こす人はいません。
事故を起こさないように、運転者が車両を運転しているとの意識をもって安全運転をすること、そして警察が違反者を取り締まることも必要でしょうが、それでも事故をゼロにすることはできないでしょう。
そうであれば、万が一事故を起こした場合に、その損害を被害者だけに押し付けるのではなく、社会でセーフティネットを備えておくべきだと思います。
わが国は損害保険制度が発達していますから、まずは自分が事故を起こしたときのための損害保険にすべての国民が加入すべきでしょう。
自転車の損害保険は、自動車保険に付帯するものや、火災保険やクレジットカードに付帯する賠償責任保険、そして自転車保険単体の商品などがあります。ぜひ今すぐに確認してみてください。
【取材協力弁護士】
平岡 将人(ひらおか・まさと)弁護士
中央大学法学部卒。全国で10事務所を展開する弁護士法人サリュの前代表弁護士。主な取り扱い分野は交通事故損害賠償請求事件、保険金請求事件など。著書に「交通事故案件対応のベストプラクティス」ほか。実務家向けDVDとして「後遺障害等級14級9号マスター講座」「後遺障害等級12級13号マスター講座」など。
事務所名:弁護士法人サリュ銀座事務所
事務所URL:http://legalpro.jp/