PSVで2年目のシーズンを迎えるMF堂安律

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 昨季、フローニンゲンからPSVへの移籍を果たしたMF堂安律。オランダ3年目のシーズンで待望のステップアップとなったが、ピッチ上では不完全燃焼に終わった。リーグ戦は中断したまま終了し、この夏に開催予定だった東京五輪は1年の延期となった。22歳を迎えた男は今何を思い、新シーズンにどのように立ち向かっていこうとしているのか――。

何を通して元気を与えられるのか

改めて気付いたスポーツの力

――新型コロナウイルスの影響でオランダ・エールディビジは3月あたまに行われた第26節終了後に中断期間に入りました。

「いろいろな情報が飛び交っていたので、何が正しい情報なのか、正しくない情報なのか、選手も正直分からなかった。リーグが再開するのか、東京五輪がどうなるかも分からずに過ごしていましたが、モチベーションを切らさないように、いつ試合が再開してもいいように準備していました」

――ただ、3月下旬には東京五輪の延期が、そして4月下旬にはエールディビジのシーズン終了が発表されます。

「東京五輪の延期が発表されたときは一つのモチベーションがなくなったというような、ちょっと心の中にポカっと穴が空いた感じがありました。でも、オランダリーグの終了が決まった頃には、すんなり受け入れられたし、自然な感じで来シーズンに向けて気持ちを切り替えられたので、まずはしっかり休もうと思った。2週間くらいは完全なオフをとり、そこから徐々にコンディションもモチベーションも上がってきているところです」

――自粛期間中を含め、どのようなことを意識してトレーニングしていましたか。

「まずはシーズン中にできないようなトレーニングを多めにしようと思っていたので、筋トレや器具を使ったトレーニングをいつもより取り入れた。あと、走り方やフォーム、ドリブルの仕方をシーズン中には大幅には変えないけど、そういう部分も少しずつですが、データに基づいてトレーニングを積めた。この期間だからこそできる変化だと思うので、変化を恐れずに自分の中でやれたと思う。帰国前の期間にはPSVのスタッフがいろいろと考えてくれて、コンディションを上げるというよりもボールに触ってチームの団結力を高めたり、サッカーから離れ過ぎずにリフレッシュしながらやろうというテーマでやれていたので良い時間を過ごせたし、日本に帰ってからは体をゆっくり休められたので、自分で言うのもあれですけど、うまく時間を使えたと思う」

――3月のオランダリーグ中断から約4か月、公式戦を行っていないし、今までのように自由にボールを蹴る機会も限られたと思います。この期間に自分にとってサッカーとは何かを改めて感じることはありましたか。

「正直、それがこの期間に自分が一番考えたことです。今、サッカー選手としていろいろな活動をさせてもらっている中で、ファン・サポーターの方にどうやって元気を与えられるのかを考えた。でも、サッカーができない状況で何を通して発信すればいいんだろうと思ったときに、何もなかった。そう感じたときに、サッカーを通して、スポーツを通して元気を与えられていたんだと改めて気付かせてもらえた。日本にいる間にプロ野球が開幕して、Jリーグが再開したのをテレビで見たけど、やっぱり楽しかった。スポーツが日常に戻ってくるのは大きなことだと感じたので、僕もピッチに戻ったら今まで以上の責任を持ってプレーしたい」

そういうシーズンやったと

自分の中で割り切るしかない

――昨シーズン、フローニンゲンからPSVに移籍した理由を改めて教えて下さい。

「まずはステップアップしたかった。オランダの中でしっかり活躍してビッグクラブに行きたい気持ちがあったので、そういう意味ではアヤックスとPSVを一つの目標にしていた。PSVに移籍するチャンスがきて、そこで活躍すればビッグクラブへの近道になると思ったので、その選択をしました」

――マルク・ファン・ボメル監督が率いていたシーズン序盤は先発出場を続けていましたが、シーズン途中に監督がエルネスト・ファベル氏に変わると出場機会を徐々に失ってしまいます。

「ファン・ボメル監督のときは、少し下がってキープをしてさばき、2列目から飛び出していく自分のプレースタイルがハマっていたけど、ファベル監督は足の速いアタッカーを重宝していたと思う。自分もアピールしないといけないと思っていたけど、それを覆せなかった。リーグやチームが変われば、選手が求められるものは変わるし、もちろん、監督が変われば変わる。監督が変わることで求められるものがこんなに変わるんだなと、改めて思い知らされたシーズンでした」

――出場機会をつかめていた序盤戦では結果を残せた試合もありました。自身の出来をどう振り返りますか。

「序盤は試合には出られていたけど、自分の中では一皮むけ切れないというのがあったし、ここではがすプレーがほしいとか、試行錯誤もしていた。チームメイトが変わり、自分の特長を理解してもらう時間も必要だったので、相手を知る、自分を知ってもらうことにも時間がかかったし、もっと監督に使ってもらえたらと思ったけど、それはただの言い訳になるので。だから、昨シーズンを本当にポジティブに考えると、監督が代わって外されたことで、いろいろと考える時間を作れたことは良かった。チームの中にいる、ただ一人の選手としてではなく、PSVの中でスペシャルな選手になるには何か違いを生み出さないといけないわけで、自分は何をすべきなのか、何がこのチームで突出しているのかなどを考えられた期間になったと思う」

――生き残っていくための武器を改めて口にすると、どの部分になりますか。

「左足でのパス、トラップ、ドリブル、シュート。一発はがしてドンと振り抜ける能力は海外の選手にも負けていないと思っているので、そこを極めていく。やっぱり、フローニンゲンの1年目に公式戦で10点取れた理由は、ゴールに飢えていた自分の性格がハマったからだと感じているので、そのとんがり具合は間違いなく変えたらダメだと思っています」

――ただ守備面ではポジショニングのうまさやボールを奪い切る力強さを見せられたと思います。

「なかなか調子が上がらなかったですからね。『調子が上がっていないときは守備を頑張れ』と小学生の時のコーチに言われたことを覚えているし、守備には不調はあまりないと感じているので、そこは意識して頑張ってガムシャラにやれました」

――中断前最後の試合となったフローニンゲン戦で8試合ぶりの先発出場を果たし、フル出場で完封勝利に貢献しています。シーズンの残りが10試合近くあったので、そこで挽回することも可能だったと思いますが。

「ただ、そこでリーグは終わったので。自分の中でそういうシーズンやったと割り切るしかない。良いときだけじゃないので、選手は。自分で何かを感じてトレーニングすることも必要だし、考えながら続けることはできています。これから同じような壁、似たような壁にぶつかっても何回でも乗り越えていけるようにしたい」

――オランダに渡って3年目で初めての苦しさを味わう中で、これまでとは違う成長は感じられましたか。

「紅白戦でもコンディションが上がっていたので、『なんで使ってくれないんだろう』と思っていたところはあった。でも、皆が言うことだけど、とにかく続けるしかない。続けて、チャンスをうかがい、チャンスが来たときにつかむ。そう自分にずっと言い聞かせてきたので、元々持っている部分だけど、そういうメンタルはさらに強くなったかもしれない。今は我慢強く自分が爆発するのを待つ期間。シーズンが始まって爆発する瞬間を待っている状況だと思う」

――オランダに来る前に描いた成長曲線と比較して、自身の現在地をどう捉えていますか。

「成長曲線で言うと、想定はもっと高いものだったので自分の想定以下だし、満足してしまえば自分はこれ以上、伸びしろがなくなってしまうので、もっとやらなければいけない。ただ、また必ず爆発できると思っています。新シーズンに期待してほしいので、そこは楽しみにしていてほしいです」

言葉にして自分を高めるタイプ

ビッグクラブに行くことが一つの目標

――今年の夏に賭けていた部分もあると思います。東京五輪が1年延期されたことで、モチベーションを維持する難しさもあるのでは?

「それはないですね。この1年間、自分がどういうスタイルで生活を送り、どういうトレーニングをして、サッカー、東京五輪に賭けてきたかを振り返ると、まだまだやれたと思うところもある。しっかりやれていた部分は継続してやるだけで、まだまだというところを改善しながら突き詰めてトレーニングしていきたい。五輪が延期になって一喜一憂して、何もしないまま一年間を過ごすのはもったいないので。あと、僕にはビッグクラブに行くという明確な目標があり、その中で五輪やW杯があると思うので、モチベーションを維持する難しさは感じません」

――思い描いているビッグクラブは?

「プレミアリーグでプレーしたいというのは、ずっと言ってきています。日本人があまり多く得点できないリーグになってきているので、そこでソン・フンミン(トッテナム)くらいバリバリ点を取れる日本人選手がでてきたら、より日本代表も強くなると思う」

――これまでも「一日でも早く海外に行きたい」など、目標を口にして達成し、「A代表として東京五輪」という言葉も実現させそうです。言葉の力を感じます。

「言葉にして自分を高めるタイプであるのは間違いない。だからこそ、小さい頃から言葉にして叶えてきています。シンプルにビッグクラブ、世界中の誰もが知っているようなビッグクラブに行くことを一つの目標に、これからもやっていきます」

――“相棒”となるPUMA「FUTURE」の履き心地を教えて下さい。

「履いた時にしっかり足に馴染んでくるし、履けば履くほど自分の足にフィットしてきます。それと、アッパーの部分が柔らかくてフィット感がすごく良い。大げさなことを言うと、靴紐を外してもフィットしている感覚なので、そのまま試合に出られるようなスパイクだと思っています。それにプラスして自分で靴紐を調整すれば、自分好みのフィット感にして試合ができるので、そこはすごく気に入っています」

――「NET FIT」システムによって、靴紐を自由に通して結べる部分のことですね。

「僕は人と同じスタイルが嫌なタイプなので、そこでちょっと変化を加えられるのは良い。変化に敏感な方はいろいろな場所に靴紐を通してトライできるし、『お前はそやけど、俺はこっち通してんねん』とか中学生や高校生はそういう話で盛り上がるんじゃないかなと思います」

――ご自身にとって、スパイクが与えてくれる影響とは?

「履いた瞬間から『今日はイケる』という自信を持てる瞬間があるし、ロッカールームからピッチに向かう瞬間にスパイクを見て気合いを入れたりしています。『FUTURE』は僕に自信を与えてくれるスパイクなので、その感覚はすごく大事にしている。早く新シーズンが始まって、このスパイクを履いて活躍している姿を見せられたら最高です」

――来季は東京五輪に続く1年となります。最後に新シーズンに向けての抱負をお願いします。

「いろいろな人が注目してくれて、期待してくれているのを感じている中で、自分の中では何も成し遂げていないと自分を評価しています。まずはしっかりPSVでシーズンを通して活躍しなければいけない。1年1年、毎年が勝負なので、去年よりも今年、昨日よりも今日と、自分が自分を追い込めるように、自分に厳しい人間になって新しいシーズンをやっていきます」

(取材・文 折戸岳彦)