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「明日には、日本中のテレビでこの映像が流されるだろう。昇格を決めた試合。オカザキ(岡崎慎司)の記念碑的なスーパーヒールシュートだ!」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』は、Webサイトのニュース記事にその映像を付け、そう見出しを打っている。

 7月17日、リーガエスパニョーラ第41節。ウエスカは本拠地エル・アルコラスにヌマンシアを迎え、岡崎の得点などで3−1と下している。この勝利で、自動昇格圏の2位以内が確定。昨シーズン、1部から降格したが、1年で戻ることが決まった。

 1部昇格を自らのゴールで祝した岡崎慎司(34歳)のスペイン挑戦1年目とは――。


ヌマンシア戦で追加点を決め、昇格を決定づけた岡崎慎司(ウエスカ)

 岡崎はウエスカのエースとして、昇格の決め手になっている。36試合出場、12得点。チーム得点王で、数字も文句なしだ。

 昇格を決めたヌマンシア戦のゴールは、その真骨頂だった。

 77分、右サイドに出たパスに走り込んだ味方FWラファ・ミルとの呼吸を合わせる。岡崎自身もゴールへ向かって走りながら、一度ファーに逃げるような動作で敵の裏をとる。そして一瞬で、ニアサイドにスペースを見つけ出す。折り返してきたボールは体の後方に流れたが、体を柔らかく畳み込んで右足のかかとに当て、コースを変えてネットを揺らした。

「Listeza」(利発さ、鋭敏さ)

 岡崎の特徴は、スペインではしばしばそう語られる。ゴールに向かって、明快なプレーができる。サッカーは人とボールが絶え間なく動き、スペースが広がったり、狭くなったりするスポーツだが、その中で正しい選択ができる。味方の癖を見抜き、敵の弱点をついて、空間を正しいタイミングで動くことができる。準備の時点で、ほとんど勝利=ゴールしているのだ。

 しかし、岡崎はエゴイストではない。周りの選手のよさを引き出すことができる。日本では「がむしゃら」「泥臭い」「献身的」と括られるが、スペインの識者の間では、表現は「スマート」「賢い」「美しい」と語られる。その利発さによって、どんなチームでも、どんなチームメイトとも呼吸を合わせられるのだ。

 今シーズン、岡崎はイングランドプレミアリーグのレスターからマラガに移籍したが、開幕後に登録不可能であることが判明した。緊急的に、ウエスカに再び移籍することになった。そのハンデは想像以上だったと言えるだろう。プレシーズンを過ごしたチームはひとつの形を作っているはずで、外から突然やって来た選手に対する抵抗もある。

 ところが、岡崎はそこに素早く適応したのだ。

 利発さによる適応力。それが、岡崎がスペイン1年目で成功した理由と言えるだろう。

 今シーズンの岡崎のゴールは、クロスに合わせてのヘディングシュートやボレーがほとんどだった。味方とコミュニケーションを取って、そこにボールを呼び込めていた。来たボールをヒットする技術も高いが、それ以上に”味方に愛される”という状況を作り出せていたのだ。

「岡崎のプレーのクオリティは高い」

 ウエスカの選手たちがそう言って信頼するのは、必然だろう。コンビネーションプレーは、戦いを続ける中で最大限に高まっていた。その点、岡崎はスペインサッカー向きだったのかもしれない。

「今シーズン、岡崎の存在は1部昇格において決定的だった。ゴールで貢献しただけではない。静かだが、計り知れない仕事をした」

 スペイン大手スポーツ紙『マルカ』は、岡崎の仕事ぶりを絶賛している。ボールを引き出し、スペースを作り、プレッシングを行ない、リトリートした時の先手となった。味方を生かし、自らも生きる、戦術的役割の精度は特筆に値した。

 岡崎は、リーガ1部の選手になるに値する戦いをやってのけたと言えるだろう。

 ポジションをつかむこと自体、容易ではなかったはずだ。開幕前はレアル・マドリードで得点も記録していた若手FWクリスト・ゴンサレスが先発候補だったが、それを奪い取っている。そしてシーズンを通して主力として戦い、1部昇格を成し遂げた初めての日本人選手となった。VARで7得点も取り消される不運に遭いながらも、雄々しく戦い抜いたのだ。

 2020−21シーズン、岡崎は念願の1部の舞台に立つことになるだろう。ウエスカとは1年契約だが、「昇格した場合は更新する」とのオプションが付いていると言われている。