瀬戸健社長率いるライザップの足元で、いったい何が起きているのだろうか(撮影:尾形文繁)

外部より招聘した経営指南役が在任期間1年足らずで会社に三くだり半を突きつけた。しかも2人同時に――。

そんな異例の事態がRIZAPグループ(ライザップ)で進行している。

ライザップは6月末の定時株主総会後に予定する新経営体制を3月19日に発表した。同社は2016年ごろから加速させたM&A(合併・買収)攻勢が行き詰まり、買収した子会社群の再建を中心とする構造改革に2018年11月から着手。新しい経営体制のもと、今年4月以降を「構造改革の最終段階」にして成長路線に舵を切っていく考えだ。

社外取締役2人の名前はなかった

だが、新経営陣のリストの中に社外取締役の中井戸信英氏(73歳)と望月愛子氏(40歳)の名前はない。2人は2019年6月に同社の社外取締役に就任したが、発表文には「3月13日付で(2人から)当社取締役を辞任したい旨の申し出があり、同日付けでこれらの申し出を受理いたしました」とだけ記されている。


任期満了を待たず辞任した中井戸氏と望月氏(RIZAPグループのホームページより、現在は変更済み)

中井戸氏は、住友商事で副社長を務めた後にシステム開発会社のSCSKで社長・会長を歴任し、同社の働き方改革を進めたことで知られる。一方の望月氏は、経営コンサルティング会社「経営共創基盤」のマネージングディレクターで、企業再建などに関わってきた経験を持つ。

2人が6月の取締役の任期満了を待たずに辞任したのなぜか。ライザップ広報部は「構造改革の進め方で(創業者である瀬戸健社長(41歳)をはじめとする経営陣と)意見の相違が起きていた」と説明する。

辞任の理由となった「構造改革の進め方」とは何なのか。ライザップは「戦略上の問題で詳細は申し上げられない」としつつ、次のように回答した。

「従来の取締役会の構成では、社外と社内の取締役のバランスが悪いため意思決定のスピードが遅れるという側面もあり、コロナショックという非常事態の中、足元で緊急的に対応すべき経営判断についての意見のやり取りの中で見解の相違も生まれた」

望月氏は「会社側の説明は事実ではない」

コメントにある「社外と社内の取締役のバランス」とは、次のようなことを指す。

ライザップは2019年6月、監督機能の強化を理由に12人だった取締役の数を6人に減らした。これに伴い、社内取締役と社外取締役の比率は、従前の「社内9、社外3」から「社内1、社外5」に大きく変わった。

しかし、社外取締役比率が高まることで意思決定のスピードが遅れるのは、ある意味当然のこと。となると、会社側が説明する辞任理由は「新型コロナウイルスが感染拡大するという経営環境下で見解の相違が生まれたからだ」と要約できる。

東洋経済の取材に対し、3月25日までに中井戸氏からの回答はなかったが、望月氏は「会社側の説明は事実ではない」と完全否定。「私の辞任理由については、辞任届に記載して会社(ライザップ)に提出しておりますので、会社にご確認ください」とコメントした。

これに対し、ライザップは「辞任届の内容は非開示。望月氏とは認識の違いが生じている」とだけ述べた。

まさに真相はやぶの中だが、コロナショックとは関係なく、「対応すべき経営判断」をめぐって、瀬戸社長と社外取締役2人の間で意見の相違が起きていた可能性は指摘できる。

『ライザップ、新型肺炎で「経営再建」に漂う暗雲』で報じたように、現在の同社はボディメイクジムやゴルフスクールなどの本業が芳しくなく、銀行借り入れの返済原資となるキャッシュの創出力が鈍っている。サンケイリビング新聞社など未上場子会社での赤字も続いている。

そのため不振事業や赤字子会社の整理、さらには子会社が保有する有価証券などの換金売りを銀行から迫られている。2人の社外取締役はそれらの早期売却を促していたとみられる一方、瀬戸社長は赤字子会社を売るにしても売却益を出すことに固執していたようだ。

中井戸氏の「三くだり半」をどう受け止めるか

振り返れば、2019年6月の中井戸氏と望月氏の就任時、入れ替わるように在任1年で取締役を退任したのが元カルビー会長兼CEOの松本晃氏だった。


元カルビー会長兼CEOの松本晃取締役(右)は、ライザップの問題点を看破していた。写真は2019年5月の決算会見(撮影:尾形文繁)

松本氏は、ライザップの買収戦略の問題点を看破し新規買収をなお進めようとしていた瀬戸社長にストップをかけた功績がある。

社内取締役にもかかわらず評論家然とした態度だった点については賛否両論あるが、ライザップの経営から一定の距離感を保っていたからこそ、取締役退任後にライザップの特別顧問に納まり、「別れた後もよい関係」をアピールできた。

一方、同じ経営者出身の中井戸氏は、社外取締役ではあったものの「ガバナンスの監督機能を生かすには業務の執行はしなくても、その会社の業務を肌感覚で理解していないといけない」という持論を持っていた。そこで週3回は出社して取締役会議長も務めるなど、「準常勤」の立場でライザップに関わり、経営中枢の実態を見た。

その中井戸氏が今回、ライザップに事実上の「三くだり半」を突きつけた。この事実はライザップにとって決して軽くはない影響を与えるはずだ。