中日・柳裕也【写真:荒川祐史】

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今季チーム最多の11勝、成長を促したのは「次期エースの筆頭格」「一家の大黒柱」

 公私とも抜群の1年だった。中日・柳裕也投手はプロ3年目の今季、チーム最多の11勝を挙げて一躍ブレーク。プライベートでも3歳下の真子さんと結婚し、今月には第1子となる男児も誕生した。成長を促したのは「次期エースの筆頭格」と「一家の大黒柱」という2つの立場を担う自覚。その背景には、大炎上のマウンドで痛感した未熟さと、特別な日を結婚記念日に選んだ家族愛があった。

 ナゴヤドームのマウンドで、感情のたがが外れた。5月4日のヤクルト戦。5回につかまり、1イニングで7失点。思い通りにならない球はことごとくバットで捉えられ、野手の拙守も重なった。思わず18.44メートル先にいる2歳上の加藤匠馬捕手に向かい「早く(ボール)よこせ!」と苛立ちをぶつけた。普段から人一倍慕っている先輩だったからこそ出てしまった言動だが、空気は最悪だった。結局、6イニングで10安打8失点。今季の初黒星だった。

 その3日後。同じナゴヤドームでの広島戦で、柳は投手の姿がよく見えるスコアラー室に入れてもらって試合を見た。先発を任された大野雄大は、圧巻の3安打完封。さらにその翌日には、広島の大瀬良大地が中日打線に対して2失点完投勝利を挙げた。そんな2人の姿に見出した共通点。「表情変えず淡々と投げていきながら、要所になると気持ちとギアを入れ直して決める。自分との違いでした」と痛感した。

 エースという重責を担う投手たちには備わった力。「やっぱり感情のコントロールができないと、ただ投げるだけじゃ勝っていけない」。マウンドでの平常心だけでなく、柳は試合に入る準備段階から見つめ直した。次の登板までの1週間、ただ決められた調整をするのではなく、ギリギリまで体を追い込む。それがマウンドに上がる際の自信につながり、心に余裕を生んだ。5月下旬から6連勝するなどシーズン通してローテを守り、11勝7敗の成績につながった。

結婚記念日は小学6年の時に交通事故で亡くなった父・博美さんの命日

 春から夏にかけて白星を積み上げていた最中、私生活でも大きな節目を迎えていた。5月下旬、1年半ほど前に知り合った真子さんにプロポーズ。すぐさま二つ返事をもらった。結婚記念日として提案したのは、8月20日。それは、小学6年の時に交通事故で亡くなった父・博美さんの命日だった。

 奇しくもその日は真子さんの父の誕生日でもあるという巡り合わせ。真子さんは当初「裕也にとっては悲しい日なのに…」と気遣ったが、柳は愛妻に言った。「今までは寂しい日だったけど、これからは家族にとっていい日にしていきたい」。婚姻届を提出した後、2人で夏空に向かって「これからもよろしくお願いします」と報告。女手ひとつで柳を育ててきた母の薫さんも、結婚の知らせに「嬉しい日だなと初めて思えた8月20日でした」と温かい思いに浸った。

 ウイニングボールを帰宅後に愛妻に渡し、テレビの棚に並べてもらうのが新婚夫婦の決まり事。「来年もそれをどんどん増やしていけるように」。今月4日には、第1子となる男児が誕生。3人家族になった。愛息を抱き、初めて芽生えた感情もある。「人生が変わるというか、自分の子どもは世界一。どんなことでもできると思います。月並みな言葉ですが、もう1人じゃない。守っていかなきゃいけないものがある」

 来季は、自球団には期待され、他球団には研究される。「11勝をベースに見られるようになる」。竜のエースの座を担っていかなければいけない立場にいることも自任している。今季最優秀防御率のタイトルを獲得した大野、自主トレで弟子入りする吉見一起、そして今季までの2年間同じユニホームを着た憧れの松坂大輔……。そんな先輩たちと同じ道を歩んでいけるように「来年はもっと最高の1年にします」。人生のピークは、まだまだ先にある。(小西亮 / Ryo Konishi)