こうした状態が続くと骨や関節、神経といった筋肉以外の運動器も弱ってしまい、ロコモティブシンドローム(運動器症候群)を招いたりする。健康状態が要介護に近づく要因にもなるので、食事や運動など、生活習慣から変えていかなければならない。

★運動と食事に気をつける

 ふくらはぎの衰えは、座りっぱなしや末梢神経の減少、粗食で生じやすい。そのため、こまめな運動と、肉や魚、卵といったタンパク質の摂取が不可欠だ。

 「体内ではタンパク質の合成と分解が常に行われており、これが筋肉量の維持につながっています。筋肉をよく動かすことで合成と分解は活性化し、逆に動かさないと合成が滞り、分解だけ進んで筋肉量が減ってしまいます」(齊藤先生)

 例えば、座りっぱなしで体をあまり動かさなかったり、歩く機会が少ない人は、筋肉の合成ができなくなり、ふくらはぎも細くなってしまう。また、60歳をすぎると運動神経の末梢神経が減少し、筋肉が萎縮して素早く動きにくくなる。そのため、「歩いて行けるような場所なら車は利用しない」「家の中にいる時も掃除や洗濯を積極的に行う」など、日頃からこまめに体を動かす必要があるのだ。

 また、高齢になると食が細くなって粗食になりがちだが、これも栄養が偏り、タンパク質不足を招く恐れがある。

 「食物に含まれるタンパク質は体内でアミノ酸に分解され、その後に『筋肉タンパク』として合成されます。アミノ酸は食物によって組成が異なり、体内でそれぞれ違った働きをします。筋肉の合成や修復にかかわっているのは必須アミノ酸のロイシン、イソロイシン、バリンの3種類で、これらはまとめて『BCAA』といいます。不足すると筋肉を作ることができないので、赤身の肉やレバー、卵、大豆製品、牛乳、マグロやカツオといった赤身の魚など、BCAAを多く含む食材を毎日の食事に取り入れていきましょう」(齊藤先生)

 ふくらはぎの衰えは、急に起こるものではない。日頃の生活が大きくかかわってくるので、セルフチェックやこまめな運動、タンパク質を意識した食生活を日々心がけよう。

◉必須アミノ酸BCAAを豊富に含む食材
*赤身の肉やレバー *卵 *牛乳 *マグロ・カツオなどの赤身の魚 *豆腐・豆乳・みそ・おからなどの大豆製品など

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監修/齊藤嘉美先生
医学博士。成和会介護老人保健施設「むくげのいえ」施設長。東京大学医学部講師、文京第一医院院長などを経て、現職。『栄養+運動で筋肉減少症に勝つ―高齢者の転倒・骨折・寝たきりを防ぐ』(ペガサス)など著書、多数。