安倍首相が写った自民党のポスター(記事中の事件と直接の関係はありません。2019年2月、時事)

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 安倍晋三首相が写ったポスターをペーパーナイフで切りつけたとして、80歳の男性が11月14日、器物損壊容疑で兵庫県警に現行犯逮捕されました。ポスターは神戸市内の駐車場のフェンスに張ってあったもので、男性は「桜を見る会」を巡る一連の報道を見て首相に憤りを感じていたと供述したようですが、ネット上では「ポスターを切っただけで逮捕されるの?」「安倍首相のポスターだから?」「80歳の老人を逮捕しなくても…」といった声が上がっています。

 街頭などのポスターに切りつけることの法的問題と逮捕の必要性について、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

選挙用ポスターなら罪は重く…

Q.駐車場のフェンスや街頭に張ってあるポスターをナイフなどで切る行為は、どのような罪になりますか。

牧野さん「器物損壊罪(刑法261条、3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料)に当たります」

Q.ポスターの種類によって罪が変わることがありますか。

牧野さん「選挙用のポスターの場合、公選法の『選挙の自由妨害罪』に当たり、罪が重くなります。公選法225条1項には『選挙に関し、次の各号に掲げる行為をした者は、4年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金に処する』とあり、各号のうちの第2号で『交通もしくは集会の便を妨げ、演説を妨害し、または文書図画を毀棄(きき)し、その他偽計詐術等不正の方法をもつて選挙の自由を妨害したとき』を挙げています。選挙用ポスターを切る行為は『文書図画の毀棄』に該当します」

Q.ポスター、特に人物写真のポスターに画びょうを刺したり、ペンでいたずら書きをしたりする人がいます。これも罪に問われるのでしょうか。

牧野さん「切りつけた場合と同様、通常のポスターであれば器物損壊罪、選挙用ポスターであれば公選法違反に問われる可能性があります」

Q.ポスターに写っている人物によって、逮捕の有無が変わるということがあり得るのでしょうか。

牧野さん「逮捕の有無自体は変わらないでしょうが、逮捕前の状況を考えると、政治家や著名人のポスターの場合、社会への影響を考慮して警察の警戒の度合いが変わることはあるかもしれません」

Q.今回、犯行を認めている80歳の男性を逮捕したことで、「こんなことで逮捕されるのか」という声もあります。高齢で、犯行自体も認めている容疑者の逮捕の必要性は、どう判断されるのでしょうか。

牧野さん「犯行を認めているからといって、逮捕されないということはありません。逃亡や証拠隠滅の恐れの有無や取り調べへの対応なども考慮して、逮捕の必要性は判断されます。例えば、東京・池袋の暴走死傷事故では、容疑者の80代男性は逮捕されませんでした。これは、本人も重傷を負って入院治療の必要があり、取り調べに耐えられないこと、逃亡や証拠隠滅の恐れのないことが理由だったとみられます」

Q.ポスター関連での逮捕事例を教えてください。

牧野さん「2015年9月18日、東京都町田市の駐車場脇の外壁に張ってあった安倍首相のポスターの口の上に、油性の黒ペンで、ひげのようなものを落書きしていた71歳の男性が器物損壊容疑で現行犯逮捕されました。警戒していた警察官による逮捕でした。

これが選挙用のポスターであれば、より罪の重い公選法の『選挙の自由妨害罪』になります。実例として2014年12月7日、千葉県内で衆院選の候補者ポスターをカッターナイフで切ったとして、公選法違反(選挙の自由妨害罪)容疑で、中国籍の女性(78)が逮捕されました」

 兵庫県警垂水署によると、首相のポスターを切った80歳の男性は既に釈放され、任意で捜査を継続しているとのことです。