鷹・千賀の西武打線を幻惑した“魔術” 8回無失点の好投に隠された1球ごとの変化
第3戦に先発し、強打の西武打線を8回2安打無失点に封じた千賀
■ソフトバンク 9-3 西武(CS・13日・メットライフ)
3年連続で日本シリーズ進出を果たしたソフトバンク。13日に行われた西武とのクライマックスシリーズ第4戦を9-3で勝利し、パ・リーグ史上初となる第1戦からの4連勝で、一気にファイナルステージ突破を決めた。
このファイナルステージで、日本シリーズ進出を大きく手繰り寄せるピッチングを見せたのが、ソフトバンクのエースである千賀滉大投手だった。第3戦に先発すると、強打の西武打線をほぼ完璧にねじ伏せた。
初回先頭の秋山に安打を許したが、そこから8回2死で源田に内野安打を許すまで、ノーヒットピッチング。実に27打者連続で無安打という快投を演じ、8回を投げて2安打無失点と好投した。連投が続いていたリリーフ陣にも、有言実行で休養を与え、第4戦に繋げた。
この日の千賀は武器の真っ直ぐとフォークに加えて、カットボールが絶大な威力を発揮した。テンポ良くストライクを先行させ、そしてアウトを積み重ねていった。そんな千賀の姿を見ていて、少しばかりの違和感を感じる場面があった。何かがいつもと違う…。左手のグラブの使い方に変化を感じる場面があったのだ。
試合後、千賀にそれについて問うてみると、意外な答えが返ってきた。「変えてましたね。余裕はある時はですけど、ほぼ1球ごとに(フォームを)変えていました。同じ投げ方ではほとんど投げていないんじゃないかな」。左手の使い方だけではない。この日、千賀は左手の使い方や足の上げ方、そして投球リズムなどを少しずつ変化させ、相手との間を変え、相手からの見え方を変えていたのだという。
キッカケは京都遠征中の練習で柳田らからもらった助言
キッカケは8月下旬、京都で予定されていたオリックス戦が中止になった頃だったという。室内練習場のブルペンで投球練習を行っていた時、柳田悠岐や福田秀平らに打席に立ってもらう機会があった。この時に柳田らから「どんないい投手でも何回も対戦していると、同じリズムだと打ちやすくなる。マシンと一緒。少し変えるだけで打ちづらくなる」と助言を受けた。
その後からレギュラーシーズン中でも変化を加えることに意識的に取り組んできたという。「1、2、3だったり、1、2、の、3だったり、1、3だったり」。少しずつ自分の中で感覚を掴んだ。こちらからすると、試合中にフォームを変えることは難しいのでは? フォームを崩しかねないのでは? そんな心配を抱きたくもなるが、それをよそに千賀は「意外にできるもんですよ」とあっけらかん。そして、勝てば日本シリーズ進出に王手をかける大一番で「それがハマりました」と言った。
今季、千賀はレギュラーシーズンで5度、西武と対戦した。8月17日の対戦では1イニングで9失点を喫したこともある。千賀が柳田らから助言を受けたのは、このすぐ後だ。西武打線の怖さはイヤというほど感じており、この日も「一瞬でも気を抜いたら、一気に5、6点取られる打線」と警戒して臨んでいた。
その中で西武打線を封じる1つの策として、少しずつフォームやリズムを変化させ、打者を幻惑した。見ているだけでは、ほとんど気付けないような変化だが、「自分の中では全然違う」という。工藤公康監督が「最高のピッチング。これ以上ない」と絶賛した千賀のピッチングには、こんな秘密が隠されていた。(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)