過食と血糖値・ホルモンの関係について解説しています(写真:tomos/PIXTA)

「少しだけ食べたい!」

でも、お菓子の袋を開けたら食べるのが止まらず、結局は最後まで全部食べてしまい自己嫌悪に陥る……なんてこと、ありませんか?

「ただおいしいから」「ただお腹が空いていたから」。もちろん、そういうときもあるでしょう。でも、いつもなら「このくらいで止めておこう」と自分でコントロールできるのに、できないときってありますよね。

「食べるのが止まらない」ときには、頭ではこんなに食べたらダメとわかっていても、なかなか自分の意志ではコントロールが利かないものです。こんなとき、「意思が弱い」などと思ったりしがちですが、自分ではどうにもならない体の構造が関係している可能性があります。

スイッチが入る感覚

こんなとき「スイッチが入る」ような感覚になると言う方が多くいらっしゃいます。皆さんも多かれ少なかれ、そのような感覚を感じた経験がおありでしょうか。実は、このような状態、つまり「スイッチが入る」感覚には、理屈が考えられます。

その理屈とは、単なる理性の問題だけではなく、血糖値とホルモンが関与している可能性があるということです。ホルモンが関与しているとなれば、自分の意志でコントロールできないのは当然です。それでは、血糖値とホルモンについて、お話をしていきましょう。

皆さん、「血糖値」をご存じでしょうか? 「血糖値」は、私たちの体内を流れる血液中のブドウ糖の濃度のことで、ヒトが命を維持するために必要なエネルギーの源です。ヒトが安定してエネルギーを生み出すためには、血糖値は空腹時でつねに約80〜100(単位:mg/dl、以下略)を必要としています。

血糖値は、糖質を含んだ食事をすると変動します。正常な血糖値の変動は、下記のグラフ(黒線)のとおり食後40分くらいでおよそ150弱まで上昇し、その後50分くらいをかけて緩やかに80〜100に戻ります。その血糖値の変動をコントロールしているのが、さまざまなホルモンです。血糖値を下げるホルモンが1種類、上げるホルモンは5種類以上が知られています。


(出所)筆者作成

過食してしまうときの血糖値は?

このような血糖値の変動であれば、関係するホルモンの量も通常程度で済み、お腹が空いても正常に空腹感を感じることができ、満腹感を感じます。ですから、食べすぎたり、食べるのが止まらなくなったりする状態にはならない可能性が考えられます。

その一方で、グラフ内の赤線は過食してしまう可能性のある血糖値の変動です。正常時(黒線)と比較していただくと、一目瞭然です。過食してしまうとき、またはスイッチが入って食べるのが止まらない場合では、血糖値が大きく上昇し、その後急激に低下し、80〜100を大きく下回っていることがあります。

ある程度の個人差はありますが、空腹時の血糖値はだいたい80〜100に維持できれば問題ありません。しかし、これよりも下がってしまった場合には血糖値を上げるためにさまざまなホルモンが分泌されます。

前述したように血糖値を上げるホルモンは全部で5種類以上あります。これらのホルモンは通常量出ることでは問題は起こりませんが、低血糖などによって一気に分泌されてしまうと、悪さをする可能性が出ます。例えば、アドレナリンが出すぎてしまう場合、攻撃性が高まるといわれます。おなかが空いてイライラする人は、もしかしたらアドレナリンが出すぎてしまっているのかもしれません。

他方、血糖値を下げるホルモンはインスリン1種類のみです。幼い頃から1日3食糖質の多い主食を食べ、甘いものを食べ、ジュースを飲み、そうすることでインスリンを出してくれる膵臓が疲弊してしまうことがあります。

そして必要以上にインスリンが出てしまったり、出なくていいときにインスリンが出てしまったりして、結果としてこのような急激な血糖値の低下を招くことがあります(この血糖値が下がり過ぎた状態を低血糖と呼びます)。

素早く血糖値を上げる食べ物は糖質しかありませんから、低血糖になると異常に甘い物が食べたくなります。これは低血糖状態に陥り血糖値を素早く上げようとするホルモンの作用による可能性があります。そんなときに、自分の意志で食べることをコントロールなどできるわけがありません。

血糖値が下がりすぎるのも問題

血糖値が高すぎることが問題なのはよく知られていますが、血糖値が下がりすぎてしまうことも、同様に問題です。下がりすぎると体にとても大きな負担がかかり、異常な空腹感覚や過食欲求が出てきます。低血糖状態が続くと、最悪、昏睡状態に陥るなど命に危険が及ぶこともあります。

そして血糖値がどの程度まで下がるかについては、個人差が非常に大きいところです。血糖値の低下がそれほど大きくなければ、過食衝動やそれに伴う異常行動や症状もそれほど酷くないかもしれません。しかし、人によっては血糖値が50を切る方もいらっしゃいますから、本人も周りも大変です。

そしてこの症状は女性の生理前の過食衝動にも関係する可能性が考えられます。女性の体はホルモンに左右されており、月経から排卵日まではエストロゲンの分泌が優位ですが、排卵日から月経前の期間はプロゲステロン分泌が優位になります。

この女性ホルモンのプロゲステロンがインスリン抵抗性(インスリンが効きにくくなる状態)を上げ、血糖値が大きく変動しやすくなるため、とくに月経前になると無性に甘いものが食べたくなったり、食べるのが止まらなくなったりする可能性があります。

また、いわゆるストレスも血糖値を上げるホルモンの分泌を促すことなどによってインスリン抵抗性を上げ、低血糖状態を引き起こします。よくストレス解消のために過食することがありますが、これもまた低血糖と無関係ではありません。

ですので、血糖値はできるだけ安定させておくことが重要です。血糖値が緩やかに上がれば緩やかに下がり、下がっても約80〜100のあたりをうろちょろするだけで済みます。

「過食のスイッチが入ってしまった」とわかったとしても、ご自分の意志ではどうにもならないと皆さんおっしゃいます。ですので、繰り返しになりますが、「スイッチが入らない」ように血糖値の安定を目指した食事を普段から心掛けることが重要です。

食べ方で注意すべきこと

そのための食べ方として大事なのは野菜・肉・魚などを先に食べ、パンや麺類、ご飯などの炭水化物はできるだけ後のほうで摂りましょう。そうすれば血糖値を緩やかに上げることができ、過度な低血糖が起こりにくくなります。早食いを避け、ゆっくり噛んで食べるのも大事です。

また、食事の間隔が空きすぎないように適度に間食を摂るとよいでしょう。ただし、甘いお菓子、スナック類、ジュースやアイスなどは血糖値を急激に上げてしまう恐れがあるためできるだけ避けて、ナッツなどの血糖値を上げにくいものを選ぶとよいでしょう。ほかには、過剰なストレス下でも血糖値は変動することがわかっているため、ストレスマネジメントも大切です。表の「低血糖の一般的な症状」に心当たりがある方は、このような血糖コントロールを始めるとよいでしょう。


(出所)筆者作成

平成28(2016)年「国民健康・栄養調査」によれば、糖尿病有病者と糖尿病予備群は、いずれも約1000万人と推計されています。ということは、知らず知らずのうちに、その前段階と思われるインスリン抵抗性の人が増加していることも推測されます。

つまり、もし食べすぎることにインスリン抵抗性が関わっているとしたら、ついつい食べすぎてしまうことが、将来、糖尿病につながってしまう可能性も考えられます。

からだの健康のため、血糖値が安定するような食べ方を、皆さんぜひ普段から心掛けてみてください。

【参考文献】1. Brian M. Frier et.al., Hypoglycaemia in Clinical Diabetes 3rd Edition, 2013, Wiley-Blackwell 2. 金津一郎他, 今日の診断指針第7版,2015,医学書院 3. Jean-François Yale et.al., Can J Diabetes 42, 2018, S104-S108 ほか7件