向井理 撮影/齋藤周造

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 俳優生活14年目。これまでドラマ、映画で数多くの話題作に出演し、人気俳優としてスター街道を歩んできた向井理さん。多忙な中で演技者として大切に取り組んできたのが、「修行だと思っている」という舞台。7月11日からは、熱狂的なファンを持つ劇作家・赤堀雅秋の新作舞台『美しく青く』に主演する。稽古に入る前の向井さんに、念願だった赤堀作品に初参加する気持ちや舞台に出演する理由、演じることなどについて、率直な思いを聞いた。

赤堀さんのリアルな
世界観が好きです

「赤堀さんの作品を最初に見たのはスズナリで上演された『葛城事件』だったと思います。それから観客としてずっと見てきて、赤堀さんの作り出すリアルな世界観が好きです。日常を描いていく中で何かちょっと歯車がズレて、それで人間関係が破綻して。その生々しさと、崩壊したときに出てくる本性とか、抑えていた感情が爆発する瞬間を繊細に描いている会話劇で。人の不幸は……じゃないですけど、そういう傷ついて奔走してる人って、滑稽な面白さもあるし、共感できるところもどこかあったりして。日常の延長線上にある非日常が見ていて面白いと思いますね。

【写真】「もうアラフォーですよ」と向井理

 でも、そういう舞台に出る側はやっぱり大変で、僕も経験がありますけど、すごくきつくて、うなされたり(笑)。見るのとやるのとでは、こんなに違うものかっていうぐらい。動物園の檻の中に入るような気持ちですから、単純に楽しみだなっていう感じではないです。ハードルが高いぶん、千秋楽を迎えたときにどういう景色が見えるのかなという期待はありますね」

 うなされるほど大変な舞台の仕事を続ける理由を尋ねると。

「楽に宝くじ当ててるほうがいいんでしょうけど、そういうタイプでもないし(笑)。僕は舞台俳優ではないので、1年に1本舞台ができればいいなと思っていて。年に何本もできないぶん、1本にかける思いは自分の中ではすごく大きいです。でも、舞台に出ることが好きかと言われると、断言できないところもあって。大変なのも知っているし、緊張感とか、生ものなのでハプニングがつきものだっていうのもわかっています。でも、それでしかわからないものとか、見えないものもたくさんあるのが舞台だと思っているので、やりたいというよりはやらなきゃいけないって思いが強い。

 だから、やるからには大変なもののほうが今はいいと思っていて。いつか楽になるかもしれないと思いながら、毎回、修行の気持ちで稽古場に行ってます。今回も、そういう意味では、すごくハードルが高い作品だと思いますし、これを乗り越えたときに、少しは成長してるんじゃないかなという思いです」

 市井の人々の機微を丁寧に描く独特の世界観は赤堀ワールドと称され、その舞台は常に注目を集めている。今作は2年ぶりの新作。

「(※取材時は脚本完成前)赤堀さんがどういう世界を作ってくるのか楽しみでもありつつ、でも結局は、見てくださる方たちの喜怒哀楽だったり感情をいい意味でどれだけ傷つけていけるかだと思うんですね。単純に面白かったねだと、あんまり残らない気がして。笑っちゃいけないけど笑っちゃうとか、ブラックユーモアなところもあるかもしれないですし、舞台の上で自分たちが、どれだけ傷つくかっていうことで表現するしかないと思う。記憶に残る舞台にしたいですね」

普通を描くことは
本当に難しい

 赤堀作品に登場するような普通の人々を演じることは、難しいと感じているそうで。

「あんまり普通に思われないんですよね。だからいろんなことを捨てていこうとしても捨てられない。外見だったり身長や体重とか変えられないものってあるじゃないですか。そのパブリックイメージがあることで、役者をやってるうえでは損してるなと思うことのほうが多いです。そういうコンプレックスも実はあるんですけど。生まれもったものだからしょうがないんですが、説得力のある普通を描くってことは、本当に難しいと思います」

 20代後半は、「ほとんど記憶にない」くらいの忙しさだったと振り返る。

「年間10日くらいしか休みがないときもありましたけど、そういうことって経験したくてもできないですから、ありがたかったなと思うし、そのときについた体力はまだ残っていると思うんですよね。だから、どれだけセリフが多くても、そんなに気にならないですし。それはやっぱり、あのころに比べたらっていうのがどこかにあって。たぶん、乗り越えたっていうのが自信になっているんですよね。その経験があるから、今があると思いますし。あの時代のおかげで、面の皮は厚くなった気がしますね(笑)」

 30代後半を迎え、役者として興味があることは?

「もうアラフォーですよ(笑)。そんなに長いキャリアではないですが、14年間いろいろな作品を経験させていただいてきましたけど、常に刺激は欲しいなって思います。今作もそうですが意外だって思われるものをやりたいですね。厳しい作品に挑戦して新しい引き出しを増やしていきたいです。

 もうひとつ本業とは別のところで興味があるのは、自分にしかできない旅のドキュメンタリーを作っていきたいと思っています。2018年に、自分から企画を提案してブータンに行ったんですけど。観光では行かないようなところを見て聞いて紹介することで、平和である日本のよさや日本人のアイデンティティーを再確認してもらえるんじゃないかと思うんです」

Bunkamura30周年記念
シアターコクーン・オンレパートリー2019
『美しく青く』
作・演出/赤堀雅秋 震災から8年たった、とある田舎の集落。住人たちはそれぞれに日常を取り戻し、平穏に暮らしていたが、エサを求めて人里に下りてくる猿の獣害に悩まされていた。青木保(向井理)は、その対策のために自警団を結成し、そのリーダーとして活動するが……。市井の人々の日常を独特の視線で描く赤堀流ネオヒューマンドラマ。
◆東京公演:7月11日〜28日@Bunkamuraシアターコクーン
◆大阪公演:8月1日〜3日@森ノ宮ピロティホール
【お問い合わせ】(www.bunkamura.co.jp)

むかい・おさむ◎1982年2月7日生まれ。神奈川県出身。2006年にドラマ『白夜行』で俳優デビュー。以降、テレビドラマ、映画で多くの話題作に出演。『星回帰線』、劇団☆新感線『髑髏城の七人』Season風など、舞台作品にも多数出演している。現在、映画『ザ・ファブル』公開中。映画『引っ越し大名!』が8月30日公開予定。

<取材・文/井ノ口裕子>