就職して始めて、社会や仕事の実態がわかることがある(写真:xiangtao/PIXTA)

筆者は20代向けに就活や転職のサポートをしている。この仕事を始めた当初から「新卒入社が3年で3割辞める」という企業の課題を解消するために、キャリアカウンセリングを通じて、「入社後のキャリアプラン設計」や、「短期離職につながるマインド矯正」「社会ニーズを軸にした職業選択」といったことを重視し、20代の求職者たちに伝えてきた。


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このような入社後の離職率を下げる取り組みを続けたことで、私がサポートした求職者は、入社後の離職率を平均より5%程度に下げることができた。しかし、世の中の新卒入社の3年以内の離職率はずっと3割前後で推移している。

厚生労働省の「学歴別就職後3年以内離職率の推移(大学卒)」を見ると、最も低い数値で1992年卒生の23.7%、最も高い数値では2004年卒生の36.6%となっており、景気や時代背景がどうであれ3〜4人に1人は3年以内に辞めているのだ。

3割前後が3年以内に離職する傾向は変わらない

このような状況にずっと身を置いていると、1つの疑問が頭の中でぐるぐると回り始める。「なぜ、新卒入社は3年で辞めてはいけないと言われているのか」という疑問だ。

ポジショントーク(人材エージェントは転職者が増えたほうが、市場が潤うし、自分自身3年で会社を辞めている立場)だと思われるかもしれないが、私の現時点の結論としては「新卒入社は3年で辞めても別にいい」と思っている。

まず一般的に、3年で辞めることは「悪」で、転職が難しくなると言われている。どのようなデメリットがあるかというと、次のようなものがある。

1. 短期離職を企業から問題視されることで、転職活動で苦戦する。
2. 転職活動で苦戦することで、生活費が枯渇し、自信を失ってしまう。
3. 仕事を継続していれば得られたであろう機会(業務実績、専門スキル、人脈等)の損失。
4. 社会人として仕事をするうえでの自身の課題を解決するための機会を失う、もしくは解決の所要時間がかかってしまう(自分の落ち度によって退職しているケース)。

企業目線(とくに大企業)では、短期離職を減点対象として扱うところが多い。その理由としては、企業にも次のような事情があるからだ。

採用と教育にコストをかけたのに、短期離職によってそのコストが無駄になってしまったから。 損した気分になる

退職によって欠員を補充する必要が出てきて、採用もしくは異動の対応をしないといけない。 面倒くさい

このように、やはり企業からは白い目で見られることが多い3年離職。しかし、3年未満で仕事を辞めることがプラスに働くこともあり、一概に短期離職が悪いことばかりではない、というのが実態だ。新卒が3年未満離職した場合、どのようなプラス要素があるのか具体的に解説していきたい。

3年足らずで辞めるメリットもある

メリット1 キャリアリテラシーを高めた状態で仕事を選べる

大学生と社会人の間で大きな差があるとしたら、それは「キャリアリテラシー」だと感じている。

キャリアリテラシーとは、一言で言うと「自身のキャリア構築の解像度」という意味合いだ。もう少し具体的に説明すると、自身のキャリアをはっきりと構築するために必要な次のような知見を持っていることを指す。

世の中にどのような業界、職業があるのか。 → 業界、職業の選択肢

どのような働き方があり、メリット、デメリットは何なのか。 → 働き方の選択肢

これからの時代どのような観点で仕事選びをすればいいのか。 → 選択の基準

自分の特性を知り、自身のキャリアを強化するためには、どのような能力や経験が重要なのか。 → 自己理解

このキャリアリテラシーは、実際に会社で働いたり、働いている社会人から幅広く話を聞いたりしない限り、向上させることができない。そのため、俗に言う「意識高い系の学生」でない限りほとんどゼロだと言っていい。

お恥ずかしい話、地方で大学生活を送っていた筆者も、講義に出て、映画館でアルバイトしていただけなので、ほとんど無知だったと言える。また、インターンシップも同様で、外側から体験するだけでは、本当の実態はつかめないと思う。

学生時代は自分がどのような特性を持っているのか、どのような希望(何がしたい? どんな働き方をしたい?)を持っているのかといったことに対しては、理解が浅い状態だと言える。学校でもそのような経験ができないし、そのようなことを考える機会すらほとんどない。

そのため、一度社会人となって世の中に出ることによって、仕事や業界、職場環境といった情報に広く触れ、自分事として考えるようになる。結果として、キャリアリテラシーが向上し、自分の特性や希望に合った仕事や職場を選び直すことができる。

最初の仕事を基準にすれば、仕事選びの精度は上がる

メリット2 ファーストキャリアが比較基準となる

新卒の就職の場合、どうしても仕事や労働環境の基準となる情報や経験がなく、自分に合った仕事選びができない。そのため、大学時代にアルバイトをしていた飲食業界(居酒屋チェーン)や教育業界(塾)といったところに就職しがちで、就職してから労働条件の悪さ、将来的なキャリアへの不安を感じ、退職するケースが多い。

以前書いた記事(5月29日の配信記事「就活『3年で新卒の3割離職』が解消されない背景」)でも触れているが、学生目線でイメージしやすい、体験しやすい仕事は離職率が高いことがわかっている。

厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況」によると、大学新卒者(2015年卒)の3年以内離職率のワースト3は、

1位:宿泊業、飲食サービス業(49.7%)
2位:教育、学習支援業(46.2%)
3位:生活関連サービス業、娯楽業(45.0%)

となっている。

ファーストキャリアで選ぶ仕事は、一時の感情(「やりたいこと」「楽しそう」)で選ばれることが多く、すぐに「この仕事ではない」と感じることが少なくない。

仕事や環境が「自分に理想と合っていない」と感じるのでであれば、早めに軌道修正すればいい。そして次の仕事先は、少なくともファーストキャリアを比較基準として仕事を選ぶことができるため、仕事選びの精度が上がるはずだ。

メリット3 自身の社会人としての「課題」に向き合える

前述の「一般的に転職が難しくなるデメリット」でも触れているが、逆に自身の社会人としての課題を早めに把握できるというメリットもある。

働きながらでも自身の課題を知ることができると思う。しかし、転職活動を通じて企業や他人から客観的に評価されることで、自分ではできていると思っていることが、できていなかったと知ることができる。

とくに、自分の課題に向き合うことが苦手だったり、他人からの批判を避けてきたタイプの人には、この短期離職によって得られる「自分の課題に向き合う機会」は、非常に価値が高い。

その人にとって人生単位で先送りにしていた課題と向き合うことが求められるケースもあり、苦しみながらも乗り越えた時には一皮むけた印象を受ける。

「知識がない状態で選んだ会社」を辞めるのは当然

このように、新卒入社の3年離職にもプラス要素があることを説明した。しかし、社会や企業からの目線が変わらないのであれば、3年離職は「悪」だと言われるだろう。

終身雇用という仕組みはすでに機能不全に陥っており、これからの時代は何度も仕事を変えながら、自分らしく、自分にとってメリットが出るようにキャリア形成をしていく必要がある。

しかし、大学では相変わらず専門教育が中心となっており、キャリアや仕事について学び、体験する機会が十分に提供されているとは言いがたい。就活の時期になり、キャリアセンターに通ったとしても、面接ノウハウやビジネスマナーは教えてくれるが、もっと根本となるキャリア設計の例や、業界・職業の情報を幅広く収集する機会はまだまだ少ない。

そのような状況を踏まえると、仕事や自身のキャリアに対して知識が乏しい新卒が、会社を辞めるということは、むしろ当然なのではないだろうか。

例えるなら、今の就活は江戸時代の結婚のような仕組みだ。まだ誰とも付き合ったことがない子どもにいきなり結婚相手を選ばせ、離婚したら「出戻り」のレッテルを貼るようなものだ。

終身雇用制度がしっかりと機能しているのであれば、多少のことは我慢し、自分を押し殺しても最後まで勤めていれば恩恵があったのかもしれない。しかし、今のご時世、ほとんどの企業は定年退職まで社員を本気で面倒見ようとは思っていない。そもそも、市場の競争が激化している中、そんなことを考えてもいられないだろう。

結局は、企業も個人も「自分のことは自分で守る」という考え方で動いており、お互いにとってメリットがある間でしか、一緒にはいられないのだ。

新卒から3年は「キャリア教育の期間」と捉えてほしい

また、社会構造上発生してしまっている「大学生と社会人の溝」も、大学組織が大きく変わらないことを考えると、一向に埋まらないと考える。そのため、むしろ企業には、新卒入社後の3年間を自分の特徴や社会構造、業界・職業の種類を学ぶための「キャリア教育の期間」として捉えてもらいたい。


企業からすると、せっかく育てた新卒がいなくなってしまうことになる。しかし、いい会社だと感じてもらえていれば、一度辞めた新卒社員が最終的には戻ってくる可能性はある。その時には、さまざまな企業で経験を積んだ即戦力人材として、新しい視点や専門性を会社に還元してくれるかもしれない。

最後に、「大学時代」「ファーストキャリア」「セカンドキャリア」のそれぞれの特徴を図のようにまとめてみた。キャリアを積み重ねることで、キャリアリテラシーが向上し、自分にとって適合度の高い仕事を見つけることができるだろう。

現状でも新卒は3割辞めており、潜在層も相当数いると言われている。転職に対する心理的ハードルも徐々に下がってきていることからも、新卒を無理に引き止めるのではなく、社会全体で流動させていくことで、機能不全に陥っている状況を打開できるのではないかと思う。