京王電鉄が「京王ライナー」で運用する5000系(撮影:尾形文繁)

朝夕の混雑時も着席通勤できる「通勤特急」や「通勤ライナー」が好調だ。首都圏や関西圏では300円以上の追加料金が必要だが、睡眠をとる、コーヒーを飲みながら新聞を読む、パソコンを広げて仕事をする、自己啓発のための勉強に励むなど、さまざまな形で移動時間を有効活用できることが人気の要因だ。

「通勤特急」の草分けは小田急電鉄の特急ロマンスカーで、1967年に定期券+特急券での利用が認められるようになって以降広く定着した。

その後、特急の回送・遊休車両を活用した日本国有鉄道の「ホームライナー」や京成電鉄「モーニングライナー」「イブニングライナー」など「通勤ライナー」の運行が始まり、またJR各社、西武鉄道、近畿日本鉄道、名古屋鉄道、南海電気鉄道などで有料特急または指定席の通勤利用も広がった。

流れを変えた「TJライナー」

しかし、有料特急や指定席車の運行がない路線では、着席通勤ができる列車はなかなか登場しなかった。


2008年にデビューした東武鉄道の「TJライナー」(写真: tarousite/PIXTA)

流れを変えたのは、2008年6月14日、東武鉄道が東上線で運行を開始した「TJライナー」である。

無料の一般列車として使用するロングシート(窓に背を向けて座る座席)と、主に有料列車として運用するクロスシート(列車の進行方向に直角な座席)に切り替え可能な車両(以下、L/C車)を導入した。

閑散時間帯は一般列車として運用して遊休時間を少なくできるメリットがあり、西武鉄道「S-TRAIN」、京王電鉄「京王ライナー」、東京急行電鉄「Qシート」の導入へつながった。

さらに京王は、2月22日から朝時間帯にも新宿行き「京王ライナー」を始めた。また、しなの鉄道でもL/C車を活用した「通勤ライナー」が計画されている。

L/C車以外でも、南海電鉄と泉北高速鉄道が運行する「泉北ライナー」や、一般車両を活用した京浜急行電鉄「モーニング・ウィング」「ウィング」と京阪電気鉄道「ライナー」(京阪電鉄は通勤時以外にも運行する有料指定席「プレミアムカー」も導入)も支持を集めている。

そして3月16日のJRダイヤ改正では、東日本旅客鉄道(JR東日本)が中央本線などで特急「はちおうじ」「おうめ」を、西日本旅客鉄道(JR西日本)が東海道本線などで特急「らくラクはりま」と新快速の有料指定席「Aシート」をそれぞれ開始した。

西日本鉄道も2020年春をメドに有料指定席を導入すると報じられている。


「通勤ライナー」は決算にも貢献し始めた。例えば、筆者の試算によると、東武「TJライナー」は約1億1000万円、京王「京王ライナー」は約1億3000万円の営業利益を上げていると推定される。

利用者と鉄道会社の双方にメリット

一般列車増発は利用者にとっては混雑緩和のメリットがあるが、乗車人員が増えない限り、鉄道会社には営業費の負担が増える。一方、増発を有料の「通勤ライナー」で行うと、料金収入が入るメリットがある。


クロスシートで運用する「京王ライナー」の車内(撮影:尾形文繁)

一方、首都圏・関西圏では、相模鉄道、東京都交通局、首都圏新都市鉄道(つくばエクスプレス)、阪急電鉄、阪神電気鉄道、山陽電気鉄道には有料指定席の設定がない。

通勤時の混雑が激しい東急東横線や東急田園都市線二子玉川駅以東では、有料指定席の導入を望む声もある。

今後も「通勤ライナー」の運行路線や運行本数のさらなる拡大のほか、電源コンセント、テーブル、ドリンクホルダー、無料Wi-Fi、上質な座席を備えた、ハイグレードな車両の導入が望まれる。もう一段高いステージの競争を通じて、路線のイメージアップとともに、沿線の定住促進へ貢献する役割が期待される。