不動産価格は高すぎる」の声が日増しに強まっている(デザイン:新藤 真実)

「アパート用地をお売りできます。ご興味ありませんか。これまで土地を買ってくれていた会社がアパート建設から撤退して、残っているのです」

西日本のアパート建設業者に数カ月前、不動産業者から電話が入った。電話を受けた担当者は難色を示した。「経営環境が厳しいのはウチも同じ。アパートの購入希望者を見つけても銀行からの融資を受けられず、販売できない。昨年からですね、ここまで風向きが変わったのは」。

3月18日発売の『週刊東洋経済』は「不動産バブル崩壊前夜」を特集。2018年は投資用不動産業界にとって悪夢のような1年だった。上期はシェアハウス「かぼちゃの馬車」を展開するスマートデイズが破綻。土地の販売業者などと結託し、無茶な利回り想定など不適切な手法で個人投資家に物件を販売していた。下期は東証1部上場のアパート建設会社TATERU(タテル)の融資書類改ざんが発覚。預金残高を水増しし、銀行から不正に融資を引き出していた。

アパート建設業者と金融機関のいたちごっこ

これらの事件を経て「不動産業者に対する金融機関の姿勢は急に厳しくなった」(前出のアパート建設業者)。都内の信用金庫幹部は言う。「昨年後半から、今まで付き合いのなかった不動産業者が物件を持ち込んでくることが増えた。地方銀行が一斉に手を引いたため、うちにすがりついてきたようだ」。銀行・信金によるアパートローン(個人による貸家業向け貸し出し)の新規融資額は16年をピークに右肩下がりになっている。


投資家への融資が実行されなければ、物件が在庫として残り、資金を回収できないため、不動産業者は必死だ。冒頭のアパート建設業者は、「融資が受けられるように物件価格を値下げした。その差額はこちらがかぶった」とこぼす。物件価格を下げれば融資の必要額を減らすことができるし、利回り(=賃料収入÷物件価格)もアップして、金融機関から融資を引き出しやすくなる。


だが、いたちごっこ。金融機関も融資のハードルを一段と引き上げている。前出の信金幹部は、「案件がたくさん持ち込まれるようになってから、融資条件を引き上げた」と明かす。従来アパートローンは、物件価格の1割の頭金があれば融資していたが、2割に引き上げたのだ。

「簡単に融資を承認すると、『あそこなら融資が受けられるぞ!』という話が業界内で広まり、どんどん案件が持ち込まれてしまう。不動産業界向け融資の比率を高めるとリスク管理上問題があるので、いい案件に絞って融資するようにしている」(信金幹部)。東海地方が地盤の地銀も、融資に当たってのストレステスト(健全性審査)の条件を厳しくした。

「そこまでするのか」。不動産投資家の依田泰典氏は、横浜銀行の担当者の話に思わず声を上げた。同行は昨年10月から自己資金確認書類の提出を厳格化した。TATERUの不祥事発覚から1カ月後のことだ。

横浜銀行によると、不動産融資の際、これまでは預金通帳のコピーでよかったが、原本の提出も義務づけた。ネットバンキングなら複数人で画面を確認し、確認時の日付を記録することをマニュアルとして定めたという。

融資手続きを厳格化 法人スキームにもメス

ほかの地銀でも手続きの厳格化が進む。業者や投資家から「融資を受けやすい」と評されるオリックス銀行でさえ、昨年後半から「表明保証」という新たな手続きを取っている。顧客の提出書類について、原本の写しと相違ないと顧客が署名捺印のうえ表明し保証する文書の提出を義務化したのだ。

手続きの厳格化だけではない。「りそな銀行が一部の投資家にローンの返済を求めているようだ」。今年に入り、不動産投資家の間でこんな噂が駆け巡った。

一部の投資家とは、「1法人1物件スキーム」と呼ばれる手法を用いている投資家のこと。購入したい物件ごとに法人を設立し、各法人が融資を受ける。投資家個人の信用情報には借り入れが記載されないため、より多くの融資を引き出せ、資産規模を一気に増やす方法として広まった。


法人を複数設立して融資を引き出すこと自体は違法ではない。問題なのは、複数の法人を設立して融資を受けているにもかかわらず、金融機関にはポートフォリオ全体の状況を伝えていない場合だ。金融機関が確認できるのは融資を求める法人が保有する資産のみ。収益性に難のある物件をほかの法人が保有していても見破るのは難しい。「確定申告書や投資家へのヒアリングなどで保有資産を調べはするが、すべてを把握することはできない」(首都圏の地銀幹部)。

当のりそな銀行の幹部は、「1法人1物件スキームを用いている投資家に対して、昨秋から『資産の全体を見せてください』と厳格に言うようにした」と認める。全体を見せてもらったうえで、信用が悪化している人に対しては今までよりも高い金利や融資の返済を求めたりすることがあるという。

同スキームについてはりそな銀行以外の金融機関も調査を始めている。信金幹部は言う。「合同会社からの申し込みにはとくに気をつけている」。同スキームの法人は合同会社として設立されることも多い。株式会社より設立時や設立後の費用が安く済むからだ。この信金が調べた中では、1人で10の合同会社を設立して不動産投資を行っている人がいた。

金融機関が融資姿勢を厳格化している背景には、金融庁の動きもある。「投資用不動産向け融資に関するアンケート調査」──。昨年10月下旬、金融庁は全国の金融機関にアンケートを送付した。1棟建てのアパートやマンションなどの融資実行額、件数、債務者数、貸し出し利回りなどを事細かに記載させる。


金融庁が金融機関へ送付したアンケートの一部。不動産業者名まで細かく記入させる欄も(記者撮影)

とくに全42問中33問を割いて聞いたのが、「1棟建てアパート・マンション・シェアハウスなどの土地・建物双方を購入するための融資」に関するもの。金融庁が問題視していることが伝わってくる。「立地や賃料水準から見て不動産価格が妥当かどうか検証しているか」「空室・賃料減のリスクを債務者に説明しているか」などと質問し、「融資姿勢に問題がある金融機関を巧妙にあぶり出そうとしている」(金融機関関係者)。

金融庁はアンケートの回答に加え、投資用不動産向け融資について議論が行われた取締役会や経営会議の議事録の提出も求めた。全国各行から回収したアンケート結果を基に、「個別ヒアリングを検討中」(金融庁)だ。

「不動産は買い時」 投資意欲はまだ強い

金融機関の融資姿勢は厳格化しているが、足元で不動産投資に対する意欲は衰えていない。1月、東京ビッグサイトで開催された「資産運用EXPO」。アパートやマンションなど投資用不動産のブースには説明を受ける個人投資家が連なり、セミナーも満席が相次いでいた。不動産仲介大手の野村不動産アーバンネットが同じく1月に会員に対して実施したアンケートでも、4割近い投資家が「不動産は買い時だ」と答えている。

恐怖シナリオとしてチラつくのが、1990年に大蔵省(当時)が金融機関に発した「総量規制」のようなことが再び起きるのか、ということ。地価上昇が続く中で、不動産向け融資の伸び率を全体の伸び率以下に抑制するよう通達した結果、融資が急縮小、不動産や株の価格が下落し、平成バブルの崩壊につながった。

しかし、今の金融庁はアンケートやヒアリングを通じて金融機関に注意を喚起してはいるものの、融資量についての制限までは指示していない。「量の規制は民間部門への過剰介入になりかねず、金融庁が踏み込むことはないだろう」(金融機関関係者)というのが大方の見方だ。

アパートローンなど不動産への新規融資はすでに減速している。また、物件価格高騰に伴うリスク増大で金融機関は、不動産向け融資に一層慎重になる可能性がある。金融庁による規制強化がなくても総量規制時に近い金融収縮や、そこからのバブル崩壊が起きかねない状況にある。

『週刊東洋経済』3月23日号(3月18日発売)の特集は「不動産バブル崩壊前夜」です。