なぜマツダは頻繁に大幅改良できるのでしょうか(写真:マツダメディアウェブサイト)

フルモデルチェンジ、マイナーチェンジ――。自動車業界の通例だ。同じ車名を継ぐクルマを基本設計から全面的に作りかえるのがフルモデルチェンジ、基本的な車体設計はそのままに内外装やメカニズムなどの一部を見直すのがマイナーチェンジである。

かつてフルモデルチェンジを4年おきに行う日本車メーカーが多かったが、最近は5〜6年以上に延びているケースが多い。マイナーチェンジはその間にタイミングを見て行っているメーカーが多いが、近年、異例とも言える展開を見せているのがマツダだ。

「大幅改良」を頻繁に行っているマツダ

マツダは、新車が出たあとの改良について、マイナーチェンジという言葉遣いをやめ「商品改良」、あるいは「商品の大幅改良」として、毎年のようになんらかの進化をさせている。新車登場から数年後にマイナーチェンジをしたり、年が改まるごとにイヤーモデルといって改善したりするのではなく、最新技術が実用化された時点で取り扱い車種全般にそれを拡大採用する方法を採っているのである。他メーカーの取り組みとは違うことを強調するために、商品改良や商品の大幅改良と銘打っているのだ。


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今年5月には、「CX‐3」のディーゼルエンジンの排気量を従来の1.5Lから1.8Lに変更した。同月に「アテンザ」も、内外装のデザインに手を入れ、エンジンは燃費の改善や出力の向上を行っている。6月は、「ロードスター」と「ロードスターRF」を改良。RFはエンジン性能を大きく改善し、オープンスポーツカーらしい運転を満喫できるようになった。ロードスターには、年内いっぱいという期限付きで特別な色の幌と内装色を設定している。

【2018年10月16日9時20分追記】初出時、「CX-3」のディーゼルエンジン排気量の数字に誤りがありましたので、上記のように修正いたしました。

マイナーチェンジというと、その型の中間時期の改良として、不足部分が充足される一方で、内装や装備が整理され、合理化されてしまう場合もある。だが、マツダの商品改良や大幅な商品改良では、性能が向上し、走りや内外装の質感が高まり、あとから出てくるクルマほど買い得感が高まる商品力を持つようになっている。

こうすることにより、新車登場から数年を経た車種でも魅力が衰えることなく、かえって商品性が高まっていくことになり、欧州車のようにモデル末期が最も買い得なクルマとなっていく。それにより、販売店は安定性のある持続的な売り上げを確保することが可能になる。

そうすると販売台数を追う無理な値下げキャンペーンを行う必要がなくなり、適正価格での販売を行えることになり、残存価格の高値維持ができることによって、実は消費者にとっても下取り価格が高かったり、残価設定ローンの残存価格を高くできたりすることにより、月々の支払額を抑えられるなどの得も生まれる。

かつて、「マツダ地獄」と言われ、マツダ車を一度買ったら以後マツダ車に乗り換えなければ下取り価格が折り合わないといったことがなくなった。

「一括企画」と「モノづくり革新」

では、マツダはなぜそのようなクルマづくりや販売方法ができるようになったのか?

マツダは、SKYACTIV技術を織り込んだ新世代商品群を、2012年の「CX‐5」から発売するに際し、2つの大きな取り組みを行っている。1つは「一括企画」による車両開発であり、もう1つは工場における「モノづくり革新」である。

一括企画とは、新車の商品企画を練る際、1台1台の内容を詰めることはもちろんだが、その際に進行している新技術の実用化を並行してとらえ、その新車が発売される際にどの技術が間に合うのか、また間に合わない場合には何年後に実用化が達成されるのかを併せて検討する。

そして新車発売時期に間に合わない技術であっても、そのモデル期間中に実用化されるのであれば、追加の新技術を途中で織り込めるように新車開発を進めるのである。こうすることで、その車種が販売される期間はずっと最新の技術や装備を更新していくことができることになる。それが、商品改良や商品の大幅改良を可能にしている。

もう1つは、工場の生産におけるモノづくり革新である。工場の生産ラインでは、多品種の生産を1つのラインで兼用できることが、効率化の1つとなっている。それは、どの自動車メーカーでも取り組んでいることであり、そのこと自体に珍しさはない。

しかし、マツダの年間生産台数は180万台規模であり、1000万台規模にのせるトヨタなどに比べると1/5の生産規模でしかない。そうしたなか、多品種の生産を1つのラインで行うため、専用の工作機械を使ったのでは、工作機械を作るための投資が必要になる。

また、ラインを流れるクルマが販売動向によって変更された際には、改めて別の工作機械を投入しなければならなくなる可能性もある。それでも、年間生産台数が膨大な自動車メーカーであれば、そこも見越した投資計画ができるはずだが、マツダはそれほど頻繁に工作機械を入れ替えられない。

そこで考えたのが、汎用工作機械を使いながら、マツダ自ら作動プログラムを開発することにより、車種によるロボットの動きを自在にできるようにすることだった。プログラムを自ら開発することは簡単ではないが、一度経験すれば、マツダ社員自らプログラムを書き換えることができるようになる。その労力は、人件費という給与の中に入ってしまうので、新たな投資は不要になる。

汎用機械を使い尽くすプログラムを自社で賄うことにより、マツダの生産ラインは言葉どおり多様で多品種な部品やクルマを、数の多少にかかわらず生産できるようになった。実際、エンジン工場では直列とV型のエンジンが同じラインでシリンダーブロックを研磨することが可能になっている。

ワンマツダの意識による新車開発と製造

さらに、単に工場内の生産現場で、不具合の改善ではなく、工作機械の運用を担当者自ら変更していく技能を身に付けることにより、仕事に対する意欲が飛躍的に高まった。なおかつ、現場の製造技術に精通した熟練者たちから、設計・開発部署へどのように設計変更や改良が行われればいいかといった助言も積極的になされることになった。部署間の壁が取れ、ワンマツダの意識による新車開発と製造が進んでいる。

こうして、頻繁な改良や改善が行われても、即座に生産できる体制づくりが出来上がった。また、それにより品質も改善されていく。

新しい魅力をどんどんつぎ込んでいくことができるのが、一括企画であり、モノづくり革新で、それがマツダの根幹を支えている。SKYACTIVという技術が優れているだけでなく、それを実現する背景がマツダに整ったのだ。

それは、トヨタにも魅力的に映ったに違いない。トヨタとマツダの提携の背後には、トヨタが成しえなかった少量生産であるがゆえのモノづくりのこだわりや商品性を学びたかったのではないか。そのようについ想像してしまうのである。