8月31日にドイツで開催された「IFA 2018」の基調講演で、大ヒット作「P20シリーズ」を手に登壇したHuawei Consumer Business Groupのリチャード・ユーCEO(筆者撮影)

いよいよ9月12日(日本時間9月13日午前2時)、アップルがiPhoneの新製品を発表する。“どのような新製品か”とともに、最大のライバルとして毎年市場で激突してきたサムスン電子の最新製品との比較も行われることになるだろう。

しかし、中長期的な視点で見ると、アップルの敵はサムスン電子ではなく、中国のスマホメーカーであるファーウェイかもしれない。なぜ筆者がそう予想するのか。以下に理由を述べたい。

iPhoneを抜いて販売台数「世界2位」に

調査会社IDCが発表した4〜6月のスマートフォン販売台数によると、グローバル市場でファーウェイは5420万台を販売。iPhoneの4130万台を抜いて世界2位(1位はサムスン電子の7150万台)に躍り出た。ファーウェイは主力モデルのP20シリーズをリリースした直後だったという事情はあるが、前年同期比で41%も販売台数を伸ばした。

サムスン電子、ファーウェイ、そしてその下に来るOPPOやシャオミなどは、出荷台数の大半を低価格なモデルが占めるなど、台数だけでは推し量れない面もある。しかし、それでも注目に値するのは、ファーウェイが他メーカーにはない特徴を持っているからだ。

米中貿易摩擦の中、トランプ大統領の攻撃対象となるリスクはあるものの、彼らにはアメリカ市場に依存しなくとも戦っていける事業基盤を持つ。ファーウェイは一般消費者にはスマートフォンなどの電子機器端末のメーカーと思われているが、実際には通信機器の納入業者をスタート地点としており、現在でも携帯電話基地局など携帯電話事業者向けの事業が主流だ。

事業ごとの収益を発表していないため、インフラ事業と端末事業がどの程度の比率であるか確たる数字はないが、彼らの年次事業報告書を見ると、今後の成長余地を含めてアップルに対抗しうる存在になる成長余力を見て取れる。

国土の広い中国で高いシェアを誇り、欧州、中東、アフリカ各国でも強い。彼らの収益の約半分(49.3%)が携帯電話事業者向けのネットワーク機器だ。日本でもソフトバンクが5Gネットワーク機器としてファーウェイ製品を採用することを発表しているほか、NTTドコモとも共同実験サービスなどを行ってきた。LTE世代においても、何らかの形でファーウェイ製品が採用されており、彼らの製品をまったく採用しない携帯電話事業者は少ない。

加えて、ファーウェイは前述のようにアメリカ市場には依存していない。彼らの製品は国家安全保障の問題にかかわると告発されたことなどもあり、北米市場での売り上げ比率は低く、昨年度実績で全体の6.5%。実は2016年は全体の10.9%に増加していたものが急減した結果だ。完全撤退の報道もあるが、そもそも北米市場への依存度は低く、北米市場以外での伸びが大きく、グローバルでの売上高は15.6%も伸びた(6036億人民元、約10兆円)。

今後も北米市場の比率は下がっていく可能性が高い。オーストラリアでも排斥の動きが強まっているが、欧州での5G投資に食い込んでいくことが間違いない状況なことに加え、中東、特にアフリカでのシェアが拡大していくとみられるためだ。

中国中央政府は総額600億ドル(約6兆6000億円)を投じて、アフリカ各国のインフラ投資支援を行うと発表した。こうした、アフリカ各国への投資戦略はファーウェイの事業をさらに強化していくだろう。端末事業では存在感の低いインドでも、インフラ向けネットワーク機器は売り上げを伸ばしている。

このように、米中貿易摩擦が激しくなる中で、ファーウェイの強みは米中貿易摩擦による影響を受けにくい事業体質を持っていることだ。貿易戦争におけるアメリカの強みのひとつは“巨大なアメリカ市場”と言えるが、そもそもアメリカの市場から遠ざけられているファーウェイの立場からすれば、さほど意に介する必要はなく、得意な市場に集中すればいい。

このようにインフラ事業者として安定した事業基盤を築いているうえ、端末事業でも存在感を示している。彼らの強みは自社製のシステムオンチップ(SoC)を用い、基本ソフトとタイトに統合した製品を作りやすい環境にあることだ。

クアルコム製チップを凌駕する自社製SoC

彼らの財務が極めて良好なことは、旺盛な半導体投資からも想像できる。ファーウェイは半導体事業への投資額を公表していないが、8月31日〜9月5日ドイツ・ベルリンで開催された「IFA 2018」で発表したスマートフォン向けチップ「Kirin 980」は、アメリカのクアルコムの最上位チップであるSnapdragon 845をほとんどの要素において凌駕しているという。

SoCにはプログラムの処理を行うプロセッサーだけでなく、カメラの機能や映像処理を司るイメージシグナルプロセッサー(ISP)も含まれている。さらにファーウェイは独自に開発したニューラルネットワークプロセッシングユニット(NPU)を統合してエッジ(端末側)AI処理の能力を高めており、Kirin 980にはその最新版をデュアルコアで内蔵させた。


ファーウェイの独自SoCはクアルコム製を大きく性能で凌ぐと訴求するユーCEO(筆者撮影)

こうした独自開発のISP、NPUを用いてスマートフォン端末を強化し、独自性を引き出した結果は確実に出てきている。

デュアルカメラもトリプルカメラもスマホに最初に搭載したのはファーウェイで、同時にAI処理によって写真を自動的に美しく加工する機能などを搭載して差異化を行っている。

この結果、端末事業は2012年にグローバルで2.7%に過ぎなかったシェアが、四半期でトップ2、年間を通しての販売台数でもアップルをうかがう位置にまで来た。もともとファーウェイの端末はフルラインナップで揃えられていたものの、性能・機能ともに物足りない低廉なモデルで数字を出していた。

高級モデルが売れ始めた

しかし、カメラ機能を大幅に強化した「HUAWEI P9」をターニングポイントに高級モデルが売れ始め、コンシューマ向け機器部門の売り上げも、2016年に前年比43.6%増、2017年も31.9%上昇するなど大幅な伸びを示した。


HUAWEI P20(写真:ファーウェイのサイトより)

今や低価格モデルだけのメーカーではないことは、6月にドコモが発売した「HUAWEI P20 Pro」といった高級機種からもうかがえる。

さらに、ファーウェイは10月16日、ロンドンで上記Kirin 980を搭載する最上位モデル「HUAWEI Mate 20」を発表する予定だ。

このようにカメラとAI処理、プロセッサー性能などの面で急速に進化する中、端末の平均売価上昇が予想され、端末事業がインフラ事業に匹敵する規模に成長しつつあることはもちろん、収益への貢献度も上がっていると予想される。

iPhone以外のスマートフォンは、どのメーカーも同じようにAndroidを採用し、SoCや各種コンポーネントを購入して製品を開発している。前述したようにスマートフォンの機能向上に伴いSoCへの依存度は高くなっているが、ファーウェイは自社SoCを背景に自社製品のアイコンとも言えるカッティングエッジ(革新的)な製品、機能をSoCレベルから作り込める。サムスン電子も自社SoCを開発しているが、性能を重視したモデルにはクアルコム製を採用している。

ファーウェイは今後、SoCへの依存度が高いカメラや端末内AI処理を磨き込むことで、同じAndroid採用端末の中でもユニークな価値を持つブランドとして、アメリカ以外では定着していきそうだ。

ただし、アメリカには依存せず、SoCも自前で開発しているファーウェイだが、ひとつ大きなリスクが残っている。それはAndroidの採用だ。

Googleアプリへの依存がリスクになる可能性

中華スマホメーカーのZTEがアメリカの企業との取引を7年間にわたって禁止された結果、SoCはもちろんソフトウエアライセンスを受けることも不可能となり、主力であるスマートフォン事業の停止に追い込まれたことは記憶に新しい。ZTEが10億ドルの罰金を米政府に支払うことで事業を再開したが、同様のリスクはファーウェイに降りかかる可能性はゼロではない。

Android自身はオープンソースだが、GmailやGoogleマップ、Google Playなどグーグルのサービスに接続するアプリやGoogleアカウントと連動する各種機能は別途ライセンスする必要がある。グーグルが参入していない中国以外で販売する際には事実上必須のパッケージのため、禁輸措置が取られれば、ファーウェイの端末事業はひとたまりもない。

中国は中央政府主導でアメリカに依存しない独自のスマートフォンプラットフォームを作ろうとしているが、それ以前に実績のあるAndroidをベースにグーグルのアプリケーションパッケージに依存しないサービスとアプリを揃える力もあるだろう。

ZTEはクアルコム製SoCが購入できなくなったことで事業継続が困難になったが、ファーウェイは上位モデルほど内製技術が多く、“トランプリスク”に対する実質的な耐性が技術の面でも高い。

一方でトランプ大統領の政策による事業環境の悪化リスクはアップルにもある。アメリカは中国に対する報復関税の品目を拡大させようとしているが、それにより中国で生産される大多数のアップル製品は値上げせざるをえなくなる可能性がある。“トランプリスク”は両社とも背負っているわけだ。

アップルとファーウェイの覇権争いは、米中貿易摩擦の象徴として記憶されるようになるのかもしれない。