事業承継でファンドの上手な使い方、教えます!

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 事業承継で企業再生ファンドの役割が増している。国内の独立系大手、ニューホライズンキャピタル(NHC、東京都港区)では、持ち込まれる案件の5割以上が事業承継に関連したもので、その件数もこの3、4年で急増しているという。今回は、NHCが関わった3つのケースを取り上げながら、ファンドの視点からみた事業承継を考えてみたい。

 まず事業承継には二つのタイプがある。創業者(経営者)はまだまだ元気だが、株式公開など、より企業として成長を目指す「攻め型」。もう一つは経営者が高齢化、親族にも跡継ぎがおらず、ファンドなど第三者が参画しサプライチェーンを維持する「守り型」。

 2015年6月に投資した自転車製造・卸販売の武田産業(千葉県柏市)は、「攻め型」といえるだろう。創業家経営陣の企業買収(MBO)を支援することが目的だった。問題は相続問題などで株が散逸していたこと。NHCの前に支援していたファンドが苦労しながら約8割まで株を集め、NHCの傘下になって以降は、ノーパンクタイヤを装着した自転車製品を拡充するなど事業を拡大中だ。

 事業承継で特に厄介なのが株の保有状態。散逸しているのも問題だが、オーナー社長がすべて保有し突然亡くなってしまう場合も困る。親族の中に後継の適任者がいるケースは少ないからだ。10年先の会社を考えるなら、早い段階から「所有」と「経営」を分離しておくことも選択肢となる。

 NHCの安東泰志会長兼社長は「一定割合をファンドに売っておけば、後継者問題が起こった時にも株で心配することはない。今いる役員から社長を選んでもいいし、新しいスポンサーを見つけることもできる」とアドバイスする。

 2つ目は今年投資した新築建売住宅の施工・販売を手がける川粼ホールディングス(熊本市)。これは「攻め」と「守り」の中間といえるかもしれない。現時点で持ち株比率が高い後継者がおらず、創業者が引き続き経営を担う間に、次の経営体制やオーナーシップへの事業承継の準備を進めることが目的。

 また、同社は熊本県、三重県で高いシェアを誇り、名古屋や福岡など都市部での成長の可能性もある。ファンドから成長資金を入れ、内部統制も整備することで現在、上場の準備を進めている。

 日本の独立系ファンドはそれほど資産規模も大きくないため、中堅企業などは比較的手がけやすい。業績はそれほど悪くなく、社長もまだまだ元気。ただこのままだと先細りになるため、リスクを自らとるよりもファンドの支援の元に上場などを目指す戦略を立てた方が銀行からのファイナンスも得やすい。

 3つ目の友工商事(大阪市)は「守り型」だが、「ファンドが機能し、事業承継が非常にうまくいった案件」(安東氏)。管工機材の卸売りで売上高も70億円規模で従業員数も少なくなかった。オーナー創業者が年齢的な理由もあって、短期間での売却を希望しているという話が先方の税理士から舞い込んできた。

 実はNHCと契約した直後に、先方のオーナー社長が亡くなってしまったのだ。直前までNHC側と元気に会話をされていたそうで、本人がどこまで自身の体調を知ってのことだったか、今になっては知るすべもない。株は100%オーナーが所有していたため、売却はギリギリのタイミングだった。

 NHCは新しい社長を送り込む際、過去に再生を手がけ、業態が近いハウステック(群馬県高崎市)出身者から選んだ。何人か面接した中で、友工商事の事業を運営する上でも土地勘のある関西出身の現社長が適任と判断。実際、就任後も情報システムの刷新など矢継ぎ早に改革を進め、経営の安定化に大きく貢献した。さらなる成長には他社との協業が必要と考えていたところ、ユアサ商事が手を上げ、NHCが保有している期間はわずか半年ほどだった。