3つのケースは、状況は異なるとはいえ、ファンドの投資基準に沿って再び成長を果たそうとしている好例だろう。日本の中堅・中小企業は、ファンドと聞くと身構えてしまい、銀行の融資に頼るケースが圧倒的に多い。銀行の基本的なスタンスは取引先を廃業させたくない、である。数百万円であっても貸し倒れを嫌う。

緩やかに廃業していくのが産業の新陳代謝
 安東氏は「後継者がいない無数の中小・零細企業を存続させるのは現実的に無理。緩やかに廃業していくのが産業の新陳代謝や労働力の有効活用にとっても良いことだ」と話す。

 一方で「生き残る価値のある企業は再生ファンドの仕事としてやらなければならない。産業のバリューチェーンの中で一定の地位を占めるところは、事前調査しておく必要がある」と安東氏。

 案件が増えている事業承継だが、交渉時に大きな壁になるのが価格だ。未公開で事業承継に課題を抱える企業の多くは、経営者が高齢化し成長が止まっている。ところが売却交渉になると、現在の企業価値以上の値段を要求してくる例も多いという。

 「純資産に過去何年分かの営業利益程度ならまだ交渉の余地もあるが、元気の良かった時代の実績を持ち出されても困る。株式買取のための借入が増えてしまい、その後が大変だ」と安東氏。

 財産を残すことも大事だが、オーナー創業者はまず会社のため、従業員のために何ができるかを考える必要がある。一方、日本で事業承継関連の再生案件をこなせるファンドの数はまだそれほど多くない。民間ファンドに資金が流れる仕組みも欠かせない。