三菱が仕掛ける治療革命「ビッグデータでがんが治る」

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■最適な分子標的治療薬を選定する

がんは遺伝子の病気です。正常な細胞の遺伝子に異常や変異が起き、それが積み重なってがん細胞となり、やがて目に見えるがんになります。

通常はがんと診断された場合、病巣がある部位によって乳がん、大腸がんなどと呼ばれます。その病状を見て、化学療法(抗がん剤治療)、外科手術、放射線治療などの治療が行われます。

こうした従来の臓器別の診断ではなく、遺伝子変異別に診断し、適切な治療を行うのが、がん個別化治療です。通常の抗がん剤が効かなくなったがんや手術が困難ながん、進行した肺がん、乳がん、大腸がんなどの患者の遺伝子の変異を調べることで、別のがんの治療に使われている分子標的治療薬が効果を発揮する可能性があるからです。それによって、個々の患者に最適な治療が行えると考えられています。

その遺伝子の変異がどこにあり、またどのような変異なのかを独自に開発したソフトを活用したシステムで大量のデータを解析し、治療薬として最適な分子標的治療薬の候補を医師に対して提示するのが三菱スペース・ソフトウエアの役割です。実際には北海道大学病院の「がん遺伝子診断部」と連携して2016年4月よりがん遺伝子配列のデータ解析を開始しています。

これまではがん遺伝子を1個ずつ調べていましたが、がん遺伝子解析システムを使えば、迅速に160個以上のがん遺伝子の変異が同時にわかります。ヒトの全遺伝子は約2万〜3万個と言われており、がん関連遺伝子は約600個とされています。すでに特定の遺伝子の異常を標的とした分子標的治療薬は現在90〜100種類ほどあり、治療薬選択の対象となる遺伝子は50個程度あります。

それではがん遺伝子診断は、どのような手順で行われているのか説明しましょう。

まず、担当医師が患者に対して、がん遺伝子診断の概要を説明し、同意を得ます。次にがんのサンプルと血液からDNAが抽出され、次世代シークエンサーで解析を行った結果、変異を起こしていると予測される遺伝子が絞り込まれます。

そのシークエンスデータと呼ばれるものが、わが社に送られてきます。そのデータを解析し、変異部分を検出、さらに、がん細胞の増殖に関与している遺伝子変異(ドライバー遺伝子変異)に基づく分子標的治療薬の候補を選定します。分子標的治療薬は、がん化した細胞だけを狙い撃ちにする薬剤であるのに対し、従来の抗がん剤(殺細胞性抗がん剤)はがん細胞以外の正常な細胞にも影響を与え、副作用も重篤なものがありました。しかし、がん細胞の増殖・転移に関わる分子を探し、それらを標的として効率的にたたけば、がん細胞も死滅・抑制できるのではないかと考え、開発された薬が分子標的治療薬です。

それらの有効性が期待される分子標的治療薬を選定した結果をレポートにまとめ、病院に送ります。結果は約2週間でわかります。その後、病院側で各科から構成されるチームカンファレンスで治療方針を決定し、診断書を作成します。それをもとにして患者さんにがん遺伝子診断結果を説明し、投薬・治療を行うことになります。

もともと三菱スペース・ソフトウエアは20年以上前から、遺伝子情報のデータ解析に参入していました。以来、高精度なデータ解析を蓄積して、今回、国内で承認された分子標的治療薬の組み合わせを解析できるアルゴリズムとソフトウエアを完成させたのです。

現在、北海道大学病院のほか、帯広にある北斗病院でも、がん遺伝子診断が行われています。費用は保険適応外で自己負担になりますが、25個のがん遺伝子を調べる検査が約42万円、160個の遺伝子を調べるのが約65万円かかります。

(三菱スペース・ソフトウエア関西事業部バイオメディカルインフォマティクス開発室副室長 谷嶋成樹 構成=吉田茂人)