ファーストステージ、サガン鳥栖は勝ち点を積み重ねるのに苦労していた。マッシモ・フィッカデンティ監督が新たに着任した今シーズンは、4勝8敗5引き分けと大きく負け越し、15位に低迷。残留争いに引きずり込まれそうな体たらくだった。

 ところが心配されたセカンドステージは、(6節終了段階で)4勝2引き分けとロケットスタートに成功。第6節には、ファーストステージで優勝した鹿島アントラーズを1−0と撃破した。残留争いからは抜け出し、ステージ優勝も狙える3位まで浮上している。

 では、何が変化したのか?

「(フィッカデンティ体制になってから)つなごうとする意識は明らかに上がっています。蹴っていたところをつないで時間を作ったり、ひと呼吸をおけたり、効果的になったかなと。一方でここに早く(前に)入れてくれたら、というチャンスを逃すところもあって。判断の部分を高めているところですね。プレーの優先順位をうまくつけられたら......という手応えはあります」

 エースFWとしてチームを牽引する豊田陽平は、セカンドステージ開幕戦の勝利後に語っていた。判断の力がいよいよ充実してきたのか。

 今週末に行なわれるガンバ大阪戦は、その真価が問われることになるだろう。

 イタリア人監督フィッカデンティは、伝統としてきた朝日山での走り込み(山道を何度も往復する)を行なっていない。しかし練習のきつさは、「チームでも過去最高です」と豊田が明かしている。

「プレシーズンが始まって大雪があって連休があったんですが、以降は開幕までずっと休みがなくて。開幕してからも月から金までずっと練習で、2部練もあります。ウォーミングアップからしてすごく長くて入念というか、Jリーグのチームの中で一番走っているんじゃないですかね?」

 鍛えて勝つ、という鳥栖の哲学は脈々と生きている。

 ファーストステージで不振だったのは、ひとえに新監督の新戦術が浸透するのに時間を要したからだろう。4−3−1−2というシステムはイタリアでは一つの潮流だが、日本国内では馴染みが薄い。例えば中盤は守備のときに3人でスライドを繰り返し、走力と連係を同時に高める必要がある。ボランチとも、サイドハーフとも、戦術的に違う動きが求められるのだ。

「相手の攻撃をサイドに限定し、追い込んだら、『絶対にサイドチェンジさせるな』と監督には言われます。ただ、敵もそこはうまい。中盤がスライドしてはめても、なかなか簡単にはいかなくて。でも、マッシモは"俺を信じろ"と言う人。選手たちは監督を信じてやってきました」

 豊田が語るように、多少の混乱はあったものの、守備の決めごとは徹底されていた。選手たちは迷わずに挑み続け、どうにか形になっていった。不振のファーストステージも、失点の少なさは優勝した鹿島アントラーズに次いで2位。そして守備の安定化が、時間差で良い攻撃をもたらした。ファーストステージに1試合平均1点未満だった得点力は、セカンドステージに倍まで増えたのである。

 攻撃のキーマンとなっているのは、19歳の鎌田大地だろう。

 トップ下に入った鎌田はファーストステージ、本領を発揮できていない。あおりを食う形で、リオ五輪メンバーからも落選。2トップを手足のように動かし、優雅にパスを供給する姿は見られなくなった。

 しかし、苦悶は必然だったと言える。

「2トップを追い越し、得点シーンに絡む」

 イタリア人指揮官からは、新たな役割が与えられていた。同じトップ下でも、自らがチャンスメーカーでありながら、ゴールメーカーとしても機能しなければならない。鎌田は当初、そこに戸惑った。

 しかし、セカンドステージの鎌田は積極的に前線に出てボールを呼び込み、得点機を作っている。ボールを呼び込む動きと、ボールを入れる動きのタイミングが合ってきた。鹿島戦の決勝点も、鎌田が果敢にゴール前へ飛び出して逆サイドからのクロスを呼び込み、ヘディングで合わせたシュートの跳ね返りを、豊田が押し込んだものだった。

 クラブ本来の粘り強さとイタリア人の戦術的鍛錬がシンクロし、攻守の両輪が噛み合い始めている。鳥栖は今週末のガンバを皮切りに、川崎フロンターレ、浦和レッズと上位陣との戦いが待つ。3連戦は、今後を占う試金石となるだろう。

「守ることに集中して、いい試合運びができている」

 フィッカデンティは自信を見せる。イタリア式が充実しつつあることは間違いない。

小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki