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●被写体を選ばない画角と端正な描写
高速な新AFと簡易な操作性でフジノンレンズ群の魅力的な描写を手軽に味わえる、富士フイルムのプレミアムミラーレスカメラ「X-T10」。カメラ本体と標準ズーム、あるいは望遠ズームは手に入れたけれど、次に選ぶ一本は? と考えたとき、真っ先に候補に挙がるのは単焦点レンズだろう。

そこで今回は、前回の「フジノンXF56mmF1.2 R APD」に続き、広角の大口径単焦点レンズ「フジノンXF16mmF1.4 R WR」のレビューをお届けする。このレンズも、2016年1月13日までのキャッシュバックキャンペーン対象商品だ。

○被写体を選ばない画角と端正な描写

まずは外観から。ボディやマウントは金属製で、高級感がある。サイズは最大径73.4mm×長さ73.0mm。XF56mmF1.2 R APDよりコンパクトで、X-T10への装着バランスはいい。

ピントリングは操作しやすい太さ。前後にスライドさせることで、AFとMF(マニュアルフォーカス)が切り替わる。AFとMFを瞬時に切り替えられるのは便利だ。距離指標を刻印したフォーカスリングが現れた状態が、MFモードとなる。被写体との距離を目測し、指標を使ってピントを合わせられるほか、被写界深度の目安となる目盛りも刻まれているので、これを参考に絞り値を決定することができる。

実のところ、新AFシステムで合焦点の速度と精度が高く、有機ELを使用した見やすいEVFが被写界深度も反映してくれるため、現実的にはこれら指標や目盛りが活躍することはあまりないかもしれない。しかし、クラシックかつ精緻な雰囲気をひときわ重視するXマウントユーザーにとって、マニュアルカメラ時代を思わせる、この計測機器な雰囲気は外せない要素なのだ。デジタル全盛時代でも、カメラやレンズに機能と性能だけでなく、機械的な美や情緒も求める人は少なくない。「カメラは、ただ写真を撮るだけのものではない」ということだ。

●広角写真の新しい可能性を指し示してくれる
さて、XF16mmF1.4 R WRの特長は、なんといっても広角レンズでありながら背景を大きくぼかした写真が撮れること。絞って撮るのが常識だった広角の常識を覆す(最小絞り値F2.8未満の)レンズが近年レンズメーカーを中心に発売されているが、その流れに沿った一本といえるだろう。

パースの付いた広角でありながら、まるでポートレートレンズで撮影したかのように被写体が立体的に浮かぶ様は、広角写真の新しい可能性を指し示してくれる。ただ、そのボケにはややクセがあるので注意したい。というのも、背景の木もれ陽や点光源により、二線ボケの玉ボケが発生してしまうことがあるからだ。背景の条件によっては、四隅の流れも気になる。

これは絞り開放付近でのみ見られる傾向であり、ポートレートではこれらを逆手にとって演出とすることもある。普段の街中や室内では大きくボケて美しく感じられる背景を得られるので、撮影時に多少気を配ってあげると、レンズの良さを引き出せるだろう。

絞り開放値F1.4というスペックから、ボケのほうに目が行きがちだが、このレンズの魅力は自然かつ端正な描写力にあると思う。背景の美しさが際立つのも、ピント位置の精緻な描写あればこそ。画像で見ると若干過剰にも思われるシャープさだが、(富士フイルムが基準としているであろう)大判プリントにおいて、この高い解像感は心強い。

レンズ表面には「HT-EBC(High Transmittance Electron Beam Coating)」コーティングに加え、独自開発のナノGI(Gradient Index)コーティング技術を採用しているためか、逆光下でも効果的にフレアやゴーストを低減してくれる。まったく出ないわけではないが、嫌味のない、むしろ画作りに利用したくなると感じるフレアやゴーストだ。また、真逆光でも被写体のコントラストが低下しないのもポイントである。

16mm(35mm換算で24mm)という焦点距離は、風景写真にもスナップにも最適で、ポートレートレンズとしても好評だ。最短撮影距離が15cmと非常に短いのも特長で、自分の隣を歩くパートナーも、周囲の風景とともに撮影できる。「撮るために離れる」プロセスを必要としない、むしろ被写体との距離を縮めてくれるレンズだ。

実売価格は11万円前後(筆者調べ)。便利なレンズレンタルサービスでも借りることができる。

機材撮影:青木明子

(青木淳一)