昨日、世界中の野球協会を統括する国際野球連盟(IBAF)は、WBCを世界一決定戦として公認することを発表した。

力関係でいえば、IBAFはWBCの敵ではない。圧倒的な実力差がある。しかし、IBAFはプロアマを統括する唯一の国際組織である。プロの団体であるMLBでは手が届かない国のアマ組織にまで影響力がある。MLBはあたかも織田信長が足利将軍を上に頂いたように、名目上の権威者と手を組んだのだ。IBAFの役員にMLB関係者が就任すると見られている。

すでに今年初めには五輪がなくなって経済的に苦境に陥っていたIBAFに、MLBが3年間の期限付きで資金援助を行うことが決まっていた。IBAF側は、ほぼ1年かけて協議をしMLBを加えた国際野球の再編に合意した。IBAFには、オリンピックへの復帰にMLBの力を借りたいという思惑があったと思う。
IBAFは今後、野球のワールドカップを開催しないことを決めた。WBCをそれに代えたのだ。またMLBはWBCを招待国による争いではなく、予選を導入することにした。28か国が予選に挑む。

MLBは、自らの世界戦略にIBAFを取り込もうとしている。NPBなどに強引な駆け引きをする一方で、高度に政治的な動きも見せているのだ。最終的には、MLBは自らがサッカーのFIFAのような存在になるか、FIFAに当たる組織を顎で使う存在になろうとしているのだと思う。

しかし野球とサッカーでは大きく異なる点がある。サッカーの世界では世界中にサッカー強国、人気リーグがある。その勢力争いは強烈で、本家本元たるFA(イングランドサッカー協会)も影が薄い。ヨーロッパが主導しているが、南米やアジア、アフリカなど新興勢力の影響力も大きくなっている。FIFAは群雄が割拠するサッカーの世界を統治しているのだ。
これに対し野球は、アメリカ、MLBが圧倒的なガリバーである。野球が愛好されているのは北米と、中南米の一部。そして日本、韓国、台湾などに過ぎない。規模、経済力、影響力においてMLBに比肩しうる存在はいない。このままでは発展性がないので、MLBは、他国にライバルも育てなければならない。単にビジネスの触手を伸ばすだけでなく、未開の地を耕すような啓蒙、育成活動もしなければならないのだ。
本来であれば、MLBはかろうじて拮抗しうる存在であるNPBをビジネスパートナーにしたいところだ。アジア戦略を手を携えて進めたいところだ。しかしNPBは経済規模こそ大きいが、ビジネス集団とはとても言い難く、WBCに参加させるのが精いっぱいというところなのだ。

前にも述べたが、この図式は、今まさに進行しようとしているTPP(環太平洋経済連携協定)と瓜二つだ。アメリカは世界戦略的な視野で、太平洋を取り巻く国々を自己の経済圏に組み入れようとしている。ライバルの中国が外れている中、主要な交渉相手は日本なのだが、日本はアメリカとのタフなネゴシエイトを恐れて、交渉のテーブルにつくことさえ覚束ない。経済規模は大きいが、明確な意志を持てない国になりつつあるのだ。NPBはそういう意味で、まさに日本の縮図だと言えよう。

私は、NPBに一刻も早くMLBのまともな交渉相手になってほしいと思う。自分たちの仲間内で選手の取り合いなどちまちました戦いにうつつを抜かすのではなく、組織を繁栄させるために、大きなビジネス構想をもってほしいと思う。
またプロとアマは一体となって、野球界全体のことを決めていくべきだ。日本のアマチュア球界には、きわめて不健全で不適切な金の流れがあるという。NPBのOBも深くかかわっているこうした裏のネットワークが、日本の野球の発展や国際化にも暗い影を落としている。こうした古い体質を一掃しないと、野球は生き残っていけない。

幸いなことに、ソフトバンク、楽天、DeNAとボーダレスな活躍をする新しい企業がメンバーに加わった(今回の楽天の小ささは情けないと思うが)。人材はそろってきているのではないかと思う。
野球というコンテンツ、そしてその周辺のビジネスを、世界に売り込む。儲ける、影響力を与える。そんな大きな絵を描いてほしいと思う。