■ 最終戦

U-17ワールドカップのグループリーグ最終戦。吉武監督率いるU-17日本代表が、U-17アルゼンチン代表と対戦。日本は、初戦でジャマイカに1対0で勝利し、第2戦はフランスと1対1のドロー。引き分け以上で2位以上が確定する。

日本は「4-4-2」。GK牲川。DF川口、新井、植田、早川。MF深井、秋野、野沢、喜田。FW南野、高木。これまでの2試合で中心的な働きを見せてきたDF岩波、MF望月、GK中村がベンチスタート。高木豊氏の三男のFW高木大輔が初スタメン。DF岩波に代わって、DF新井がキャプテンマークを巻く。

■ 首位通過が決定

試合は開始早々に日本が先制する。前半4分に波状攻撃を見せて、アルゼンチンのゴールを迫ると、MF野沢のパスから右サイドバックのDF川口がうまいボールコントロールから、相手と競り合いながらもペナルティエリアに侵入して左足でシュート。アルゼンチンのGKがはじいたボールをFW高木大が決めて日本が先制する。

グループリーグ2位以内になるために、勝ちたいアルゼンチンは、早い時間に先制されたことで焦ったのか、無理なミドルシュートが多くなる。そんなアルゼンチンのイレブンを尻目に落ち着いた試合運びを見せる日本は、前半20分に右サイドからコーナーキックを獲得。左足でMF秋野が蹴ったボールをセンターバックのDF植田が決めて2点リードとする。前半は2対0で折り返す。

苛立ちの隠せないアルゼンチンは、後半23分にラフプレーで一発レッド。10人になってしまう。すると、日本は後半29分にFW南野のクイックリスタートから、途中出場のFW鈴木武蔵が左サイドを突破して、中央にラストパス。MF秋野のシュートの最初はGKに防がれるが、ファンブルしたボールをMF秋野が自ら押し込んでダメ押しの3点目を挙げる。柏ユースのMF秋野は1ゴール1アシストの活躍。

アルゼンチンは、後半42分に超ロングシュートが決まって1点を返すが、試合は3対1で日本が勝利。フランスとジャマイカの試合が1対1で終わったため、日本は2勝1分けでグループリーグ突破が決定。フランスが1勝2分けでグループ2位、アルゼンチンが1勝2敗でグループリーグ3位、ジャマイカは1分け2敗で最下位に終わった。

■ 18年ぶりのグループリーグ突破

この年代は身体能力の差が勝敗に大きく影響することもあって、日本はこの大会で結果を出せておらず、3大会連続でグループリーグ敗退に終わっている。MF小野、MF稲本らの黄金世代でも結果は出せていなかったので、実に、自国開催だった1993年以来のグループリーグ突破となった。

1993年の大会で中心だったのは、ベガルタ仙台やモンテディオ山形で活躍したMF財前で、MF中田英、DF松田、DF宮本、DF戸田らW杯でも活躍した選手が何人もメンバーに入っていたが、「スローイン」ではなく、「キックイン」という特殊なルールを採用していて、普通の大会ではなかった。今、考えると、変なルールで、「キックイン」のルールを最大限に生かして日本が決勝トーナメントに進んだが、自国開催を除くと、初の決勝トーナメント進出であり、快挙といえる。

今回のメンバーは、1994年以降に生まれた選手が対象になので、生まれたときには、すでにJリーグがあって、当たり前のようにプロのサッカーを観る環境にあった世代となる。今の30代や40代の人とは全く違う環境で育成されてきているので、それ以前の世代とレベルが違っていても、不思議ではない。

■ うっとりするようなパスワーク

これまでの2試合とは違って、そこまで暑くなかったということで、日本の選手も体が動いていて、特に守備のときの囲い込みの早さが目を引いた。難しいプレーを選択して、ボールを失うことも多かったが、ボールを失っても、すぐにアルゼンチンの選手を囲い込んで、奪い返すことができていたので、アルゼンチンの選手は自由にプレーすることができなかった。

ジャマイカ戦、フランス戦は、無駄にスタミナを消費しないように、ポゼッションを高くして、変なボールの奪われ方をしないように警戒していたが、アルゼンチン戦は、少し涼しかったので、リスクのある縦パスも多くなって、縦に進む意識も強かった。試合の終盤になると、メキシコの観衆も、日本のパスサッカーに見惚れているような歓声を挙げるようになったが、うっとりするようなパスワークで崩していくシーンが何度も見られた。

■ ボランチで奮闘したMF深井

「特別なタレントはいない。」と言われているこの世代であるが、面白い選手は何人もいて、その将来が非常に楽しみであるが、コンサドーレ札幌のユース所属のMF深井という選手は、気になる存在で、アンカーの位置でプレーして、MOM級の働きを見せた。

ジャマイカ戦は、テクニックのある野洲高校のMF望月がアンカーに入っていたが、その試合の途中からMF深井がアンカーに入るようになったが、MF深井の方が守備力があって、チームが安定してきた。175?という公称なので、そんなに大きな選手ではないが、1対1の守備が強くて、一人でボールを奪うこともできるし、奪ったボールを落ち着いてつなぐこともできる。

やや疲れがあったのか、試合の後半になると、相手にボールを奪われるシーンが増えていったが、攻撃でも守備でも、高いセンスを感じされるプレーヤーで、将来有望な選手の一人といえる。近年、コンサドーレ札幌は、J1に上がることができずに苦しんでいるが、ユースが、毎年のように優れた選手を輩出している。

■ 右サイドバックのDF川口尚紀

もう一人、目に付いたのは、右サイドバックのDF川口尚紀で、こちらはアルビレックス新潟のユース所属。アジア予選でも奮闘が目立っていたが、パワーがあって、前に進む推進力がある。1点目のFW高木大のゴールシーンは、DF川口のいいところが存分に出たシーンだった。

「テクニック」や「パスワーク」に目を奪われがちであるが、このチームは、「個の守備力」に優れている選手が多く、この点が、これまでの代表チームとは、一味も二味も違っているところであるが、DF川口は、その代表的な存在と言える。もちろん、チームで協力して守ることもできているが、1対1の守備で負けない選手が多いので、相手ボールになっても、やられそうな雰囲気はない。

■ 次の相手は?

これでグループ首位通過が決定。まだ、対戦相手は決まっていないが、いずれにしても、どこかのグループの3位チームであり、日本にとっては有利な組み合わせとなる。

大会前に、ジャマイカ、フランス、アルゼンチンという組み合わせになったときは、「かなり厳しいグループになってしまった・・・。」と思ったが、ネガティブな評価を跳ね返して、見事な戦いを続けている。「出来るだけ多くの試合を観てみたい。」と思わせてくれるチームなので、一つでも多くの試合ができるよう、勝ち進んでいってほしいところである。


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