時津風親方への協会事情聴取が始まった

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   時津風部屋の力士急死問題を巡り、日本相撲協会文部科学省から異例の指導を受けた。「『国技はく奪』突きつけられた」と報じたメディアもある。2007年初頭から続く「八百長」報道・告訴騒動、朝青龍「仮病」疑惑、取材証没収問題の対応について、協会は世論から「批判のつっぱり」を受け続けてきた。力士急死が傷害致死事件に発展しそうな局面を迎え、協会は「土俵際」に追い込まれている。

文科省が「異例」の協会指導

   07年9月28日、文科省は協会の北の湖理事長を呼び出し、時津風部屋の力士、時太山が「けいこ中に急死」した問題の独自調査や関係者処分などを求める指導を行った。文科省によると、理事長を呼び出した上でここまで具体的に相撲協会を指導するのは「恐らく初めてではないか」という。警察任せにしようとする協会の姿勢に業を煮やしての処置とも受け取れる。

   渡海紀三朗文科相と北の湖理事長が会談した様子はテレビでも報道され、「北の湖理事長のおじぎが大臣よりも浅い」と「憤慨」する視聴者も出た。翌29日の日刊スポーツは、「(文科省は)協会の対処が甘いと判断した場合、(略)財団法人の資格も取り消す構えだ」「国から見放された場合、大相撲は『国技』の看板を失うことから、協会側も対応策を検討し始めた」と報じた。

   協会はこれまで「内輪の世界で処理し、外部の批判に耳を傾けない」と批判されてきた。07年9月には、テレビ番組内で朝青龍の処分について協会に注文をつけたコメンテーターの意見に「うなづいただけ」の相撲記者、杉山邦博さんから一時取材証を取り上げる一幕もあった。

   今回の文科省の指導に協会が「耳を貸さなければ」どうなるのか。J-CASTニュースが文科省競技スポーツ課に取材した。担当者によると、協会は指導に従うと思われるし、万一従わない場合でも「根気よく指導する」。しかし、法律上は民法の規定により、財団法人としての「設立許可を取り消すことができる」。協会は、「大正時代」の1925年に財団法人として設立されこれまで続いた状態になっている。税制面などで優遇されており、その「特権」を「許可取り消し」で奪うのは、最後の手段「伝家の宝刀」という訳だ。

どうなる? 北の湖理事長の銅像建立計画

   北の湖理事長に指導内容を伝えた松浪健四郎・文科副大臣は、会見で「尊い若者の命が亡くなったという重さと今までのとではかなり重量が違う」と、警察が事件として立件しようとしている今回の力士急死問題を重く見る姿勢を示した。松浪副大臣は、力士急死問題が事件として表面化する前、副大臣就任直後の07年8月末の段階で、協会の姿勢を批判していた。朝青龍のモンゴル帰国治療を認める、認めないで一騒動起きていたころだ。

   朝日新聞8月30日朝刊によると、松浪副大臣は「小さいときから培われた思想が(日本人とは)違うという理解が欠落している」「協会は、伝統、歴史、文化を言う資格はない」「財団法人として(略)ちゃんと運営してくれているか、見直していかないといけない」と述べた。朝青龍問題に対する協会の対応を巡り、少なからず国民に「いらだち」があったことをうかがわせる「苦言」と受け止められた。

   批判の声は協会に届いているのだろうか。協会広報部によると、力士急死問題に関して「相当な数」の電話が入っており、内容の大半は協会や時津風部屋への批判だ。担当者は「批判があることを踏まえ、きちんと対応する方針だ」と話した。

   一方、批判の声は高まるばかりだ。力士急死問題について、10月1日にはTBS系「朝ズバ!」で一時取材証を取り上げられた杉山さんが「これは朝青龍の問題とは次元が違いますが、大相撲の歴史の根幹を揺るがす事件です」と事態の深刻さを指摘した。9月28日には、日本テレビ系「スッキリ!!」でテリー伊藤さんが「いまの(協会)首脳陣は全部アウトですよ。新しい体制をつくらないと、相撲自体がダメになっちゃいますよ」と厳しい声を挙げていた。

   協会批判の矢面に立った形の北の湖理事長を巡っては9月21日、故郷の北海道壮瞥町の「北の湖部屋郷土後援会」が理事長の銅像を建立する方針を決めていた。力士急死問題を警察が立件する方針を固めた、とする報道が一斉に流れたのは9月26日で、その直前だったことになる。壮瞥町は、08年夏の洞爺湖サミットの会場洞爺湖に面し、サミット前に理事長の銅像を、と町内外からの寄付を集めることも検討していた。力士急死問題が大きく報道され、寄付を集めにくくなったのではないか。後援会の船田寅雄事務局長にこの点を取材すると、「(北の湖理事長が)故郷の(元)大横綱ということは変わらない」と、計画に「今のところ」変更はないことを明らかにした。

   協会は10月1日、力士急死問題で時津風親方から「事情聴取」を行った。「警察にお任せしているから」としていた方針を一転させた形だ。ようやく批判に対し「がっぷり四つに組んで」取り組む気になったのかどうか。