メンバー発表時には子供と入浴していたという楢崎<br>【photo by B.O.S】

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 5月28日19時、静岡市内でキリンカップに向けた日本代表の練習が行われた。選手たちはチームメイトと談笑しながら、グラウンドへ向かう。そんななか、少し緊張した表情だったのが、名古屋グランパスのGK楢崎正剛だった。

 昨年6月のドイツワールドカップ以降、今合宿が初めての代表選出となった。96年、20歳での初招集以降、常に代表の一員だった。98年、02年、06年とワールドカップも三大会を経験したが、オシム監督は、川崎フロンターレの川島や大分トリニータの西川(U−22代表)、流通経済大学の林(U−20代表)などを選出していた。川崎の川島は、昨季は名古屋に所属し、楢崎の控えという立場だった。

 楢崎は、若手選手を招集する代表指揮官に不満を持つこともなかった。ピッチに立つことのなかったドイツでの悔しさや代表チームへの思いは胸の奥に隠し、所属するグランパスでの仕事に集中した。
 昨年末から今季第3節まで5試合連続で完封。Jリーグ記録の6試合連続完封は試合中の負傷退場で達成することはできなかったが、今シーズンは90分出場の7試合で3失点と好調をアピールしている。それでも“代表”は彼の頭の中にはなかった。

「今の自分には縁がないと思っていたから。驚きましたよ」27日代表メンバー発表にも関心がなく、いつものように、子供を入浴させ、寝かしつける準備をしていて、携帯電話に届いた吉報にもしばらく気がつかなかった。そして、練習中は川口や川島とは別に一人でゴールマウスに立つシーンも多く、指揮官が楢崎のプレーを見極めようとしていることが伝わってきた。

「代表という場所はいつでもいい緊張感があるけれど、さすがに今日はこのグループは初めてだし、いつもと違う緊張感はありますね(笑)。変わった練習が多いと新聞などで読んでいたけれど、今日はそれほどでもなかったですね。混乱するほどのことはなかったです。早くこのチームのやり方を吸収して、普段どおりの自分のプレーと監督から求められるプレーを出せるようにしたい」

 6月、ドイツワールドカップ終了時、「2010年もまたこの3人(川口、土肥)で、ワールドカップに行きたい」と話していた楢崎。南アフリカ大会への道が、今合宿から始まったのだろうか?「滅相もない。2010年なんてまだ考えてないですよ。それよりも次もまた呼ばれることが大事でしょう」緊張感に包まれた練習前の彼を見ながら、10年前の初選出の頃を思い出す。「代表なんて自分のいる場所じゃない、だって、代表ですよ!」と話していた彼を。

「さすがにもうあんな若造じゃないですから」と照れくさいのか、少しぶっきら棒にそう言った楢崎。ただ、チャレンジャーという立場は今も昔も変わらない。「完封は僕の力じゃなくて、チームの力だから。でも今年は自分のプレーに手ごたえを感じている」約1週間の代表合宿中でいかなるアピールができるのか?ベテランの経験と意地を見せて欲しい。

●text by Noriko TERANO