学校周辺の生きものの道(生きものの通り道)授業を行う飯島さん(写真提供:NPOアサザ基金)
社会問題を事業で解決しようという社会起業家が、様々な分野で活躍を始めている。行政にぶら下がるNPOの形に留まらず、積極的に収益を考えながら、社会の課題に挑んで成果を上げている事業もある。欧米で益々盛んになりつつある社会起業に対して、日本の社会起業家も世界に向けて提言や発信を行うべきだとする声も出始めている。

 琵琶湖に次いで日本で2番目に大きい湖の霞ヶ浦の自然の再生を目指して、1995年に「霞ヶ浦アサザプロジェクト」を立ち上げたNPOアサザ基金(茨城県牛久市)代表理事の飯島博さんは、社会起業家の中でも草分けの存在。全周250キロの湖岸がコンクリートで固められたり、海に通じていた逆水門が閉鎖されたことなどが原因で、水質汚濁を招いて悪化した動植物の生態系に着目した。「霞ヶ浦の湖面に、絶滅寸前のアサザ(ミシガシワ科の浮葉植物)の群落を取り戻そう」という分かりやすいビジョンによって、小学生を中心に地域住民13万人を動員させ、「市民型公共事業」を立ち上げた。

 農林水産省、企業、研究機関、官庁などが、次々と参加した同プロジェクトは、子どもたちが学校で育てたアサザを湖に植え、現在、大規模なものが湖周辺に11カ所、設置から1年で激減した動植物が数十種類復活した。水草が根付きやすいように、流域の木材を利用した消波装置を提案し、国の公共事業に採用され、同NPOは地元林業と国の調整役を務めるなど、森林管理と湖の再生をつなげてみせた。

 また、東京の山谷、大阪の釜ケ崎と並んで日本の「3大簡易宿泊所街」として知られている横浜市・寿町では、街の再生化を目指す「ファニービー」(神奈川県横浜市)の谷津倉智子社長が活躍する。約200メートル四方にひしめく約120棟の簡易宿泊所のうち、老建築化で空き室になっている約8000室を利用して、1泊3000円程度の格安料金でバックパッカーなど外国人旅行者をはじめ、横浜を訪れる観光客に提供した。05年6月から、世界40カ国から700人以上の若者を含め約3000人が同宿泊施設に滞在。一昔前までは粗大ゴミであふれていた道路脇には花壇が設置され、町が生まれ変わりつつある。

 一方、米国では、投資家のウォーレン・バフェット氏から400億ドルの資金を寄付されたマイクロソフトのビル・ゲイツ氏で知られる「ビル&メリンダ、ゲイツ財団」は、計700億ドル資金をユニークな社会起業に投資している。また、米国のハーバード大学やスタンフォード大学のほか、欧州では英国のオックスフォード大学やロンドンビジネススクールなど教育機関で、社会起業をテーマとする講座が増加し、ビジネススクールの知識やノウハウを、積極的に社会問題の解決に活用しようという流れが大きくなっている。