改札業務を省力化する交通系ICカードが普及した現在、不正乗車への割増運賃規程は昔と同じままでよいのだろうか(写真:U-taka/PIXTA)

新年早々「京王観光」による2億円に上る団体客の不正発券のニュースがあった。JRとの信頼関係で発券が認められていたものを悪用して不正発券をしたというものである。

このニュースを見て、旅行会社による不正発券とは関係ないが、「割増運賃制度」について考えることがあった(京王観光の不正発券については、不正発券された乗車券の法的性質などについても興味はあるが、それはさておく)。

不正乗車には「運賃3倍」の規程

適正な乗車券を持たずに正当な運賃をごまかすなど鉄道の不正利用があった場合、その正規運賃+増運賃で合計運賃相当額の3倍の支払いが求められることはよく知られている。

これは鉄道運輸規程19条に「有効な乗車券を所持せずに乗車した客に対しては、その客が乗車した区間に対する相当運賃とその2倍以内の増運賃(つまり3倍)を請求することができる」という趣旨の規定が定められていることに基づき、各社が営業規則に定めているものである。

しかし、この2倍の増運賃徴収制限は今なお合理的であろうか。

かつてはいわゆる「キセル乗車」がよく問題になった。A駅からB駅・C駅を通ってD駅まで通勤する者が、A駅から近くのB駅までの定期券と、D駅から近くのC駅までの定期券をもって、B駅からC駅までの運賃を数カ月にわたってごまかす乗り方である。

真ん中が空洞になっているキセルになぞらえて「キセル乗車」と呼ばれ、不正乗車の代表的なものであった。定期券を利用した「キセル乗車」は発見されれば数百万円の支払いを求められることもあった。

通勤者や通学者が毎日ごまかす場合には、たちまちのうちに巨額になることもあり、確かに抑止力にはなる。

しかし、たまにしか乗らない人がごまかすとしても、3回に1回ばれるリスクを負えばいいだけである。増運賃を加算しても単価数百円〜1000円程度なら背負えるリスクともいえなくもない(金額的な観点だけだが)。

今では駅の無人化や省力化が進んでいる。改札口にバーのない入出場を記録するための簡易なICカードリーダーが設置されているだけの駅も増えている。その点では有人駅が多かった時代よりも、監視の目を盗みやすく少額の不正乗車がしやすくなっている面もある。

細かな不正乗車の可能性があっても、駅員を置いて人件費が発生するよりは大きい目で見ればマシという考え方も合理的ではある。しかし、それでは正規の運賃を払っている乗客の運賃支払いへの動機づけを低下させ、モラルハザードを生じかねない。

日本でも「信用乗車方式」登場

また、最近では日本でもいわゆる「信用乗車方式」が注目されている(広島電鉄などで採用が始まっている)。改札口もしくは列車の乗降時での乗車券確認を省力化する乗車方式である。

乗客が正当な乗車券を所持していて列車に乗車していることを前提とするものであるが、その裏返しとして正当な乗車券を持っていないことが判明した乗客には高額のペナルティを課すということがセットになることがある。

現状日本では明確に信用乗車方式とうたっていない路線でも、上記のとおり駅の省力化・無人化が進んでいる中で、半ば信用乗車方式が取り入れられた形になっているところも多い。

先に述べたとおりに、バーのない改札の入出場を記録するためのICカードリーダーが立っているだけの駅も増加している(ICカード利用区間から外れてワンマン運転が実施されていない区間では事実上フリーパスになる可能性がある)。入出場記録を乗客の自発的な行動に委ねている点で信用乗車方式と変わりがない。

また、JR東日本の在来線普通列車のグリーン車は天井にあるカードリーダーにICカードをタッチすることでグリーン料金を正当に支払っているかどうかの確認がされ、一部特急列車では座席上にあるランプで当該座席の指定済の有無が確認される。

乗車券の確認方法、不正乗車への防止方法は、鉄道営業法が定められた時の人による監視から、機械による監視、信用乗車方式に準ずる乗車方法の採用など、大きく変わってきている。

運転士がいて車掌がいて改札係がいて、というように人的な目で確認できていた時代から変わって、鉄道事業者の目が届かなくなり、あるいは目が届きにくくなり、カメラなどで確認することはあっても、乗車券確認が乗客の行動に委ねられることになるのならば、引き換えにその信頼を破壊した場合のペナルティを重くすることで、抑止を図るというのは合理的である。

もちろん、増運賃が2倍では足りないということなら何倍ならいいのか、ということを決めるのは難しい。増運賃制度は不正乗車抑止のためのひとつの方策にすぎず、それだけで不正乗車を根絶できるものでもない。

現在の規程は時代に合っているか

しかし、問題は、鉄道運輸規程が増運賃の上限を設けていること自体に合理性があるのかということである。各鉄道事業者が不正乗車抑止に対するコストなどを検討してそれぞれ適正な増運賃を2倍を超えて設定することを許さず、一律に制限をかける理由は乏しいように思われる。

自由に増運賃の倍率を定められるとしても、「事業者が受ける平均的な損害」をはるかに超える倍率にするのは望ましくないなどの議論はあろう(これは消費者契約法9条により消費者が契約解約をする場合の違約金額などの定め方に関するものなので、増運賃額には直接関係はしないが、ひとつの基準にはなりうる)。

しかし、一律に2倍までという制限を設けることの合理性が今なおあるか、鉄道事業の現状に照らして再検討をしてもよいように思われる。

時々に改正はされつつも、鉄道営業法やその関連法令については大がかりな改正はなされてこなかった。本格的な自動化、省力化の時代を迎え、人による運行から機械による運行に鉄道が変わりつつある今、見直すべきところは多いと思われる。