灰や煙が出ず、近年販売量が急増している加熱式たばこ。「紙巻きたばこの喫煙を禁じる場所でも、加熱式だったら吸ってもいいの?」。そんな疑問が特命取材班に寄せられた。来年の東京五輪・パラリンピックに向けて受動喫煙対策が進む中、公共施設や飲食店などではどういう扱いになっているのか、調べてみた。

 昨年成立した改正健康増進法の施行に伴い、今年7月から病院や学校、行政機関などが屋内完全禁煙に、来年4月からは小規模既存店を除く飲食店やホテルのロビー、鉄道なども原則禁煙になる。加熱式も含む。

 不特定多数の人が出入りする公共施設では既に、紙巻きと加熱式を区別せず規制するところが多い。福岡市や北九州市、西鉄、JR九州は、禁煙の場所は加熱式も含めて禁煙。福岡市は昨年2月、市役所本庁舎や区役所、公民館を屋内全面禁煙とした。福岡市中心部の約10軒のホテルを取材したところ、紙巻きと加熱式を区別して扱うとの回答はなかった。

 屋外の喫煙については、改正健康増進法は規制していない。福岡、北九州両市の場合、条例で一部区域の路上喫煙を禁じるが、加熱式は対象外。「火を使わない」ことが理由という。

公共施設はNG…飲食店は対応に差

 法律上、扱いが分かれるのが飲食店だ。

 紙巻きたばこは、煙が外に漏れない「喫煙専用室」以外での喫煙は禁じる。加熱式たばこは加熱式専用の「喫煙室」を設ければ、飲食しながら喫煙できることになっている。

 現状は、紙巻きと同様の扱いとするケースが多い。福岡市・天神の喫茶店「サン・フカヤ」は1階と中2階が禁煙、2階が喫煙席。加熱式の客は、喫煙席に案内するという。男性従業員(64)は「客から『加熱式たばこもリスクがあるかもしれない』という不安の声があったので」と話す。

 全国チェーンの飲食店からは戸惑いの声も。全店で完全禁煙を実施する天神のファストフード店では「紙巻きたばこと同様に取り扱う」とマニュアルに明記。これに対し、近くのカフェは1年半前に完全禁煙に移行したものの、明確な規定がない。男性従業員は「加熱式は大丈夫と考える客もいて、『副流煙が出ないからいいじゃないか』と反論されたことがある。説得力を持って注意しにくい」。

 酒を飲みながらたばこを楽しむ喫煙者は多く、居酒屋などでは対応が難しいようだ。博多区中洲のある割烹(かっぽう)店は、紙巻きも加熱式も店内の喫煙を認めている。「男性の団体客が多く、禁煙を打ち出すのは難しい」と女性従業員(40)。特定の銘柄の加熱式に限って喫煙できることを売りにする居酒屋も出現している。

蒸気に有害物質、規制求める声

 医学的にはどうなのか。

 加熱式たばこ喫煙時の室内のニコチン濃度は紙巻きと比べて低く、主流煙に含まれる主要な発がん性物質の含有量も少ないとされる。問題は蒸気。産業医科大(北九州市)の大和浩教授によると、加熱式の蒸気には、有害物質や発がん性物質が多く含まれているという。

 販売開始から約4年たった現在も、詳しいリスクは明確になっていない。大和教授は「ぜんそくの人が二次曝露(ばくろ)(受動喫煙)で発作を起こすなど、アレルギー体質の人への影響が実際に確認されている」と警鐘を鳴らす。

 2017年の全国の成人喫煙率は17・7%。市民の受け止めはさまざまだ。

 周囲への配慮から加熱式に変えたという福岡市博多区の男性(60)は「紙巻きほど厳しくする必要はないのでは」。一方、たばこの煙を吸うとじんましんが出るという同市早良区の男性(57)は「加熱式でも確実に害がないとは言えない。規制を強めて」と訴える。

 小規模の既存飲食店は規制の対象から外れており、世界的には日本の受動喫煙対策は甘いという批判もある。事業者の取り組みもこれからが本番。肩身が狭い愛煙家にとって、少なくとも加熱式なら大きな顔ができる、という時代は到来しそうにない。(あなたの特命取材班)

【加熱式たばこ】電気式の専用器具で葉タバコに熱を加え、発生させたニコチンを含む蒸気を吸う新型のたばこ。喫煙者の2割程度が愛用しているという推計もある。国内で販売されているのはフィリップモリスの「アイコス」、日本たばこ産業(JT)の「プルーム・テック」、「プルーム・エス」、ブリティッシュ・アメリカン・タバコの「グロー」の4種類。各社は、紙巻きに比べ健康リスクが低いとしているが、日本呼吸器学会は使用者の呼気が拡散し、受動喫煙による健康被害が生じる可能性があるとの見解を示す。ニコチンを含まず、香りや味の成分を添加した溶液の蒸気を吸引器で吸う「電子たばこ」とは別。

※この記事は、本紙のインターンシップに参加した学生12人が取材に協力しました。

井芹大貴、伊藤圭汰、岩崎さやか、江頭史歩、小野友莉子、後藤茜、小林慎、中村まい、西尾真奈、前川和弘、村上恵実、本脇賢尚(敬称略)


=2019/02/06付 西日本新聞夕刊=