先日、自社テレビの国内販売から撤退することを発表した日立製作所。実に62年の歴史の幕が閉じることとなってしまいました。一方、2年前には倒産寸前とまで言われ、台湾の鴻海に買収されたシャープのテレビ販売は1,000万台を超え、復活を果たしたと言っても過言ではない状況となっています。何がこの差を生んだのでしょうか。店舗経営コンサルタントの佐藤昌司さんが自身の無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』で、「両社の明暗を分けたもの」について詳しく分析しています。

日立は自社テレビの国内販売から撤退、シャープはテレビ販売が倍増。明暗が分かれたワケ

日立製作所は9月25日、自社ブランドのテレビ「Wooo(ウー)」の国内販売を終えると発表しました。1956年から続く日立のテレビの国内販売の歴史に幕をおろします。日立は国内に約4,000店ある系列販売店「日立チェーンストール」でウーを販売していましたが、10月中旬からはソニーのテレビ「BRAVIA(ブラビア)」を販売します。両社は昨年から一部地域にて出張修理サービスで協力しており、連携を一層強化して国内での競争力を高めたい考えです。

日立は2012年をもってテレビの自社生産をやめ、現在は他社に生産委託した製品を系列店で販売していましたが、販売不振が続いていました。

日立は全社レベルで採算性の改善を進めており、ウーの国内販売中止はその一環とみられます。19年3月末を期限とする現在の中期経営企画では、売上高営業利益率を16年3月期の6.3%から8%以上にまで引き上げる方針を示しています。そうしたなか、テレビ事業を含む生活・エコシステム部門の営業利益率は4.6%にとどまっていました。また、同部門の全体に占める売上高の割合は5.8%と小さく、さらにその中でもテレビ事業は脇役となっており、再編の対象とみなされていたのです。

国内のテレビ市場は縮小が続いています。電子情報技術産業協会(JEITA)によると、17年の薄型テレビ国内出荷台数は前年比9.9%減の427万7,000台でした。3年連続で前年を下回っています。エコポイント制度などによる特需により過去最高となる2,519万3,000台だった10年以降、減少が続いています。

国内市場がしぼむなか海外市場に活路を見いだしたいところですが、海外では日立を含む日本メーカーの多くが厳しい状況に置かれています。書籍『日経業界地図 2018年版』(日本経済新聞出版社)によると、16年の薄型テレビの世界シェアは大きい順にサムスン電子(韓国)が28.0%、LG電子(韓国)が13.6%、ソニーが8.5%、ハイセンス(中国)が6.2%、TCL(中国)が5.3%となっており、ソニーが健闘しているものの、他の日本メーカーは韓国勢との価格競争に敗れて見る影もない状況です。

なお、同書籍による国内の薄型テレビのシェア(16年)は、シャープが33.3%、パナソニックが24.1%、東芝が15.2%、ソニーが12.8%、ハイセンスが4.2%となっています。上位を国内勢が独占しており、海外で上位だったサムスンやLGなどは見当たりません。サムスンはかつて日本でテレビを販売していましたが、販売不振で撤退に追い込まれています。日本では日本メーカーの優位性がまだまだ高い状況にあります。

国内外で健闘するソニー、存在感高まるシャープ

とはいえ、国内では市場が縮小し、海外では韓国勢などに追いやられているため、日本のテレビメーカーの多くが苦しい立場に立たされています。そうした中でも、近年はソニーが国内外で健闘しています。先述したとおり、海外シェアはサムスンとLGに次ぐ3位(シェア8.5%)となっていて、日本勢ではトップを走っています。国内ではシャープ、パナソニック、東芝に次ぐ4位(同12.8%)と健闘しています。なおソニーのテレビ事業の地域別売上高は欧州が最大で、米国と合わせると半数近くを占めます。

ソニーのテレビは世界で一定の存在感を示すことに成功していますが、もっとも、最初から好調だったわけではありません。ブラウン管テレビから薄型液晶テレビへ移行する00年代に薄型テレビでは出遅れてしまい、韓国勢との価格競争や過剰設備投資が負担となり採算が悪化、テレビ事業は14年3月期まで10年連続で赤字に陥るなど苦戦を強いられていました。

転機となったのは11年です。反転攻勢に打って出るため、それまでの数量を追う経営を改め、モデル数を絞り込み、画質やデザイン、使い勝手といった基本性能を追求した高付加価値のテレビを生産・販売する戦略に舵をきったのです。高付加価値商品では13年に本格投入を始めた4K対応液晶テレビが特に業績に貢献しました。こうした戦略が功を奏し、事業の業績が上向くようになったのです。15年3月期にはテレビ事業で11年ぶりとなる黒字化を達成しています。

ソニーの高付加価値商品で話題となったのが、17年5月に投入した有機ELテレビです。従来のテレビのように画面周辺にスピーカーが備えられているのではなく、パネル背面にある駆動装置が画面自体を振動させて音を出す仕様となっています。まるで映像から音が出ているかのような没入感の高い視聴体験ができ、「画面から音が出る」テレビとして話題を集めました。

こうした高付加価値商品の投入が奏功し、ソニーはテレビ事業で存在感を示すことに成功しました。18年3月期のテレビ事業の売上高は前年から2割増え8,648億円となっています。また、液晶テレビのメーカー別シェア(金額ベース、同社調べ)は3位だったといいます。今後の躍進が期待されるところです。

シャープのテレビも存在感が高まっています。シャープは01年に液晶テレビ「AQUOS(アクオス)」を発売しました。普及の目安とされた「1インチ1万円以下」に単価を引き下げて競争力を高めたほか、03年に地上デジタルテレビ放送が始まりテレビの買い替え需要が高まったことでアクオスの販売は好調に推移します。

生産体制の整備も進めていきました。04年に大型液晶テレビまで一貫生産できる亀山第1工場を、06年には第2工場を稼働させています。シャープの亀山工場は「世界の亀山」ブランドの液晶テレビを生産することで広く知られるようになり、それに伴いアクオスの販売は伸びていきます。

しかし、00年代中頃からサムスンやLGなど海外勢が台頭し価格競争に巻き込まれたことでアクオスの販売は次第に鈍るようになります。そこでシャープは価格競争力を高めるため、09年に、それまでの液晶パネルを自家消費する生産方式を改め、液晶パネルを他のメーカーに外販する戦略に舵をきったのです。

鴻海の支援で復活のシャープ

シャープは液晶テレビの製造に必要な液晶パネルなどの部品や組み立てなどの技術を自社で持ち合わせています。そのため、製造した液晶パネルは外販せずに自社で消費することを基本としていました。それにより安定供給ができ、取引費用を低減することができるのです。ただデメリットもあり、自社製造の部品が自社の最終製品へ依存が強まることで自社部品のコスト競争力が次第に失われていく「キャプティブの罠」に陥る危険性が高まってしまいます。

そこで、09年に堺工場を稼働させて液晶パネルの製造能力を高め、パネルの外販もする戦略に舵を切ったのです。これにより販売を拡大することができますが、外販してしまうとパネルがコモディティ化してしまうというリスクが一方で生じてしまいます。また、営業人員を確保したり、生産のための設備投資を行わなければならず、そのために莫大な費用がかかってしまうという問題も発生します。そして、パネルの外販ではサムスンなどとの競争が待ち構えており、熾烈な競争を繰り広げなければならなくなります。

そういったリスクを承知の上で戦略転換を図りましたが、それにより競争が激化し、次第にシャープの液晶パネル事業の業績は悪化することになります。液晶パネルで優位性を保つことができなければ、液晶テレビでも競争力を保つことができず、11年3月期以降は液晶テレビの販売が落ち込みました。液晶パネルは14年3月期にスマートフォン向けが拡大し、一時的に売り上げは回復しましたが、その後は特需効果が薄まり落ち込んでいきます。

液晶テレビと液晶パネルの販売が落ち込むと同時に、シャープ自体の業績も悪化します。14年3月期を境に売上高は減少していきました。また、15年3月期と16年3月期はそれぞれ最終赤字に陥っています。このように経営が悪化したため、16年8月に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業に支援を仰ぐ形で同グループの傘下に入ることになったのです。

鴻海の支援のもと、シャープは経営再建を図り、復活を果たすことになります。18年3月期の売上高は前年比18.4%増の2兆4,272億円、最終損益は702億円の黒字(前の期は248億円の赤字)と大幅な増収増益を達成しました。復活の原動力となったのが液晶パネルや薄型テレビなどのアドバンスディスプレイシステム事業で、売上高が3割伸びました。テレビ販売は倍増し1,000万台を超えています。こうして復活を果たしたシャープですが、今後の躍進も期待できそうです。

日本のテレビメーカーをめぐっては、シャープが復活を果たし、ソニーが国内外で存在感を発揮する一方、日立が苦戦し国内では撤退することとなりました。この1年で明暗がくっきり分かれたかたちです。ただ、競争は激しさを増しており、短期間で状況が一変してもおかしくはありません。この3社以外にも、パナソニックや東芝、海外勢などのブランドがしのぎを削っており、情勢は混沌としています。テレビ市場が今後どのように変化していくの、注視していきたいところです。

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