3月12日、首相官邸のぶら下がり会見で謝罪する安倍首相(写真:Kyodo/viaREUTERS)

「事実は小説よりも奇なりと申します」


国有地払い下げへの関与を否定し続けてきた安倍首相と昭恵夫人、2018年1月14日撮影(写真:REUTERS/Ints Kalnins)

昨年3月23日の衆議院予算委員会の証人喚問で、枝野幸男衆議院議員の質問に対して籠池泰典元森友学園理事長はこう述べた。その言葉通り、この問題は当初、大阪ローカルのニュースに過ぎなかった。それが昨年2月になるとまたたく間に全国的なニュースに押し上げられ、今や政権を揺るがすような大事件に発展している。

まさに小説よりもドラマティックな展開といえるが、この奇妙な出来事が起きた理由は、ひとえに総理夫人である安倍昭恵氏が“関与”していたからに他ならない。夫人の関与は安倍首相が進退を賭けて否定し続けていたことであるが、もはや否定できなくなった。

財務省は3月12日、ついに「決裁文書についての調査の結果」を公表し、森友学園問題の国有地取引をめぐる決裁後に文書を改ざん(政府の表現は「書き換え」)していたことを認めたのだ。

昭恵夫人に関する記載が複数あった

改ざんされた文書は14件で、300カ所弱にものぼる。そして削除された文言の中に、昭恵夫人に関する記載が複数あったことが判明している。

なぜ昭恵夫人の名前が決裁文書の中に記されていたのか。そもそも昭恵夫人は私人なのか公人なのか。政府は昨年3月14日、「総理夫人は私人」と閣議決定した。しかし実際はそうではないことが、削除された文言から見てとれる。

 崑任噌腓錣擦虜檗◆慄槐4月25日、安倍昭恵総理夫人を現地に案内し、夫人からは『いい土地ですから、前に進めてください』とのお言葉をいただいた。』との発言あり(森友学園籠池理事長と夫人が現地の前で並んで写っている写真を提示)」

◆峙事の中で、安倍夫人が森友学園に訪問した際に、学園の教育方針に感涙した旨が記載される」(いずれも「普通財産の貸付けに係る承認申請について・平成27年2月4日」と「普通財産の貸付けに係る特例処理について・平成27年4月30日」の「別紙1」の「これまでの経緯」)

いずれも昭恵夫人の「安倍首相夫人としての政治力」を利用しようとした籠池氏からもたらされた情報で、それを重視した近畿財務局が記録したものだ。削除されたのは、公表されては官邸にとってまずいと判断されたからだろう。


3月12日、首相官邸前で辞任を求めて抗議する人々(写真:REUTERS/Kim Kyung-Hoon)

さらに昭恵夫人の政治力を頼みにしていたと伺えるのが、「『学校法人 森友学園』の概要等」の中の削除された「(参考)森友学園への議員等の来訪状況」の箇所だ。中山成彬衆議院議員や平沼赳夫前衆議院議員の講演や、三木圭恵元衆議院議員、杉田水脈衆議院議員、上西小百合前衆議院議員ら日本維新の会女性局(当時)の来訪歴ともに、「平成26年4月 安倍昭恵総理夫人 講演・視察」と記載されていた。

森友学園に対して特別な計らいがあったことは明らか

そもそも森友学園では「教育講演会」と題し、多くの著名人を講師として招いている。たとえば百田尚樹氏が2016年11月、竹田恒泰氏が2011年5月と2013年5月、中西輝政京都大学名誉教授が2012年5月、櫻井よしこ氏が2011年11月に森友学園を来訪し、園児の父兄に政治や宗教、精神論などを説いた。

これらそうそうたる著名人を差し置いて、私人として昭恵夫人の名前だけがリストに掲載されたのは、やはりその政治力ゆえだろう。文書の作成者たる近畿財務局はそれを十分に理解していたため、決裁文書を改ざんしたに違いない。

理財局から森友学園に対して特別な計らいがあったことは、安倍昭恵夫人の名前だけではなく、交渉経緯も削除されたことからも明らかだ。たとえば2015年4月28日の「普通財産決議書(貸付)」や2016年6月14日の「普通財産売払決議書」からは、「特例的な内容」が消されている。また当該土地の貸付料について「年間の支払い回数については、学園の要請により年12回としている」が削除された。

こうした“書き換え”は財務省理財局が、昨年2月下旬から4月にかけて行ったという。麻生太郎財務相は12日のぶら下がりで、文書の書き換えは佐川宣寿理財局長(当時)の答弁に合わせるためだったと述べた。


3月12日、ぶら下がり会見で釈明する麻生太郎財務相(写真:REUTERS/Toru Hanai)

確かに佐川氏は国会で「記録は破棄した」と繰り返していたため、ないはずの交渉過程の文書が出てはまずいことになる。しかしそれなら昭恵夫人の名前まで消す必要があったのか。

なぜ昭恵夫人の名前を消したのか。それはやはり安倍晋三首相を守るためではなかったか。

安倍首相は昨年2月17日、衆議院予算員会で「私も妻も関与しているとするのなら、総理も議員も辞める」と明言。よって昭恵夫人の名前が交渉記録に残っては「関与」が伺えてしまうのだ。

その安倍首相の名前も、削除された決裁文書で日本会議国会議員懇談会の副会長として掲載されていた。佐川氏を斬り捨てた麻生財務相も特別顧問としてそのリストに名前があった。

キャリア官僚の手厚い“忖度”

なぜそこまで理財局は政治家を忖度しなければならないのか。これについては国税庁長官の人事を見るとわかりやすいかもしれない。国税庁長官のポストはかつて理財局や主税局、およびその他の部署でまわしていたが、林信光氏が2014年7月に就任して以来は4代にわたって理財局長経験者が独占している。

官邸が公務員の人事権を掌握する内閣人事局が設置されたのが2014年5月30日だが、決裁文書の“書き換え”は2014年6月に始まっている。また削除された2016年6月14日の「普通財産売払決議書」には、「貸付措置は、特例的な内容となることから、平成13年3月30日付財理第1308号『普通財産貸付事務処理要項』貸付通達、記の第1節の第11の1に基づく理財局長の承認を得て処理を行うこととし、平成27年4月30日付財理第2109号『普通財産の貸付けに係る特例処理について』により理財局長承認を得ている」との文言があり、理財局長も含めた“特別のはからい”が伺える。

佐川氏がぶれもせずに国会で「文書は破棄した」と言い続けた理由がよくわかる。

「なぜこんなことが起きたのか。全容を解明するために調査をすすめていく」

安倍首相は12日、やや疲れた表情で記者団にこう答えた。しかしその口調は他人事を述べているようにも聞こえた。7日に自死した近畿財務局の職員は周囲に「常識が壊れた」と漏らしていたという。

まさに長年真面目に働いてきた公務員の無念さがにじみ出る言葉だが、キャリア官僚の手厚い“忖度”によって守られている安倍首相に、果たしてその無念の思いは届いているのだろうか。