石橋製作所(福岡県直方市)の石橋和彦社長も「仮に自分の後継者がいないとなると、中小企業庁などの事業継承ネットワークが取り組むM&A(合併・買収)の形態が一番現実的だろう」との見方を示し、買収する側、される側の双方に魅力的な政策支援を打つことで「よりM&Aが加速する」とみる。

 機械部品精密加工のセイラ(埼玉県加須市)の原澤静男社長は「小ロットで精密な機械加工ができる製造業が少なくなっている」と話す。

 その上で「金属加工を一から始める人はゼロ。だから続ける意義はある。弊社も後継者がおらず従業員で一番能力のある人に継承する予定」とし、「事業承継はM&Aか贈与・相続の選択肢しかない。もっと優遇策を考えてほしい」と訴える。

 企業庁はこうした再編・統合に係る税負担の軽減措置創設も検討し、来年度の税制改正要求に盛り込んだ。株式・事業の譲渡益に関する税負担の軽減措置、事業譲渡によって生じる資産移転に係る税負担の軽減措置に加え、一定要件を満たすファンドから出資を受けた際も中小企業関連の優遇税制が適用できるようにする要件緩和がその中身だ。

 ガラスリサイクル製品を手がけるトリム(那覇市)の新城博会長は「優れた技術を持つ中小企業が後継者不在になって廃業し、それによって知的財産が海外流出すると日本にとって大きな損失になる」と語る。

 「研究開発に国費や補助金が入っている場合、成果は国内で保護すべきだ。そのため技術保護における事業継承についての基準法のようなルールづくりや管理機関が必要ではないか」との新たな課題も指摘する。
(事業承継取材班)