韓国の若者たちが「レクサス」を欲しがる背景

写真拡大 (全2枚)

韓国ソウルの江南区にある「韓国トヨタ江南展示場」。店には子供を連れた若い世代が多く訪れていた(筆者撮影)

最近、ソウル市内でトヨタ自動車のプレミアムブランド「レクサス」をよく目にするようになった。数年前は日本車と遭遇するのはまれだったが、ここ2年くらいだろうか、「レクサス」のほかにもホンダ「アコード ハイブリッド」などお馴染みのマークをつけた日本車をよく見かけるようになり、うれしくてにんまりしてしまう。

韓国の自動車市場で輸入車が占める割合は、14.36%(2016年度、韓国輸入自動車協会)。ちなみに日本は11.79%(同、日本自動車輸入組合)というから、韓国のほうが市場規模が小さいことを考えるとその人気の高さが伺える。

韓国で急上昇中の日本車人気

韓国の輸入車の中の日本車占有率は7月に22.5%となり、「輸入車の5台に1台が日本車」、「日本車快進撃」とちょっとした話題になった。2014年(10.85%)と比べると2倍以上に伸びていて、人気が急上昇していることがわかる。 

韓国で定番の人気の輸入車といえば、なんといっても欧州ブランドだった。人気御三家は、メルセデスベンツ、BMW、そしてフォルクスワーゲン(VW)またはアウディ。

2015年9月に米環境保護局によって暴かれた独VW社のディーゼルエンジン排出規制不正事件後でも、韓国ではその人気が目に見えて衰えることはなかった。そんな傾向の中でも「レクサス」をはじめトヨタ自動車、ホンダも輸入車販売台数でここ数年10位圏内に入るなど健闘を続けていたが、2016年8月に韓国でVWとアウディ車の一部人気モデルの販売が中断されると、「レクサス」は一気に3位に躍り出た。

日本車で韓国での一番人気は、ハイブリッド車の「レクサス ES300h」だ。同モデルは2016年、輸入車全体でBMW、メルセデスベンツに続いて最も売れたベストセラー車となり、今年5月と7月にはハイブリッド車としては初めて1位を飾り、韓国でのハイブリッド車市場を牽引しているとまでいわれるようになっている。

「レクサス」の韓国の自動車市場での人気は、VWとアウディが消えた場所を埋めているからだ、と言う人も多い。だが、「若い世代の価値観が多様化していることも、レクサス人気の理由になっている」と全国紙の経済部記者は指摘する。20〜30代が暮らしの中で求める価値観が変ってきていると言うのだ。

「輸入車が自動車市場に占める割合が10%にも満たなかった頃は輸入車に乗っていることは”富の象徴”でした。でも、今は少し違う。もちろん、外車=富と考える人もまだ多いですが、若い世代はそういう価値観とは一線を画す傾向が強くて、燃費やコストパフォーマンスにこだわり、しかも、自分たちの大げさに言えば人生の価値観に合った車を求めるようになってきています」

韓国では最近PM2.5問題が深刻で、その原因のひとつがディーゼル車から出る排気ガスといわれている。政府もディーゼル車への対策に乗り出していて、エコカーといわれるハイブリッドに注目が集まっていた。そこへ起きたのがVW事件だった。

レクサスのどこが高評価を受けているのか

全国紙経済部記者が続ける。「『レクサス』の人気は、性能、高級感、5000万ウォン台(約500万円台)という欧州車よりもお得感のある価格、そして燃費、さらに環境に優しいという『エコ』の魅力が加わったもの。若い世代で『レクサス』に手が出ない人たちも、同じような理由からトヨタやホンダのハイブリッド車を求めていると見られています」。

韓国で輸入車の割合が10%を超えたのは2012年。その頃までは輸入車に乗っていることはステータスを誇示する意味が今よりも強く、輸入車に乗っている人へのサービスは露骨に違うといわれていた。

とある駐韓日本企業の人もかつてこんな話をしていた。経費削減もあり、社用で使っていた車種をワンランク落としたら、いつも駐車していたホテルで、普段は地下の駐車場だったのが、地上の駐車場に誘導されたというのだ。その人は、「扱いが一転してぞんざいになって、韓国の人が車種にこだわる気持ちがよくわかった」と苦笑いしていた。

また、韓国では車といえば中・大型車という認識が強く、日本に旅行に行った知り合いが軽自動車の多さに驚いていたこともある。BMWの中でも5シリーズが今でも人気だが、最近増えているのはBMWの小型車ブランド「MINI」だ。日本でも輸入車の中で人気1位の同車を韓国で見かけるたびに、大げさだが、韓国社会での価値観の変化をしみじみと実感してしまう。

日本車を好むのは本当に若い人なのだろうか。そんなことを思いながら、実際にソウル市内のトヨタ販売店に足を運んでみた。すると、たまたまだったのかもしれないが、やはり、顧客には幼い子供連れの若い層が目立った。

今まで韓国車に乗っていたという30代の会社員は、「燃費、コスパとあとは子供がいますので環境のことも考えたら、トヨタのハイブリッドにたどり着きました。カムリハイブリッドは価格も3000万ウォン台ですし、(韓国) 国産車と価格はほぼ同じでも性能がいい」と話していた。

努力を続けてきた「韓国トヨタ自動車」

トヨタが「韓国トヨタ自動車」を設立したのは2000年だ。「レクサス」が先行し、2009年には「カムリ」などもラインナップに入った。韓国でのハイブリッド車販売は、2006年の「レクサスRX400h」に始まり、2014年からは「『360度ハイブリッド戦略』を推進している」と韓国トヨタ自動車の広報担当者は言う。

韓国トヨタ江南展示場の店内。韓国トヨタ自動車は「360度ハイブリッド戦略」を打ち出している。(筆者撮影)

「これはセールスからマーケティング、サービスに至るすべてをハイブリッドに集中させた活動のことで、文化や暮らしの中でのハイブリッドを提供するのが目的です。例えば、有機野菜栽培をするエコファームを作ったり、韓国は数年前からキャンピングブームですが、弊社が主催してハイブリッド車でキャンプを楽しむイベントを開催したりしています」

また、顧客満足のために日本の「おもてなし精神」を取り入れた"かゆいところに手が届くサービス"をミッションとしているそうで、「レクサス」は2016年には韓国の消費者満足度の5部門で1位になっている。 
  
韓国での日本車の躍進は、他国でのそれとは重みが異なる。韓国で日本車というと、やはりどこか抵抗感があったことは否めない。知り合いの60代の会社員はこんなことを言っていた。「昔はともかく国産を買うべきという周りの視線もあったし、日本車の性能がいくらよくても、外車だったら欧州車を買おうと無意識に思っていたところがあった。ところが、今はもうそんな意識も薄れた。うちの息子(30代)は昨年、日本車(カムリハイブリッド)を買ったんだ。日本車を買わなくてもほかに車はたくさんあるだろうにと言ったら、『性能とコスパで決めた』とあっさり言われましたよ」。

販売を中断していたVWとアウディが韓国でのテストにパスし、来年初めには人気モデルをひっさげて韓国での販売を開始する見通しだという。韓国での日本車ファンが増える中、輸入車の「人気御三家」の一角を守れるのか、人気の底力が試される。