『体感ドキュメント 日本の異国にホームステイ!』HPより。

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外国人に「日本はすごい」といわせるテレビ番組が目立つ。しかしそれは物事の一面でしかない。NHKの新番組では、各地の外国人街を訪れ、そこで暮らす人たちの家に泊めてもらいながら、「異国」での苦労を描いている。その内容を、ライターの西森路代さんは「日本に横たわる現実に目を向けた番組」と評価する。体裁は「楽しいバラエティ番組」だが、じっくりみると深刻な問題に踏み込もうとしているのだ――。

いま、テレビ番組で「人についていく」系の企画が目立つ。有名どころは『家、ついて行ってイイですか?』や『YOUは何しに日本へ?』(ともにテレビ東京)だろう。『家、ついて行ってイイですか?』は、町中で終電を逃した人に声をかけ、タクシー代を支払って家までついていく番組だ。『YOUは何しに日本へ?』では、成田空港に到着した外国人旅行客に来日の理由を尋ね、その目的を果たすまで密着する。いずれも、普段接することのない人々の生活を垣間見られ、自分とはまったく違った文化の中で生きている人たちを知ることができる興味深さがある。

今回紹介する『体感ドキュメント 日本の異国にホームステイ!』(NHK)も、そんな企画のひとつだ。「若手芸人が、全国にある外国人街に潜入し、泊めてくれる人を探して交渉。成立すればご自宅にお邪魔してガチコミュニケーションに挑戦する」(公式HPより)というのが番組趣旨である。はやりの「ついていく系」企画でもあり、知らない人と寝食をともにするという意味では、以前にこの連載で紹介した『チョイ住み』のような趣もある。

■MCは千鳥、藤田ニコルもいるバラエティ色

『日本の異国にホームステイ!』では、スタジオで芸人の千鳥とタレントの藤田ニコルがロケVTRを観る。7月22日放送の第1回では、ピン芸人の石出奈々子が名古屋にあるフィリピン人コミュニティを訪問した様子が、VTRで流された。

石出はフィリピンパブが大量に立ち並ぶ夜の街や近隣大学周辺を歩き、ホームステイ先を自ら探す。結局今回泊めてもらったのは、1泊目は名古屋でOLをしている日系フィリピン人4世の姉妹。2泊目は、パブで働くママ・アスカさん。3泊目は、日本語学校に通って介護福祉士を目指す女子学生2人の家だった。

それぞれ世代が異なる3つの家を訪れるたびに、彼女たちの来日と関係しているであろうフィリピンと日本の歴史について、専門家による解説がナレーションで挿入される。20代後半の日系フィリピン人姉妹については、20世紀初頭、フィリピンで道路建設工事を行うために日本人2000人が海を渡り、現在でもその子孫は日本で長期滞在するビザを取得しやすい、という背後関係が説明された。

アスカさんのように、パブで働くフィリピン人女性たちが大量に来日し始めたのは、バブル時代の1980年代後半のこと。好景気のあまり、歓楽街で働く女性が不足し、興行ビザを使ってフィリピンからの労働力を求めたのが始まりだった。2004年には年間8万人が来日し、その中の1割は日本人と結婚している。

そして介護福祉士を目指すフィリピン人が増えたのは、06年の日本・フィリピン経済連携協定締結がきっかけになっている。日本の介護現場での人手不足を補うためでもあり、フィリピンはまだ高齢化が進んでおらず、同様の問題を抱えていないという背景もある。

■矢沢ファンのフィリピンバプ・ママは涙した

ホームステイ先のフィリピン人女性たちは、皆明るいが、楽しいことばかりだったわけではない。OLの姉妹は日本で正社員になる前、コンビニのレジのバイトをしていたが、勤務先の店長が日本語で仕事内容を説明する上に、大きな声を出すので怖い思いをした。それでも彼女たちは「仕事は厳しいほうがいい」と語る。

パブで働くアスカさんは、フィリピンの家族を養うために27年前に来日した。故郷の美人コンテストで優勝したほどの美女で、来日費用で抱えた借金を返済しながら日本人男性と結婚。その後、子どもを2人もうけたが昨年離婚している。離婚に至った理由のひとつには、フィリピンの家族への毎月の仕送りがあった、と自身は考えている。矢沢永吉ファンのアスカさんは、子どもたちと暮らせないつらさを涙ながらに訴えたが、「日本が今の私を強くしてくれた」とも語る。

介護福祉士を目指す留学生たちは、まだまだこれからの日本での生活に希望を持っている。学校に通いながら介護施設でアルバイトをし、毎晩故郷の家族とチャットで話す。「日本は夢が広がる国です。(日本では)どんなときでも夢をかなえるのに人々が協力してくれる。なんでもできると思います」と語る。

最近のテレビでは、「ついていく系」と同じくらい、日本の文化や日本人を持ち上げる番組が目につくようになっている。「日本すごい系」と揶揄する言葉もあるくらいだ。現実には日本は単に憧れられる国ではなく、今回『日本の異国にホームステイ!』のロケVTRが映したように、外国人労働者たちが苦労をしながら生きているという一面を持つ国でもある。こうしたテーマは、ドキュメンタリー番組ならば珍しくないが、バラエティ番組ではなかなか取り上げられない。もしかすると制作者たちの間には、「ドキュメンタリー番組は真面目に観るもの、バラエティ番組は単純に楽しく観られるものにするべき」という不文律が存在しているのかもしれない。それゆえに、バラエティ番組が取り上げる“異国”の人々は、「日本大好き」と言われる気持ちよさを与えてくれる人ばかりになってしまうのではないだろうか。

『体感ドキュメント 日本の異国にホームステイ!』の、芸人とタレントがスタジオでVTRを観るという構成は、バラエティ番組の手法だ。冒頭で触れた通り、「ついていく系」企画というのも、現在のバラエティの時流に乗っている。さらにVTRの合間には、スタジオで全員がフィリピン名物である孵化直前のアヒルの卵「バロット」を試食していた。日本人からすればグロテスクに見えて身構えてしまうバロットを、芸人がおそるおそる食べるのはバラエティ番組で非常によくあるシーンだ。逆に、日本の食べ物が海外の人から身構えられることだってある。それが文化の違いである。今回千鳥が見せていた反応は、お笑いとしても異文化を受け入れるという意味でも、バランスがとれていたと思う。バラエティでも、こうした文化の違いを単なる罰ゲームとして扱わない方向性がもっと出てきてもいいのではないか。

『日本の異国にホームステイ』は、こうしたバラエティでおなじみのフォーマットを使いながら、番組のタイトルにある通り「ドキュメント」を放送することで、ドキュメンタリーとバラエティの住み分けを飛び越え、日本に横たわる現実に目を向けてもらうことを目指しているように感じられた。

次回の放送はまだ発表されていないが、今後もさまざまな国から来た人の暮らしやその背景を、バラエティ感覚で観ながら学べる番組として機能していってほしい。

(フリーライター 西森 路代)