磐田を率いて4年目の名波監督は、3バック、4バック、5バックを使い分ける。柔軟に形を変えながら、攻守に連動する戦術を浸透させたその手腕は、実に素晴らしい。(C)SOCCER DIGEST

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 J1リーグ19節の川崎フロンターレ戦に5-2で勝利し、ジュビロ磐田が6連勝を飾った。まさしく破竹の勢いである。
 
 ユニホームの色が似ているから、というわけではないが、最近の磐田は、アントニオ・コンテが指揮したEURO2016のイタリア代表を想起させる。守備の段階に応じて3バック、 4バック、5バックを使い分ける。ボールの奪いどころを明確に定め、ゾーンの網に誘い込む。そして、そこからカウンターを繰り出す流れもスムーズ。あのアッズーリ(イタリア代表の愛称)と今の磐田には、多くの共通点を見出せる。
 
 今季途中から、磐田は3バックを本格的に導入した。それはコンテのイタリア代表と同じく、守備の段階に応じて形を変える。まず敵陣の高い位置、ハイプレスゾーンでは3-4-3。そこから少し下がった位置、センターライン付近で網を張る時は、両ウイングバックを下げて5バックに。同時に右サイドの中村俊輔も下がって5-3-2に変形し、川又堅碁とアダイウトンの2トップをカウンターの充電者として前線に残す。
 
 この時、アダイウトンが下がってこない左サイドにスペースが生まれるが、ここにパスが出れば、左ウイングバックの宮崎智彦がゾーンを飛び越えてカバーする。そして残った4人のDFは左サイドへスライド。つまり、磐田の5バックはべたっとラインを敷くわけではなく、各DFが縦パスに対して果敢にアタックし、5-3-2を4-4-2に変形させながらディフェンスラインを高く保っている。同じ仕組みはEUROのイタリア代表にも見られた。
 
 この守備は、カウンターの威力を増大させる。5-3-2で薄くなった爐茲Δ妨える〞中盤に、相手の縦パスを誘い込み、5バックのDFが前向きにアタックしてこれを潰す。そして、奪ったボールを素早く2トップへつなぐ。上手くタイミングが合えば、パチンコ玉が弾かれるように、きれいにカウンターが決まる。
 
 例えば、川崎戦の55分の得点シーンだ。右ストッパーの高橋祥平は、相手の縦パスが流れたところをダイレクトに打ち返し、川又の足下につけた。どんなに切り替えが早くても、 ダイレクトに打ち返されたパスに反応し、潰すのは不可能に近い。そして、起点となった川又からのパスを、センターハーフの位置から駆け上がった川辺駿が受け、ドリブルで持ち込んで貴重な3点目を決めている。
 
 同様に左サイドでも、森下俊や宮崎がダイレクトに縦パスを打ち返し、アダイウトンを起点としたカウンターを繰り出す。爛瀬ぅ譽ト〞に加え、特筆すべきは3人目の動きとなる川辺やムサエフの長駆のフリーランだ。前線の選手を追い越す彼らのダイナミズムが、磐田のカウンターをより迫力あるものに仕上げている。
 ただし、最終ラインは常に高く保てるわけではない。相手に横パスで揺さぶられると、DFの前方へのアタックと横へのスライドが間に合わなくなるからだ。その場合は割り切ってアダイウトンも引かせて、5-4-1として重心を下げる。状況に応じてフレキシブルに形を変える柔軟性が、今の磐田にはある。
 
 そして、もうひとつ磐田で際立つのは、ゾーンディフェンスの出来だ。5バックは選手間の距離がコンパクトに保たれ、中央に絞ることで相手のスルーパスを遮断する。
 
 15節・浦和レッズ戦の時点ではまだ綻びがあり、阿部勇樹にワンツーからDFの間を突破され、ゴールを許している。名波浩監督は記者会見で「5人の横の距離感が、特に我々の左サイド、森下と宮崎のところで通常より幅を取ってしまった。あと3メートル内側に、という意識を持たせたい」と語っていたが、この言葉からも磐田がゾーンの距離感にかなり気を配っていることが分かる。
 
 縦パスを縦パスで打ち返す爛僖船鵐涯魅ウンター〞にも、ゾーンで守るメリットが生きている。ゾーンでは味方との距離感、位置関係を意識しながら守るので、ボールを奪った瞬間にパスの出しどころを見つけやすい。逆にマンツーマンの場合、敵を見ながら守備をするため、どうしても奪ってから味方を探しがちだ。また、磐田では5バックが隙間を埋めるように中央に絞っているので、ムサエフや川辺が最終ラインまで下がる必要性が低く、カウンターに出て行くポジションを取りやすくなる。「良い攻撃は、良い守備から始まる」というわけだ。
 
 現役時代の名波浩は、「僕に足りないものがイタリアにあると思う。それを探しに行ってきます」と言い、守備戦術の国へ渡った。足りないものを見つけ、磨いた結果、それはいつしか武器になった。
 
文:清水英斗(サッカーライター)

※『サッカーダイジェスト』2017年8月24日号(同8月10日発売)「サムライ・タクティクス」より抜粋。