ロッテ・井口資仁【写真:佐藤直子】

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かつてWS制覇にも貢献、井口資仁が考える日本人選手に足りないこと

 いよいよ3月6日から第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が開幕する。野球日本代表「侍ジャパン」は、小久保裕紀監督の下、2大会ぶりの優勝を目指し、まずは初戦3月7日のキューバ戦に臨む。

 国際大会で目を引くのは、中南米を筆頭に海外の選手が見せる華麗な守備だ。想像を超えたスーパープレーに度肝を抜かれることもあるが、こういったプレーをすることは日本人選手には不可能なのか。海外の選手と日本人選手の間には、大きな技術の差があるのか。2005年、正二塁手としてホワイトソックスのワールドシリーズ制覇に貢献したロッテ井口資仁選手は「技術って、そんなに変わらない気がするんですよ」と話す。

「技術以上にメンタルの差じゃないかな。今の若手選手は、特にメンタルが弱い子が多いような気がします。チャンスを自分でピンチに変えてしまう。失敗して怒られることを先に考えて、思い切ったプレーができなかったり、守備でも確実なプレーをし過ぎようとしてセーフになったり。勝負すべきところで勝負できていない。そこを一歩踏み出せない選手が多い気がしますね。

 守備だったら、逆シングルで捕らないとアウトにならない場面で、わざわざ正面に入って捕る。(打球を)よく止めたって言われるけど、止めるだけだったら誰でもできるし、ヒットと同じ。そこをいかに逆シングルで捕って、エラーっぽく見えたとしても勝負してアウトにするかが大事。

 日本人は、9回2アウト、一打サヨナラの場面でしか勝負を掛けられない。海外の選手と日本人選手の差って、当然、点差とか気にすべき要素はあるけれど、常に初回から勝負ができるかできないかの違いじゃないかなって思います」

若手選手に掛ける言葉とは…「自分の長所が何かを見極めるのも、プロとしての仕事」

 勝負をかけない日本人は、ややもすると平均的に育つ傾向にある。すべてが合格点だが、何か飛び抜けた特長がない。21年目を迎えるプロ生活で自らが学んだ経験も踏まえながら、若手選手にこんな声を掛けることもあるという。

「『守備でも走塁でも打撃でも、何か1個伸ばせば、それだけで1軍に行けるよ』って話はしますね。守備が上手ければ守備固め、打撃がよければ代打、足が速ければ代走で出られる。すべてが平均的だったら、ただの2軍選手で終わってしまう。自分の長所が何かを見極めるのも、プロとしての仕事ですよね」

 中でも、若手選手が無駄にしていると感じる能力が「足」だという。

「すごく足の速い選手がいっぱいいるのに、走らない選手が多い。走れる時に走らないと。年を取ると、どうしてもスピードは落ちてくる。走れる期間は決まっているから、気が付いた時には野球人生は終わってしまいます。チーム方針もあるけれど、自分でアピールできていない部分も多いでしょうね。本当に走りたいんだったら、自分から『走らせてください』って伝えればいい。サインが出ないのは『お前に任せる』って言われるまでの信頼を勝ち取っていかないから。そこは貪欲になっていいと思います」

 2005年から4年プレーしたメジャーでは、個々の選手が持つハングリーさや貪欲さを痛感したという。いかにメジャー契約を勝ち取るか、いかにメジャーのロースター25人枠に入るか、いかにレギュラーとして定着するか。巡ってきたチャンスを逃すまいと、文字どおり身体を張ってプレーする選手に、駆け出しの頃の自らの姿が重なったようだ。

「怪我をしても休めない。そのポジションを狙う選手はいくらでもいますから。休んだら、あっという間に奪われてしまう。どこか痛くても、ごまかしながら143試合を乗り切るのがプロじゃないかな。全試合100パーセントの状態で出られる選手なんて誰もいない。1年間プレーしながら好不調がある中で、いかに成績を残すか。それがレギュラーの仕事だと思います。

 少しでもいい成績を残して1軍に定着するために、投手のクセを徹底的に探したこともあります。フォームだったり、球種別だったり。何か一つでもクセが分かれば、盗塁の成功率やヒットが打てる確率はグンと上がるじゃないですか」

「投手のクセが分かっても、なかなか人には言わなかった(笑)」

 プロ野球選手であれば、毎日が勝負。それは試合の勝敗に限らず、チーム内での生き残りも同じ。チームとしての結束を保つ一方、個々の選手がいい意味で自己中心的になってもいいのかもしれない。

「今の若い選手は人がいいから、何でも情報を共有しようとする。勝ち残りたいんだったら、他人と差をつける努力は必要ですよね。僕は投手のクセが分かっても、なかなか人には言わなかった(笑)。『教えろ』って言われても、自分がレギュラーとして勝ち残ることで必死だったから。

 チームのまとまりは必要だけど、ダメな時に傷を舐め合うような仲良しクラブじゃダメ。誰かが怪我をしたり調子を落とした時、『ここがチャンスだ』っていう競争がチームの中にあれば、自然と強くなるし、まとまりも生まれると思うんですよね」

 勝負をかける思い切りの良さ。チャンスを逃さない貪欲さ。そして、自分の長所を見極める意欲。この3つを実践したからこそあるプロ21年目のシーズン。NPB最年長野手、井口資仁の存在こそが、若手にとって生きる手本なのかもしれない。

佐藤直子●文 text by Naoko Sato