小池百合子都知事

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2020年東京五輪のボート・カヌー競技の会場新設に関して、議論が巻き起こっています。組織委員会の計画では、東京湾埋立地の水路に「海の森水上競技場」を新設することにしていました。しかし、ここに小池百合子・東京都知事主導による都政改革本部から、調査報告書の形で一石が投じられます。コスト面や、レガシーとしての価値などを疑問視し、候補地の再検討を含めた見直しを図るようにうながしたのです。

これを受けて宮城県から、国際規格を満たす宮城県登米市の長沼ボート場を会場としてはどうかと手が上がり、「東京都以外での開催」というところまで選択肢の幅を広げた、揺り戻しの検討が始まったのです。

しかし、この案は現実的とは言えません。宮城案は、競技場こそあるものの、観客席や中継のための設備はもちろん、交通インフラなど根本的な部分に欠けており、逆に言えば「競技場以外は何もない」に等しい状態。パラリンピック選手受け入れのためのバリアフリー化も進んでおらず、最寄駅のひとつにはエレベータすらないという状態です。

また、選手・関係者の宿泊施設については近隣にある震災時の仮設住宅を再利用する計画とのことですが、観客の宿泊についての対応は不透明なまま。仙台市内で宿泊し、観戦に合わせて競技場まで新幹線+シャトルバスで移動をさせるのか、あるいは宿泊所を新たに設けるのかという、運営面での課題を多数抱えています。

そして「レガシー」として現地に与える影響も不透明。長沼ボート場は現状においてボート界の中心的競技場ではなく、国内全国規模の大会の多くは1964年東京大会の競技会場である埼玉県戸田市の戸田漕艇場で行なわれています。戸田漕艇場の周囲には大学・実業団の合宿所が併設され、ボート界の中心地となっているのです。検討案のひとつにあげられている戸田市の彩湖案は、戸田漕艇場の近隣にある彩湖に新たなコースを作るという計画で、現行の合宿所などを活用できることから選手の支持が集まるのもうなずけます。

東京都から出るにしても、東京に極めて近い埼玉県戸田市に選手が集まる場所があるのに、何故わざわざ遠くの競技場を整備するのかという根本的疑問。交通の便や、近隣にある大学漕艇部の数などを考えたとき、せっかく五輪のために長沼ボート場の整備をしても、活用されずに負の遺産となる未来は容易に想像できます。ヒトがいない場所、選手がいない場所に設備を作るのは無駄なのです。