北朝鮮の国営メディア、朝鮮中央通信がパリ同時多発テロについて事件の概要のみを伝える記事を配信した。論評は加えられていないものの、「イスラム国」(IS)を「国際テロ組織」と規定し、事件のことを「凶悪なテロ行為」と表現している。ただ、金正恩第1書記や北朝鮮政府としてのコメントの類は、発表されていないようだ。

これまでも繰り返し指摘してきたことだが、北朝鮮は、間接的ながらISと敵対関係にあると見られている。エジプトやイランなど、ISと対峙するイスラム圏の国家と長く友好関係を結んできたためだ。中でも近年、金正恩第1書記が特に親密にしているのがシリアのバッシャール・アサド大統領だ。2人は誕生日など折に触れて熱いメッセージを交換する仲であり、その中で頻繁に言及されるのが「テロとの戦い」との言葉である。

ちょうどこの15日にも、正恩氏はアサド氏に祝電を送っている。アサド氏の父親であるハーフィズ・アサド元大統領による「革命」(クーデター)成功45周年を祝うもので、ISのテロなどとは関係ないのだが、このメッセージの中でも「(シリア現政権の)敵対勢力のあらゆる挑戦」に打ち勝つことについて言及されている。

もっとも、正恩氏の言う「敵対勢力」はISだけを指しているわけではなく、米国などの支援を受ける反政府軍も含まれている。

いずれにせよ、国内での人権侵害の罪を問われ、ほとんどヒトラーと同列扱いされかかっている正恩氏にとっては、ISが「絶対悪」と見なされ、自分がそれと敵対している構図が出来上がることは悪いことではあるまい。

もちろん、自国民の虐殺場面が衛星画面でも捉えられている以上、それで罪を見逃してもらえるわけではないが、言い訳の材料ぐらいにはなる。

ほとんど知られていないことだが、実は北朝鮮国民もISと思しき勢力による拉致されている。人質となったのは「愛国者」と言われた人々なのに、彼らを救出するため、正恩氏が必死に努力したという話は聞こえてこない。

こういう時にも「頼りになる親分」を演じられないとなれば、世襲体制の行く末も長くはないかもしれない。