錦織圭(ATPランキング8位、11月16日付、以下同)が、ATPワールドツアーファイナルズに帰ってきた。年間成績上位8人しか出場できないロンドンでの大舞台への出場権を、錦織は2年連続で獲得したのだ。これは、日本だけでなくアジア全体で、男子選手としては初めての快挙だ。シーズン終盤に、右肩痛や左わき腹筋痛があって、フィジカルに不安を残したが、ツアー最終戦への2年連続出場は、高く評価すべき成績だ。

「やはりすごく光栄なことですね。目標にしていたこの場にいられることは、嬉しいです」

 このように語った錦織が、2015年大会では25歳で最年少出場となる。ツアーに帯同した2人のコーチも、ツアー最終戦の出場を評価した。

「とても安定していた1年だったと思います。再びロンドンでプレーすることは、決して容易なことではありません」(マイケル・チャンコーチ)

「2年連続で出場権を獲得したし、圭が最も若い選手だし、彼にとっては、とてつもなく大きなことだと思います」(ダンテ・ボッティーニコーチ)

 さらに、ツアー最終戦に14年連続出場を果たし、大会史上最多となる6回の優勝を誇るロジャー・フェデラーも、錦織の活躍を称えた。

「素晴らしいよ。選手誰もが達成したいと思う目標だ。僕たちにとっては、シーズン初めから最後まで、ツアーファイナルズの出場権を得ることは大きなゴールだからね。圭は、いくつかのケガがあったけど、それを再びやってのけたのだから、よくやったと思う」

 ラウンドロビン(総当たり戦、以下RR)で、錦織は、ノバク・ジョコビッチ(1位)、フェデラー(3位)、トーマス・ベルディヒ(6位)と同じグループに入り、初戦の相手は、ジョコビッチとなった。

 今季のジョコビッチは、グランドスラム3冠で、早々と2015年シーズンの年間ナンバーワンを決め、28歳にしてキャリアベストのシーズンを過ごしている。ツアーファイナルズでは3連覇中で、今回も優勝候補筆頭だ。

ジョコビッチは、どのショットでも打ってこれるし、バランスを崩さないので、ディフェンスもいいですね。特にこの(ツアーファイナルズの)遅いコートで、去年(の準決勝)もそうでしたけど、(ショットを)決めきるというのは、すごく難しくなる。気持ち的にも我慢しながらプレーしないといけない」

 このように警戒をしていた錦織は、直近のマスターズ1000・パリ大会で痛めた左わき腹筋の炎症が80〜90%の回復具合で、初戦を迎えた。

 コート上で動きが速く、攻撃的なテニスを好む錦織に対して、「圭は、ベストのパフォーマンスではなかった」と語ったジョコビッチが、ペースを上げたり、遅くしたりと緩急をミックスして、錦織の得意とするプレーを許さなかった。さらにショットの精度が高く、盤石のジョコビッチに対して、錦織は、ファーストサーブのポイント獲得率がわずか43%とふるわず、ミスも22本犯し、1−6、1−6、わずか1時間5分で敗退した。

「すごく差は感じました。ショックは大きい。相手がものすごくよかった。サーブがもう少し入っていれば、スコアも変わっていたと思う。ちょっと強すぎたので、何を明確にしたらいいか、ちょっと出てこないので、少しずつ練習していくしかない」。まざまざとジョコビッチに力の差を見せつけられ、錦織は茫然自失状態だった。

「不安はあります」と語る錦織のコンディションが、急激に好転することが期待できない現状では、RR残り2戦も、厳しい戦いを強いられるだろう。ツアーファイナルズという大舞台で、錦織がベストコンディションで戦えないのは残念だが、約11ヵ月におよぶテニスシーズンを、いつも良い調子で戦うのは非常に難しい。その悪いなりのコンディションの中で、世界のトップ8の選手を相手に、錦織がどう戦っていくのか、そういう経験を積んでいくことも、来シーズンに向けて必ずプラスになるはずだ。

 錦織は、11月17日(現地時間)に、RR第2戦でベルディヒと対戦する。

「ベルディヒは、サーブと力強いストロークがあり、1本で決められるパワープレーヤー。でも、ちょっとした油断や荒さは、他の2人よりもあると思うので、その隙をついていけるようにしたい」(錦織)

 まずは1勝を挙げて、グループ上位2名が進出できる準決勝への望みを残したい。

神 仁司●文 text by Ko Hitoshi