『精選女性随筆集須賀敦子』(須賀 敦子川上 弘美選) 長い時間をかけて作家になった須賀敦子は、らしくない作家ともいえる。 おそらく本人はみずからの作家というあり方を、肩書きや職業としてよりは、食べ、歩き、読むことと同じく本質的な「書くこと」の延長線上のごく自然な状態として意識していた。本や文章を書く、という行いは彼女にとって生きてゆくうえで自己確認のきわめて根本的な作業であり、人生における最