日本を疲弊させる「消費税」を廃止せよ

■日本は貿易立国、輸出大国だという“誤った自画像”

1989年に消費税が導入されて26年。この期間は日本の「失った20年」ともちょうど重なる。消費税のみをその原因とするつもりはないが、この税金が日本経済全体に与える負の影響を改めて検証・分析するときにきているのではないか。

消費税が導入された89年、引き上げがなされた97年と14年も、社会保障費の捻出と財政再建が謳われてきた。しかし、導入・増税をするたびに日本の財政は悪化し、社会保障費が充実したと実感している国民も恐らくいまい。社会保障費の充実にも、財政再建にもまったく役立たなかった消費税についていくら御託を並べられても、四半世紀も経過すれば一般国民もいい加減にその実像に気が付くというものだ。

なぜ消費税はここまで日本経済を疲弊させてしまうのか。その理由の一つが日本が貿易立国、輸出大国であるという、いわば“誤った自画像”だ。輸出の裾野の広さを否定するつもりは毛頭ないが、日本のGDP(国内総生産)に占める輸出依存度は戦後から現在に至るまでわずか十数%に留まっており、各国比で見れば毎年米国と並んで最も輸出依存度が低いのが日本である。つまり、日本の経済構造は外需依存型ではなく内需依存型経済ということになる。

今回の円安ステージでも輸出の伸びが期待されたものの、芳しくないのは報道の通りである。それまでの数年の円高を放置した間に急速に海外へ生産拠点が移されたとの説明もあるが、やや正確さに欠ける。というのも、内閣府による企業行動に関するアンケート調査結果を見ると、上場している製造業を対象にした「海外現地生産を行う企業の割合」が急激に増加したのは80年代(30%台後半)から90年代(60%台)。以降はゆるやかな上昇傾向をたどり、最新のデータで69.8%という状況だ。円高に影響されぬよう海外拠点へ移転をしたのなら、円安になっても良くも悪くも影響は出ないということになる。輸出による景気回復に構造的な無理があるのは、すでに90年代からといえよう。実は消費税も輸出優遇の側面を持つのだが、こうした過度な輸出優位策が果たして日本経済全体に功を奏するのか、俯瞰する必要があろう。

日本のGDPを占める最たるものは民間消費の6割であり、民間設備投資も2割弱を占める。サラリーマンの平均年収はこの15年、概して低下傾向にある。そんな状況下で無理矢理増税となれば実質の手取りが減り、消費が減退するのは当然。そして最終需要が見込めぬ中では国内での設備投資など企業が積極的にできる道理がない。かように消費税は、日本のGDPのおよそ8割を占める内需をダイレクトに疲弊させてきた。

内需を復活させる=民間の消費を活発にするためには実質的な所得を上げる必要がある。例えば民間消費が7割を占める米国では2000年以降、ITバブル崩壊、9.11同時多発テロなど国内景気が低迷する事態となると一般国民に向けてもブッシュ減税が実施され、しかもサブプライム危機の影響が排除される12年まで継続された。また、カナダは91年に日本の消費税に当たる物品サービス税(GST)を7%で導入したが06年に6%へと引き下げ、世界的な金融危機の影響を見据えてか、08年には5%へと段階的な引き下げを行ってきた。景気が悪ければ減税を実施して、民間所得を実質的に引き上げ、消費で内需を活性化する政策が採用される。この当たり前の処方箋が、日本ではこの25年間まったく施されていない。

14年10月中旬に米財務省が発表した「為替報告書」は14年4月からの増税の副作用によって大規模な収斂が発生、日本経済の先行きに不確実性が増したと指摘。失われた20年からの脱却を目指すはずの政権が国内需要の活性化に水を差す増税を断行する矛盾に首を傾げる。

米国が日本経済の先行きを懸念するのは、一つには報告書にも記載されている通り世界経済の牽引役を期待してのこと。もう一つは後述するが、米国にとって非関税障壁となる日本の消費税への圧力という側面があろう。ただし、一国の税制について口出しするのは内政干渉となるので、増税による実体経済への悪影響について詳細な分析をしても、税制そのものへの言及はない。余談だが、この内政干渉の問題があるがゆえに、消費税は国際公約にはなりえない。

■米国が消費税を「導入の必要なし」と結論付けた理由

日本の消費税法を見ても、消費者に消費税の納税義務はない。納税義務が生じるのは事業者であり、事業者が消費税分を価格に転嫁した結果(転嫁すべしという法的強制力も実はないのだが)、物価の値上がりという形で消費者が負担する。もともと消費者が負担する義務のない税金消費税と名付けるのはおかしな話で、だからこそ海外では消費税ではなく付加価値税と称され、実質事業税という位置付けになっている。

今や世界140の国と地域が採用している付加価値税は、54年に世界で初めてフランスが国として体系的に採用して以降、瞬く間に世界中に広がった。そんな潮流に抗し、現在も付加価値税の採用を見送り続けているのが連邦政府としての米国だ。

米国にも付加価値税によく似た小売売上税(州税)がある。こちらは消費者から預かった税金をそのまま小売業者が納める「単段階」の方式を採用している。一方、付加価値税では生産から消費までの間に絡むすべての業者が自分の支払った付加価値税と受け取った付加価値税とを相殺して納税する「多段階」方式を採用している。自身の採用する小売売上税とはまったく別物というのが米国の見解でもある。

米国では付加価値税の導入の必要なしという結論を実は40年以上前、米企業課税特別委員会、米上院委員会、米財務省などでの議論を経て導き出している。初めて大統領に提出された委員会の報告書には付加価値税不採用の理由として輸出企業への優遇策となる点を掲げていた。米国の指摘がすべて正しいとするつもりはないが、通商や市場経済に関しては自由貿易、公平な市場競争を標榜するのが米国だ。特定企業への優遇策となりうる付加価値税は、不公平税制であるがゆえに採用しないというのは筋が通っているといえよう。

企業課税特別委員会が69年に大統領宛に提出した第1回の報告書(写真参照)には、「この税金(=付加価値税)は、もちろん輸出品にリベートが渡され、輸入品に課税されるものだ」との一文が残る。この場合のリベートとは日本語の持つ賄賂のニュアンスはなく、販売奨励金・補助金を意味している。

日本で消費されれば日本の消費税がかかり、日本製品が海外に輸出されれば海外の付加価値税が課せられる。「仕向地原則」といって、消費税・付加価値税は消費された土地(国)で課税される仕組みだ。日本の輸出企業は海外の消費者から日本の消費税を預かるわけにはいかない。

そこで、輸出について消費税はゼロ%税率が適用されている。一方、輸出製品を作るため輸出企業は日本国内の子会社などから部品を調達する。その際に輸出企業は本体価格のほかに消費税を支払っている、とされる。国内で消費税を支払っても、海外から消費税を受け取れない、消費税の払い損をしているとして、輸出企業は日本政府から「還付」を受け取っている。消費税5%時代、消費税の税収は約13兆円あったが、還付を差し引いた実際の税収は10兆円前後にまで落ち込んでいる。

■「表向きは税金の還付だが、実際はリベート」

我々は自由経済圏におり、商品の価格は常に値下げ競争にさらされる。しかも大企業とその取引企業であれば、価格決定では大企業が圧倒的に優位だ。値下げ後の価格に消費税を上乗せして大企業が払ったとして、取引企業にしてみればそれは税金でなく、引き下げられた価格の穴埋めにしかならない。であれば、表向きは税金の還付だが実際はリベートに相当するというのが米国の指摘だ。

さらに、米国製品が日本に輸入された際、消費税率が引き上げられると、米国製品は消費税分だけ値上がりする。こうした関税引き上げ同様の不利益を受けるため、米国にとって貿易相手国の採用する消費税・付加価値税は非関税障壁と映る。

そこで、リベート付きの間接税を引き上げ、法人税を引き下げるような自国企業の優遇策のセットを実施するなら、米国は報復も辞さない、とした公文書も残っている。

消費税を導入した89年は日米通商交渉の歴史の中で劇的な転換を迎えた「日米構造協議」が開始された。

これを境に、それまでの個別の物品交渉から一転、日本の構造そのものが米国の不利益という強烈な対日圧力に変わった。村山富市政権下で3%から5%への消費税増税を決定した税制改革関連法案が可決された94年11月より、米国からの「年次改革要望書」で内政干渉と見紛う数々の要望を突き付けられた。

社会保障と税の一体改革の特別法案を可決した野田佳彦政権しかり、消費税の導入、増税法案を可決、実際に増税した政権は短命だった半面、消費税には着手しないと就任早々宣言した小泉純一郎首相、米国の小売売上税を意識してか、売上税と称して大型間接税導入を試みた中曽根康弘首相は米国と蜜月の長期政権を保った。さらに消費税増税の話題が出たり実際に増税する時期に日本製品のリコール問題が米国で多発するのを偶然と言い切れるのか。

15年の米国経済は国民消費が牽引する堅調なステージとなっている。経済が好調なときは不満が外向きに発散されることは少なく、外圧の手も緩い。しかし、経済サイクルが一巡して景気後退局面入りした際には、例えばオバマ政権の1期目で見た輸出倍増計画のように、外向きに食指が動きやすい。それが消費税増税と重なった場合には、規制緩和なども含め相当な外圧となって日本に降りかかってくるのではなかろうか。

日本企業の7割を占める赤字企業でも納税義務がある過酷さゆえに滞納額が膨大なうえ、同盟国である米国との関係を悪化させる不公平税制であるなら、そして輸出優遇策を重視しても国内経済に還元される度合いが低いとなれば、消費税増税だけに邁進する経済的メリットはどこにあるのか。効果もないまま格差を広げて中間層の没落と同時に内需を疲弊させるだけの、日本の経済構造から鑑みてもそぐわぬ税制は廃止し、別の税制を模索するのが賢明ではなかろうか。それこそが失われた20年を取り戻す処方箋となろう。

(大阪経済大学経営学部客員教授 岩本沙弓=文)