和歌山男児殺害事件につぐトラブル…高野山密教が分裂危機
弘法大師・空海が開いた高野山は、今年、開創1200年を迎え、4月2日には記念大法会が始まる。
そうした行事に水を差すように、高野山密教の権威だった高野山大学教授の息子・中村桜洲容疑者が(22)が、和歌山県紀の川市に住む小学5年生男児を殺害していた疑いで逮捕された。
数々の宗教学を収めた宗教学者でも、息子の「心の闇」は解くことが出来なかった。理論と実践は別とはいえ、次期学長と目されていた人だけに高野山にとっては痛い。
それだけではない。
高野山真言宗は、ここ数年、トラブル続きである。2年前には、資産運用に失敗、巨額の損失が発生していたことが明らかとなり、議会にあたる内局の宗務総長が、任期半ばで責任を取って退任した。
この問題は、「第三者委員会」が置かれて調査され、杜撰な資産管理が明らかとなり、これを契機に宗務総長となった添田隆昭師は、体制の見直しと綱紀粛正を図っていたが、今度は、高野山真言宗金剛峯寺のトップ争いが表面化した。
2期8年、「座主」を務めた松長有慶師が退任することになり、後継をめぐって各陣営が激しく争ったのだが、
「お前は僧侶どころか人間として失格だ。お前のようなやつが管長(座主は管長を兼ねる)の座に就いたら、高野山はつぶれてしまうぞ」
と、宗教法人とも思えない低レベルの怪文書まで飛び交う争いの末、2014年11月15日、第413世座主に中西啓寳師が就いた。
その背景には、改革派と守旧派の激しい主導権争いがあるという。
「資産運用の失敗が旧態依然とした高野山の体質にあるとして改革派が主導権を握ったわけですが、今度はそれが“過激”に過ぎて守旧派が盛り返し、今では路線をめぐる争いというより、派閥抗争のようになってしまいました」(中立の住職)
それでも今は、開創1200年記念大法会が5月21日まで開かれるため、その最大イベントへ向けて一丸となっているが、無事に終了し、ひと段落してから、運営方針をめぐる最終的な争いが始まりそうだ。
伊藤博敏ジャーナリスト。1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒業。編集プロダクション勤務を経て、1984年よりフリーに。経済事件などの圧倒的な取材力では定評がある。近著に『黒幕 巨大企業とマスコミがすがった「裏社会の案内人」』(小学館)がある