最先端の人工知能が、Skypeのリアルタイム機械通訳を可能にした

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先日発表された「Skype Translator」のベータユーザーに、申し込みが殺到した。異なる言葉同士でも会話ができるというSFのようなサーヴィスを実現したのは、機械学習、ディープラーニングと呼ばれる人工知能の分野における研究だった。グーグルに対抗するようにマイクロソフトが生み出した、「リアルタイム機械通訳」の背景とは。

「Skype」(スカイプ)のベータテスターたちはもう間もなく、映画『スタートレック』の世界から借りてきたような、新しい技術を手にすることになる。「Skype Translator」と呼ばれるSkypeの新機能は、話した英語をスペイン語に、逆にスペイン語を英語に「通訳」してくれる。

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冒頭のデモヴィデオからもわかるように、これは驚くべき技術だ。基盤となっているのは、マイクロソフトの開発ラボで10年以上、密かに行われてきた研究だ。

マイクロソフトは Skype Translatorを支える文章翻訳技術のいくつかをすでに運用していて、例えば「Bing Translator」(Bing翻訳)という翻訳サーヴィスを強化し、何十万ものサポート書類の外国語翻訳を推し進めている。「いままで発行されているなかで、最も大きくて、まだ手をつけられていないインターネット上のアーカイヴのひとつは、マイクロソフトの顧客サポート知識データベースだ」と、マイクロソフト研究所の戦略部長であるヴィクラム・デンディは言う。

しかし、翻訳サーヴィスの知能が意味するものは、もっと大きい。Skype Translatorは、「言葉」をとらえて「文章」に変え、その文章を翻訳して、電話の向こうの人の言語の「音声」に合成する。その、声を認識をする部分、つまり会話を認識し文章に変える部分は長い間、もっとも困難な対象だった。

しかし、音声認識はここ数年で大きく進歩した。Deep Neural Network(多数の階層をもった人工神経回路網)として知られる、人工知能の研究分野の発展に大部分恩恵を受けてのことだ。

ニューラルネットワークについての議論は1980年代からあったが、いま再び注目されている。

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その背景には、2012年のグーグルによる発表がある(猫のYouTubeヴィデオによる人工知能の学習)。その研究は直接的にはAndroid OSに搭載されている音声認識ソフト開発を大きく後押しすることとなったが、一方でマイクロソフトは、密かにSkype Translatorの土台をつくっていたのである。

マイクロソフトはタブレットでの手書き文字認識を改良するために、「グーグルの猫のヴィデオ」のほぼ10年も前から神経回路に取り組んできたと、マイクロソフトの研究者、ジョン・プラットは先日『WIRED』に語った。しかし、Skype Translatorを実現に導いた技術──どんな人の会話もきちんと認識できる能力──につながる仕事が始まったのは、2009年の、ちょうどクリスマス前のことだった。

当時マイクロソフトは、カナダ・ブリティッシュコロンビアのウィスラーで小さなシンポジウムを主催しており、トロント大学のジョフ・ヒントンをスピーカーとして招いていた。彼は、人間の脳のニューロンを模した機械学習モデルを開発した人物で、曰く、「機械は会話をもっと深く理解できるようになっている」というのだ。マイクロソフトはすぐに資金を出し、ヒントン氏のアイデアを最新のグラフィカルプロセッサー装置で実際にテストした。

テストの結果は驚くべきもので、音声認識の正確性が25パーセント上がったと、マイクロソフト研究所所長のピーター・リーは2014年のはじめに語った。「われわれがその結果を発表すると、世界は変わった」。

マイクロソフトは世界を本格的に変える準備ができている。いままではSF世界のものだったコミュニケーション方法、つまり、まったく異なる言葉や文化をもつ人々が直接、面と向かってコミュニケーションができるような方法を、これから提供できるのである。

先述したデンディ氏は、月曜日(年末までにはベータ版に移行できるとマイクロソフトが公表したとき)にはもう、約50,000人がSkype Translatorのプリベータアクセスに申し込んでいたと言っている。さらにその翌日には、キャンセル待ちの人数は2倍になった。

「人々はこれがコミュニケーションにもたらすであろう大きな意味について非常に興奮している。どんどん盛り上がっているんだ」と彼は言う。

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