今シーズン6ゴールと結果を出しているミランの本田圭佑。彼の活躍を、昨シーズンから信じ続けていたミラン番歴15年のイタリア人記者が、その理由を語った。

『それでも私は本田を信じる』――。

 こう書いたのは今年3月上旬(※)。まさに彼のプレーが低い次元の極地にあり、イタリア国内はもちろん、おそらくは日本でも"ミランの10番"に対する批判が渦を巻くかのように吹き荒れていた頃である。

 事実、当時の本田は、厳しい批判にさらされてしかるべきプレーに終始していたのだから当然である。しかも、そう遠くない過去に欧州のみならず世界を席巻した実績から「名門」とされるクラブの選手であればなおのこと。わずか1試合のわずか1プレーを誤っただけで容赦なく吊るし上げられる。その是非はともかく、ここイタリアで「ジョカトーレ」の職に就くとはそういうことである。20を超える階層の頂点であるセリエAで、しかもその上位クラブに席を持つとはそういうことなのだ。しかも本田は10番である。

 したがって、私もまた、『それでも本田を信じる』としながらも、3月の時点では続いてこうも記していた。

『とはいえ、現状はいかにも厳しい』

 いずれにせよ、今明確に言えるのは、今年1月の移籍から昨季終了までの間、本田はミランの10番に値しない存在だったということだ。ミランを50年に渡り見続けてきた、いまや80歳をはるかに超えたファンのひとりは、今年3月当時、実に寂しげな表情と怒気を交えながらこう語っていた。

「今すぐ本田はミラノを去るべきだ。クラブ史上最低の10番」。そして、「50年目にして初めて、私はサンシーロへ通うことをやめた」と。辛辣に過ぎる言葉なのかもしれないが、当時の状況下でそうした声を否定する材料があったかといえば、それは誰にも持ち得なかったはずである。しかし、いかに白眼視されようとも、それでも私は本田を信じると言い続けてきた。もちろん、そこには漠たるものではない、そう確信する根拠があったからだ。

■本田の好調を裏づける数値
 是々非々。この言葉の持つ意味を、一連の"本田報道"を見聞きしながら、当事者としてあらためて思う。今季開幕から7戦で6ゴールを記録したことでメディア全体が賞賛するのを"手のひら返し"と揶揄する向きもあるが、そうではないだろう。良ければ率直に評価し、悪ければ批判する。極めて当たり前の対応でしかない。

 むしろ、批判すべきを批判せず、単に「応援団」と化した類いのメディアが並べる「提灯記事」こそが、最も恥ずべき行為である。選手の活躍と成長を望むのであれば、前述の老人に倣い厳しい態度を示すべきだろう。対象となる選手が豊かな才能を備えているのであれば、見る目はさらに厳しくなって当たり前である。

 無論、ミランOB・コスタクルタの過去(昨季)の本田への批判的な見解(※)を引っ張り出してきて揶揄するなどもっての外だ。卑怯な後出しジャンケンでしかない。しかし、この恥ずべき行為を何人かのジャーナリストたちが行なっていると聞く。彼らに問いたいのだが、彼らは当時(今年3月)、コスタクルタの見解を公の場で批判していたのだろうか? 選手が劣悪なプレーに終始しても、選手の批判をしてはいけないのだろうか? だとすれば、メディアの存在意義はないということになる。

 かつてフランコ・バレージはこう言っていた。

「プレーの不甲斐なさは誰よりも選手本人がもっともよく知っている。当然、翌朝の新聞に厳しく書かれることも受け入れる用意がある。ところが、それがなければ一体なんなんだ......となる。つまり『俺は批判の対象にさえならないのか』『もう期待もされていないのか』となる」

 本題に戻ろう。

 本田は今季、誰もが知るとおり、開幕から6戦で昨季とはまるで違う動きを見せている。リーグ戦7試合6得点は申し分ない数字だ。選手のパフォーマンスの指標とされる「IVG値」(※)も、第6節終了時点でFW部門の7位タイにつけている。あますことなく、と言えないまでも、本来の実力を可能な限り発揮しているといえる。

※インターセプト、1対1の勝敗、ハイボール競り合いの勝敗、カバーリングと有効パス本数、ボール逸失、ファール数、攻撃エリアへの進入、アシスト本数、シュート数、ゴール本数などを相対的に評価し数値化したもの。全消化試合の50%以上に出場した選手が対象。
■トップ10は以下
1. テベス(ユベントス):24.8
2. ベラルディ(サッスオーロ):22.6
3. ザパタ(ナポリ):22.3
4. ガッビアディーニ(サンプドリア):22.2
5. メネス(ミラン):22.1
6. プッチャレッリ(エンポリ):22.0
7. 本田(ミラン):21.9
7. カッサーノ(パルマ):21.9
9. マッカローネ(エンポリ):21.7
10. ロドリゲス(チェゼーナ):21.6

 そのうえで、先に述べた『それでも本田を信じる』の根拠を記せば、こうなる。

 それは今年3月の原稿に記したとおり、実に単純な話だ。ミラノ入りして以降に本田が見せた類い稀なプロフェッショナルとしての姿勢、そして彼のプライドである。

 オランダとロシア、そして日本代表で積み上げてきた実績は申し分ない。ところが、昨シーズンの本田はあまりに多くの負の要素に取り囲まれていた。クラブ幹部同士の確執、首脳陣と監督の対立。それが原因で生じたロッカールームの分裂。しかも本田は、ロシアからほぼ休むことなくイタリア入りしていた。

 これでは実力発揮のしようがない。厳しく批判しながらも、『それでも本田を信じる』と繰り返してきた根拠がこれである。要するに、コンディションさえ戻れば相応の貢献をミランにもたらしてくれるに違いない、と考えていたのだ。

 今季、本田圭佑は本来の実力を発揮しつつある。ただし、今のミランはチャンピオンズリーグにもヨーロッパリーグにも出場していないため日程的に余裕があり、それゆえコンディションを維持できているともいえる。真価が問われるのは、今季の後半、さらには来季といえるだろう。

 ちなみに、今日現在、第7節を終えた時点で、件の老人はまだスタジアムへ戻ってきていない――。

クリスティアーノ・ルイウ●取材・文 text by Cristiano Ruiu
宮崎隆司●翻訳 translation by Miyazaki Takashi