長崎で行なわれた国際親善試合の第1戦から中3日。ナイジェリアとの連戦2戦目であり、2013年なでしこジャパンの最後の一戦が26日、フクダ電子アリーナ(千葉県)で行なわれた。

 先に勝利を収めた"長崎組"から引き続きメンバーに入ったのはキャプテンの宮間あや、大儀見優季、川澄奈穂美の3名のみ。"千葉組"はこの短い調整期間でどう戦うのか注目された。

 立ち上がりから圧倒的にボールを支配する日本。ナイジェリアは初戦同様にマンツーマンを敷くが、それを見越した日本がかいくぐる。ナイジェリアのコンディションも上がってきているようにも見えたが、脅威とまではならなかった。

 21分、大儀見の突破にナイジェリアDF陣は3人で囲い込み、たまらずファウル。PKを得た日本は、宮間がこれをしっかりと沈めてあっけなく先制。その7分後にはセットプレイから追加点を奪う。宮間のFKにフリーの阪口夢穂が頭で合わせたものだった。

 後半に入ると、修正をかけてきたナイジェリアの寄せとスピード攻撃に苦しめられるも、決定的な危機にまで陥ることはなく、2013年最後の試合を2−0の勝利で締めくくった。

 左サイドバックには初招集の18歳・上野紗稀が大抜擢された。今年2月の合宿には練習生として参加した上野。小柄揃いのなでしこジャパンの中でも、154cmと最も小さい。しかし、そのプレイは力強く、小気味いいリズムのドリブルに、鋭い切り返しも魅力だ。

 ナイジェリアを相手にスタミナ面も懸念されたが、この日は試合開始時点で気温が20℃を下回っていたことと、初スタメンの高揚もあってか、85分まで止まることなくピッチを走り続けた。「あやさん(宮間)やみずほさん(阪口)が前を向いてボールを持ったら、絶対に裏に出てくるから信じて走った」(上野)と、なでしこのサイドバックの必須アイテムであるオーバーラップも度々披露。後半10分には、スピードに乗って駆けあがった左サイドから勢いよくクロスを上げた。木龍七瀬が合わせるが、これは惜しくもオフサイドの判定。しかし、佐々木則夫監督が目指す、まさに"なでしこ的"なプレイだった。

 その反面、守備では背後を取られるシーンもしばしばみられた。これは危ない。フィニッシュの精度に欠けていたナイジェリアが相手だったから大事には至らなかったが、これがドイツ、アメリカ、フランスあたりならばもれなく失点だ。こればかりは実戦を積むしかなく、上野にとって大きな壁となるだろうが、まだ18歳。打開策を見つけるには十分に時間がある。今はまだなでしこの新芽といったところだが、楽しみな人材であることは間違いない。

 2013年、なでしこジャパンの成績は12戦5勝4敗3分。「負けてはいけない相手に負けたり、勝ち切れなかったことは反省」とした佐々木監督の言葉通り、確かに数字的には芳しくない。が、この数字こそが「若手のつもりでまず自分が変わる」とした宮間や、「もどかしさを感じる」大野、「イメージが合わないとかいう以前の問題」と苦い表情を残した大儀見らの、チーム全員に伝えようと発信する危機感につながっている。

 この一年、できなかったことばかりではないが、歯車が狂ったまま走り続けてしまったために、数字も悪ければ、内容も納得できるものが少なかった。だからこそ、なでしこたちは変わろうとしている。

 もし、内容と反して結果が出てしまっていたら、まだしばらく暗闇をさまよっていたかもしれない。6月のヨーロッパ遠征、東アジアカップで打ちのめされた宮間はこれまでの数カ月間の自身をこう振り返った。

「もちろん個でもそうだけど、限られたスペースをどうかいくぐるか。個だけではやりきれないところもあるのに、周りに働きかけることをしないで自分ひとりで解決しようとしてた」

 それをチームの取り組むべきこととして取り入れたのが今回のナイジェリアとの2連戦だった。長崎では、澤穂希、近賀ゆかりの復帰で追い風が吹いた。無理をして埋めていた隙間を、言葉を交わさずともスーッと埋めてくれる。それは、若手を引き上げようともがき続けた宮間ら中堅選手たちに頼もしく映った。頼りきるつもりはないが、確実に肩に乗せていた荷が軽くなった。そして進むべき道、その進み方が見えてきたようだ。ようやくスタートラインに立った。

 もちろん、ここから生き残る新戦力たちは、なでしこ流を身につける努力が必要だ。しかも必要なのは、これまで経験したことがないようなレベルの努力だ。迷っていた数カ月前ならいざ知らず、ベテランたちはすでにその先のイメージのヒントをつかんだようだ。彼女たちの爆発力が発揮されれば、その差はますます広がるばかり。何倍もの努力がなければ、その背中を見つけることもできない。同じピッチに立った選手ならば、それを肌で感じているはず。おのずとやるべきことは示されている。

 また、佐々木監督の起用も変わってきたように感じる。2013年の前半は「経験を積むことが大事」と、若手の起用を重視してきた。しかし、アルガルベカップ直後から、「代表はいいプレイをしたら定着できるチャンスの場でもあり、マズい動きをすれば、二度と呼ばれない厳しい場でもあるということを肝に銘じてほしい」と、試合で本来の実力を発揮できない新戦力たちに苦言を呈してきた。これまでの佐々木監督からすると珍しい手法である。それほど、もう一度世界を目指すためには、+αとして、若手の躍進が必須なのだ。

 残念ながら、大漁というわけにはいかない現状ではあるが、佐々木監督は「選手たちはよくやってくれた。どう組み合わせていくか分析しながら、いい材料にして来年につなげたい」と、来年への意欲を見せた。

 来年はワールドカップ予選であるアジアカップが行なわれる年。今年一年難しい年だったからこそ、2014年は"なでしこジャパン"としての確かな成長を見せてほしい。

早草紀子●文 text by Hayakusa Noriko