「私が発案しました」─。

去る2月12日に投開票が行われた沖縄・宜野湾市長選挙で、告示前に地元の防衛省職員らに特定候補への投票誘導が行われたとされる「講話」問題。講話を行った真部朗沖縄防衛局長は、2月3日の衆院予算委員会で講話は自分個人の意思だと弁明した。しかし、ある防衛省OBは特定候補への投票を促す講話は、以前から省内で行われた組織ぐるみの活動だと指摘するのだ。



 米軍普天間飛行場がある宜野湾市の市長選への選挙介入とも捉えられかねない「講話」が行われたのは、今年1月下旬。2度にわたり真部局長が、両候補の主張を職員に紹介しつつ、移設を巡る政府の見解を説明し、職員と親族への投票を呼びかけたものだ。

 また、講話に合わせ真部局長は各部署に選挙権のある親族の調査をメールで指示し、その有権者リストも作成、講話に出席するよう呼びかけてもいた。

 こうした行為は、国家公務員がその地位を利用して選挙活動を行うことを禁じる、公職選挙法や自衛隊法に抵触しかねない行為だ。

 ましてや、辺野古への移転問題が紛糾している最中の市長選であり、沖縄防衛局では、前局長が移転を巡る不適切発言で更迭された経緯もあり、看過できない問題であるはずだ。

 しかし、冒頭の衆院予算委員会で真部局長が、講話が自分の発案で、「選挙に肩入れする気は全然なかった」と釈明すると、防衛省側も、「当面は職にとどまり、説明責任を果たしてもらう必要がある」とし、処分は先送りにされた。

 何か防衛省では、この真部局長を処分できない理由でもあるのか─。

「同様のことは、もう20〜30年前の自民党政権時代から連綿と行われてきたこと。いまさら処分なんてできるわけがないんですよ」

 そう苦笑いしながら、防衛省(当時は防衛庁)の制服組である自衛官の幹部OBが続けて言う。

「沖縄以外の駐屯地などでも選挙が近づくと自衛官は訓話(講話)の時間に、上長から候補者の紹介とともに、露骨に特定候補への投票を促されています。時には別に設けられた講話の場にも隊員とその親族が招集されたりもします。

 自分の体験で言えば、退職後に予備自衛官として年に1回、5日間の訓練に行くと、最終日に1時間、連隊長の講話がありました。

 最初の10分は担当係官がテレビ番組の収録の前説みたいに予行演習をやる。集まった人間をひとりひとり指名して、『日本にはどんな政党がありますか?』と聞き、あがった政党を板書。ところがあがった順にかかわらず、黒板のいちばん右に自民党、いちばん左に共産党を書く。で、『自衛隊を認めている政党はどこですか?』と聞き、自民に○、民主に△、共産と社民に×か△をつけてました。そして選挙での投票を促し、黒板を消したところで連隊長が登場。こんな具合にやるんですから、普通、特定候補への投票を促していると理解して当然ですよ」

 一方、自民党から質問に立った元防衛大臣で自衛隊出身の中谷元議員からは、“身内”への配慮か、真部局長への質問はなく、野田総理や田中防衛大臣にばかり質問し、逆に“市ぐるみ”の選挙活動を問題視する始末だった。その市ぐるみの選挙活動の証拠として今取りざたされているのが、宜野湾市職員労働組合の委員長から組合員向けに配布された、市長選での「政治闘争の取り組みについて」と題され、革新系候補の支援活動を呼びかけた文書である。

 本誌も入手したこの文書も、公選法や地方公務員法に引っ掛かりそうな内容だ。

 宜野湾市を直撃すると、担当者は、「市と職員団体は別組織」として関知するところではないと説明。さらに地方公務員法に抵触する内容ではなく公選法やその他法律は管轄外だとか。

 選挙民不在の党派闘争が常態化している現実の前では、局長の処分などもはやどうでもいい問題なのか。