被害者の「最上あい」こと佐藤愛里さん(左)と、高野健一被告の中学時代の卒業アルバム写真

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 東京都新宿区の路上で2025年3月、ライブ配信をしていた佐藤愛里さん(当時22)を刺殺したとして、殺人罪などで起訴されている高野健一被告(44)。その裁判裁判が東京地裁で7月1日より開かれており、7月10日の第4回公判で、検察官は懲役20年を求刑した。

【写真を見る】佐藤さんがメッタ刺しにされた高田馬場駅付近の現場。佐藤さんの着物姿の私服写真(友人提供)

 逮捕後から、様々な報道がなされた本件。裁判で明らかになったのは、佐藤さんと高野被告のいびつな人間関係だった。全ての裁判を傍聴した裁判ライターの普通氏がレポートする。【前後編の前編】

記録に残っていた"音声"

 7月1日の初公判、開廷の1時間以上前に法廷前の廊下は人で埋め尽くされた。満席になってもなお空席を狙う列が絶えないなど、関心度の高さは相当なものであった。

 高野被告は身長170cm前後、スーツ姿に、濃い青色のネクタイをして、頭は五厘刈りに近い坊主頭をしていた。事件内容を聞く際などはタオルで汗を拭きながら、肩を少しすぼめていた。その表情は申し訳なさそうではあるのだが、どこか適切な表情がわからず模索している感があった。

 検察官が読み上げた起訴状によると、高野被告は2025年3月11日午前9時51分ころ、高田馬場の駅付近の路上にて、殺意を持って佐藤愛里さんを手に持ったナイフ(刃体の長さ12.6cm)で顔面、頸部等多数回刺すことによる出血性ショックで死亡させた。また、犯行に使ったナイフ含め、2本のナイフを携帯していた銃刀法違反にも問われている。

 高野被告は「間違いありません。本当に申し訳ありませんでした」とその犯行内容を認めた。

 佐藤さんは配信アプリ「ふわっち」で「最上あい」を名乗る人気配信者だった。事件当時も「山手線を一周する」という生配信の最中であった。高野被告は前日に行われた企画告知を見て犯行を決意したと供述しており、犯行当時もその配信内容から佐藤さんの居場所を探りあてた。

 襲撃の様子が、現場の防犯カメラだけでなく、その生配信にも残されていたのが、この事件をよりショッキングにした要因の一つであろう。

 法廷で取り調べられた配信の音声では、佐藤さんが「うわぁー」「痛い痛い痛い」「助けて助けて助けて」と叫ぶ様子が明らかにされていた。近くを通った通行人が止めようとする音声も残っており、現場は人通りが無いような場所ではなかった。

 高野被告の発言については息遣いしか記録が残っていなかったが、佐藤さんの叫び声がおさまった後、配信に使っていたスマートフォンを取り上げる様子が映像に残っていた。佐藤さんにカメラを向け「まだ動くんだ」「まだちょっと動いています」などと口にし、頭部を蹴るなどしたという。

 司法解剖によると、佐藤さんの身体には最低でも55か所のナイフで切られたと思われる傷があり、中にはナイフが身体を貫通している傷もあった。致命傷となった頸部の動脈が切断されたもので、傷の半分以上が首から上、それを防御したと思われる腕についたものであった。

「初めてLINE交換した」

 なぜこのような凄惨な事件が起きてしまったのか。高野被告はもともと、佐藤さんの配信者のリスナーであった。その関係性の推移を、両者のLINEのやりとりなど裁判で明らかになった証拠とともに時系列で説明していく。

 2021年12月〜2022年1月、佐藤さんが配信を始める。その翌日には、高野被告がリスナーとなる。

 高野被告は配信を応援する意味で投げ銭を行った。これまで他の配信者に投げ銭をすることもあったが、せいぜい数百円であった。しかし、佐藤さんには約半年ほどで、163万円の投げ銭を行った。

 配信の中で、佐藤さんがSNSのアカウントを公開したため、それをもとに高野被告がDM(ダイレクトメッセージ)を送る。その後、関係性が向上したことにより、佐藤さんからLINEの交換の提案を受ける。

 その際、佐藤さんは「初めてLINE交換した」などと言ったという。他愛もないやりとりを続ける中で、高野被告は佐藤さんに好意を抱くようになる。

 2022年1月以降、高野被告はLINE上で佐藤さんに対して「マジラブ」「いっぱい好き」「ガチ恋」など好意の言葉を多く向けた。佐藤さんは「彼氏みたい」「結婚やな」「郄野いなかったら配信続かなかった」などと返す。配信者とリスナーの関係性において営業トークに捉えられるかもしれない。ただ、二人が交わしたLINEのやり取りは、記録が残っているだけでも4万通に及び、文面上は相応に仲の良さを感じさせるものであった。

 そんななか、佐藤さんは定期的に「もうLINEしない、高野に頼りすぎてた」「(LINEを)ブロックする」など距離をおくような発信も行っていた。当初、高野被告はすがるように関係継続を求めるようなメッセージもあった。

 しかし、後に高野被告が供述するように佐藤さんは感情の浮き沈みがよく見られた。距離を置こうとしたと思ったら、少し時間を置くとまた高野被告と関係を修復しており、そんなことが続くためか、高野被告も佐藤さんの突発的な言動にも徐々に慣れていった。メッセージからは「感情をぶつけていいよ」などと受け止めようとする態度もみられた。そういった意味でも、関係性は悪くないという印象を持った。

 同年8月、佐藤さんが「私に会いたい?」とメッセージを送ってから事態は急変する。

 この言葉を誘い水にしたかのように、深刻な金銭トラブルに発展していくのだ。この時点で、佐藤さんは先の事態をどこまで想定していただろうか。その答えを知る術はない。

 後編記事では、高野被告が複数の消費者金融にお金を借りてまで佐藤さんにお金を貸した経緯や、高野氏が追い詰められていく様子について詳報する。

(後編記事につづく)

◆取材・文/普通(裁判ライター)