(※写真はイメージです/PIXTA)

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高齢になってから生活費に困るのはつらいもの。ある50代の会社員男性は、先々を見据えてストイックに生活してきましたが、想定外の事態に見舞われて動揺してしまいます。人生設計の難しさについて、「誰にでも起こりうるケース」から考察します。

計画的・効率的な日々を生きる、58歳独身男性

都内の中堅企業に勤務する独身の鈴木勉さん(58歳・仮名)は、長年総務畑を歩んできました。55歳で課長を役職定年となりましたが、60歳の定年退職までは同じ配属先で勤務を続け、その先は、65歳までは嘱託職員として勤務する計画を立てています。

鈴木さんの両親は公務員でしたが、勉さんが小学校6年生のときに離婚。ひとり息子の鈴木さんを引き取った母親からは、常に「先々のことを考えて、人生は効率的・計画的に送りなさい」と言われて育ったといいます。

「無駄なことに時間とお金を費やすのは悪。不健康な生活をすることも悪。とにかく先を見越して堅実に生きなさい、と言われてきました」

勉さんはバブル世代ですが、若いときにハメを外した経験もありません。

「大学時代、初めて参加した飲み会で具合が悪くなり、病院に搬送されたことがありました。そのとき、連絡を受けて迎えに来た母親に厳しく詰められまして。〈自分の命を危険にさらすようなことに、どんなメリットがあるのかよく考えなさい〉と。私はそれ以来サークルから脱退し、お酒も口にしていません」

鈴木さんは母親の言葉に従い、若いときから節制・倹約に努めました。

「華やかな生活を送る友人をまぶしく見ていた時期もありましたが、〈母の教えが正しかった〉と実感した出来事が2つあります。それが平成バブル崩壊と、親しい友人の離婚でした」

たった数年の違いで就職の状況が大きく変わったのを見て「明日はわが身」だと感じたことがひとつ。そして、大学の友人が就職後すぐに授かり婚をしたものの離婚となり、父ひとりで子育てに奮闘する様子を目の当たりにしたことがもうひとつでした。

鈴木さんはまじめに働き、給与の中からコツコツ貯金を増やしていきました。見据えるのは常に「未来の生活の安定」です。

厚生労働省『賃金構造基本統計調査(令和6年)』によると、サラリーマンの給与は年齢とともに上昇を続け、50代でピークに達します。独身の鈴木さんは、家計にかかるお金もそこまで多くなく、かなりの金額を預貯金に回せる状況だったといいます。

【年齢別・サラリーマン(男性・正社員)の平均給与】

20〜24歳:23.8万円 / 367.9万円

25〜29歳:27.8万円 / 464.0万円

30〜34歳:32.2万円 / 540.4万円

35〜39歳:35.9万円 / 606.1万円

40〜44歳:39.3万円 / 657.8万円

45〜49歳:42.4万円 / 700.5万円

50〜54歳:43.9万円 / 725.6万円

55〜59歳:45.9万円 / 753.8万円

60〜64歳:38.2万円 / 590.5万円

※数値左より、月収 / 年収

「老後資金2,000万円問題」もどこ吹く風だったが…

また、鈴木さんは数年前に話題となった「老後資金2,000万円問題」もどこ吹く風だったといいます。なぜなら、40代の時点でその金額を軽く超えているうえ、50代前半で亡くした両親からも、それぞれ相続をしているからです。

内閣府の『令和6年度 高齢者の経済生活に関する調査結果』によれば、高齢者世帯の金融資産は平均1,769万円。それを考えると、鈴木さんの預貯金額の多さがわかるのではないでしょうか。

「これまで自分でためたお金と両親から相続した金額を合計すると5,000万円ぐらい。65歳から年金生活をスタートしても、これだけ預貯金があれば不安なく生活できると思っていたのですが…」

ところが鈴木さんに想定外の事態が訪れます。会社の定期健診でシリアスな病気が発覚したのです。幸いなのは、比較的早期で見つかったことですが、これから入院手術が控えており、数年は定期的な治療が必要になります。

「老後の安泰が人生の唯一の目標だったのに。タバコは生まれてから1本も吸ったことはありませんし、お酒も大学のとき以来口にしていません。食事は健康のために野菜中心で、赤身の肉は月に2回までと、徹底した自己管理をしてきたのに…」

そういうと、鈴木さんはうなだれました。

「主治医からは〈そんなに心配しないで大丈夫ですよ〉といわれていますが、もしものことがあったら、何のために楽しみを削って貯金を殖やしてきたのか。こんなのつらすぎます」

鈴木さんは、納得できない表情です。いまは主治医の指導に従い、仕事もセーブしつつ、回復を目指して療養中です。