「この子を放って撮影は続けられない」石田ゆり子の“本物の動物愛”を映し出すトルコ旅 山田あかねDが明かす舞台裏
●「トルコ最高!」心を奪われた犬猫たちの街
俳優・石田ゆり子が、世界各国で犬や猫と人間がどのように共に生きているのかを、その目で見て、触れて、感じていくNHK BSのドキュメンタリー番組『石田ゆり子 世界の犬と猫を抱きしめる』(14日21:00〜)。イギリス編、台湾編に続く第3弾となる今回は、アジアとヨーロッパにまたがる独自の動物共存文化を持つトルコを旅した。
街のあちこちに猫や犬がいて、カフェやレストラン、高級ホテルにさえ自然に溶け込んでいる――そんなトルコの風景の中で、動物愛あふれる石田は何を感じ、どう動いたのか。シリーズを手がける山田あかねディレクターに、トルコでの予想外の出来事、そして石田の“本気”がにじんだ舞台裏や、番組に込めた思いを聞いた。

石田ゆり子=イスタンブールのモスクにて (C)NHK
○「実際に見てみたい」からスタートしたシリーズ第3弾
これまで、『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ)などで山田氏が手がける動物保護のドキュメンタリーのナレーションを石田が担当したり、飼い主のいない犬猫の医療費を支援する「ハナコプロジェクト」を立ち上げたりと、活動を共にしてきた2人。その中で、たびたび話題に上っていたのが、イギリスの動物保護の仕組みだった。
そこから「イギリスの現場を実際に見てみたい」という石田の言葉をきっかけに、番組化。イギリス、台湾、そして今回のトルコと、年1回のペースで続くシリーズになった。
「世界で最も動物保護が進んでいる国」と言われるイギリス、アジアの中で動物保護先進地域である台湾の次に、アジアでもヨーロッパでもなく、独自の文化を持つ国として浮上したのがトルコ。野良猫、野良犬が多い国として知られ、特に猫好きの間では以前から特別な場所として有名だったという。石田自身も以前から「トルコってすごいよね」と関心を寄せていた。

公園で猫に囲まれる石田ゆり子 (C)NHK
○人間を全然怖がらない…街を歩くだけで大喜び
トルコにやって来て最初に圧倒されたのは、やはり犬猫の多さだった。
「めっちゃくちゃ多いし、猫も犬も人間を全然怖がらないんです。慣れてるから、座ってるとすぐ寄ってくるし、すぐ乗ってくるし、すぐ触れるんです」(山田氏、以下同)
日本では、野良猫は逃げてしまうし、野良犬にいたっては簡単には近づけない。だがトルコでは、それが全く違った。そんなイスタンブールの街に出ただけで、石田は大喜びだったという。
驚きは街角だけにとどまらない。なんと宿泊したホテルのロビーにも野良猫が。「それを誰もシッシッてやらないどころか、入り口の端っこに猫の餌場があるんです。ホテルの人が餌をやってるんですよ」。

ホテルのロビーにいた猫
カフェやレストランに犬や猫が入ってきても追い払おうとする人はおらず、そんな光景に石田は「トルコ最高!」「こんなに猫や犬に優しい国はない!」と、テンションが上っていたそうだ。
衛生面の対策として、今回は現地入り前に狂犬病ワクチンを打っていたが、トルコの実情は“放置”とは違う。
「トルコの野良犬、野良猫は、動物管理センター、日本でいうと保健所みたいなところが管理していて、ほとんどワクチンを打ってから放しているんです。それに、市民がみんなで育てているという感覚なので、マメに保健所や病院に連れて行ったりしています。イスタンブール市が運営する管理センターの病院なら、野良猫は国が補助して無料で注射も打ってくれます」
動物たちへの愛が強いトルコの人たちには、“人懐っこさ”も感じたそう。ある人にインタビューをするために自宅に行くと、「こちらは何も頼んでいないのに、奥様が大歓迎でご飯を用意してくださったんです。人と人との関係も本当に近いんです」と驚かされた。
こうして様々な出会いがあっただけに、最近の中東情勢の悪化には心を痛めている。
「イスタンブールは西側なので、イランとの国境とは離れているのでまだ安心ではあるのですが、過去にはテロもありましたし、心配はあります。大きな地震があった時も、トルコの人たちは動物を置いていかず、一緒に逃げる人たちが多かったそうです。だから、どうか戦争や争いに巻き込まれないでほしいと思います」
●スケジュールより命を選ぶ「この子を助けなければ」

石田ゆり子が見つけた具合の悪そうにしていた猫 (C)NHK
今回の番組で印象的な場面の一つが、具合の悪そうな猫に出会った時のこと。その日は、イスタンブールにある“猫の家”や“猫マンション”を見に行くはずだったが、石田はその猫を見つけて、「この子を放って、この先の撮影を続けることはできない」と強く希望した。
山田氏も「撮影のスケジュールよりも、この子を助けるほうが私たちの本当のやることじゃないかと思いました」と、石田の気持ちを受け止めるが、近くで診てくれる病院も分からない。
時間が夕方に近づく中、石田は「今日中に病院が見つからなかったら、段ボールでも何でも用意して、私の(ホテルの)部屋に泊める!」とまで志願したが、これまでイギリス、台湾の旅も同行してきたスタッフのチームが石田の思いに応え、病院を見つけ出し、運ぶためのゲージを購入し、運良く診察を受けることができた。
その医師は撮影にも理解を示してくれた上、保護活動を積極的にしていることが分かり、取材が思いがけず広がっていくことにもなったのだ。
今回の旅では他にも、街で傷ついた犬を見つけ、「この子を助けなければ」と石田が立ち止まる場面が発生。イギリスや台湾では、路上でケガをした動物に出会うことはほとんどなかったが、トルコならではのハプニングだったようだ。

イスタンブールの街角で出会った猫 (C)NHK
○シャツがビリビリに破られても「やられた(笑)」
番組を見て伝わってくるのは、常に素をさらけ出す石田の姿。バラエティでゲスト出演する際の奥ゆかしい様子とは全く違い、かわいい犬猫にとびきりの笑顔を見せ、傷ついていれば深く悲しむ。
そして現地では一流俳優と気づかれることもなく、「犬猫好きで手伝ってくれる人」という存在に。ラフな格好でいることもあり、保護施設のスタッフが「ちょっとここ押さえてて」と気軽に頼み、石田もそれに自然と応じるのだ。
以前、台湾の猫村で餌やりをしていると、後から来たスタッフに“新しいスタッフ”だと勘違いされたこともあったが、本人は特別扱いされなかったことを「うれしかった」と喜んでいたという。
今回のロケで山田氏が、石田の動物愛を「本物だ」と再確認したのが、愛護団体の施設を訪れた際のこと。そこには膨大な数の野良犬が保護されており、中に入ると大型のゴールデンレトリバーたちが一斉に寄って飛びかかってきた。普通なら少し怖さを感じるほどの状況だが、石田は全くひるむことなく、一匹ずつに「みんなおいで」「寂しかったね」「ごめんね、ごめんね」と声をかけていた。

ゴールデンレトリバーに囲まれる石田ゆり子 (C)NHK
この施設のロケでは、石田の服装が途中から変わっていくが、それは衣装替えではない。
「犬に飛びつかれて服がドロドロになるので、着替えたんです。しかもシャツは1枚、背中から犬にビリビリにされちゃって。でも“やられた(笑)”って笑ってましたね」
ここでは犬や猫に餌をあげる手伝いをする予定だったが、現場では巨大な鍋で餌を作る作業に取り組むことに。山田氏は「いくらなんでも危ない」と思っていたが、当の本人は自ら進んで、喜びながら鍋をかき回していたという。
しかも、その日は石田の誕生日。山田氏は、有名俳優の誕生日にトルコの施設で犬の餌を作らせてしまっていることに、少し申し訳なさを感じたそうだが、やはり本人は「かえって記念になって良かった」とニコニコしていたそうだ。

餌を作る巨大鍋 (C)NHK
石田は自分のことを、あのムツゴロウさんをもじって“ゆりごろう”と呼ぶことがあるだけに、その愛情は犬猫にとどまらない。
「馬やヤギにもすぐ“こんにちは”と言って触るんです。それで今まで噛まれたりとか、ひどい目に遭ったこと一回もなくて、彼女にはみんな懐くんです」
番組の中で、石田は猫の保護活動をしている人たちに、「あなたの雰囲気はとても穏やかだから、猫が膝を離れませんね」「温和なエネルギーを動物たちはすぐに感じ取る」と言わるシーンがある。彼女の中には、動物が心を開く不思議な力が宿っているのかもしれない。
●「正解は一つではない」番組に託した思い
このシリーズを通して、山田氏が一貫して伝えたいのは、「動物との付き合い方に正解は一つではない」ということだ。
「イギリスみたいに愛護団体がものすごく頑張って、すごくルールを決めて、きちんと犬と猫の命を守るというやり方もある。台湾では2017年まで殺処分をしていたのですが、そこから方針が変わって犬猫を助けるためのシステムが構築されています。そしてトルコは、市民のみんなが保護活動家のような存在。現地のコーディネーターも、いつもポケットに餌を入れ、そこに猫がいたらあげていました」
それぞれの国に、犬猫に対する文化や歴史がある。だからこそ、どれか一つを“正解”として押しつけるのではなく、まずは違いを見ることが大事だと考えている。
「日本は、どうしても野良猫、野良犬とか保護猫、保護犬という話になると、“猫は絶対家から出しちゃダメ”だとか、“高齢者は保護動物を飼うのは難しい”といったルールの話になるんですよね。もちろん、動物の命のためには厳しいルールは必要な面もあるけれど、大切なのは人間も犬も猫も、みんなが仲良く一緒に幸せに暮らすことだと思うんです」

猫用自動販売機 (C)NHK
トルコの旅で登場する猫の餌の自動販売機も、その象徴の一つだ。
「ああいうのって、日本なら“あんなところに餌が放置されたら不衛生じゃないか”と言う人も出てくるかもしれません。でも一つのやり方だから、それで幸せになってる子がいるなら、いいのではないかと思うんです」
だからこそ、この番組を“トルコ礼賛”にしたいわけではない。
トルコは近年、法律が変わり、野良犬は保護されることになったが、「狭いところにたくさん入れられて、閉じ込められてかわいそうだと思う場面もありました」と、課題を目の当たりに。トルコでは殺処分は行われないそうだが、石田もそれを見て、「あれは狭くてかわいそうだよね」と、心配していたそうだ。

保護施設に収容された野良犬
この番組は、かわいい動物たちの姿に癒やされて楽しく見ることもできれば、日本の動物保護や共生のあり方を考える入口にもなっている。山田氏は「ゆり子さんの魅力も楽しめますので、ぜひ、いろんな視点で見ていただけたら」と呼びかけた。

山田あかねディレクター
●山田あかね東京都出身。テレビ制作会社勤務を経て、1990年よりフリーのテレビディレクターとして活動。ドキュメンタリー、教養番組、ドラマなど様々な映像作品で演出・脚本を手がけている。2010年、自身の書き下ろし小説を映画化した『すべては海になる』で映画初監督。東日本大震災で置き去りにされた動物を保護する人々への取材をきっかけに手掛けた監督2作目『犬に名前をつける日』(16年)は、国内外で評価され続けている。映画『犬部!』(21年)では脚本を務めた。また、22年2月24日に起きたロシアによるウクライナ侵攻から約1カ月後、映画『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』の取材を開始し、25年に公開された。
俳優・石田ゆり子が、世界各国で犬や猫と人間がどのように共に生きているのかを、その目で見て、触れて、感じていくNHK BSのドキュメンタリー番組『石田ゆり子 世界の犬と猫を抱きしめる』(14日21:00〜)。イギリス編、台湾編に続く第3弾となる今回は、アジアとヨーロッパにまたがる独自の動物共存文化を持つトルコを旅した。
街のあちこちに猫や犬がいて、カフェやレストラン、高級ホテルにさえ自然に溶け込んでいる――そんなトルコの風景の中で、動物愛あふれる石田は何を感じ、どう動いたのか。シリーズを手がける山田あかねディレクターに、トルコでの予想外の出来事、そして石田の“本気”がにじんだ舞台裏や、番組に込めた思いを聞いた。

○「実際に見てみたい」からスタートしたシリーズ第3弾
これまで、『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ)などで山田氏が手がける動物保護のドキュメンタリーのナレーションを石田が担当したり、飼い主のいない犬猫の医療費を支援する「ハナコプロジェクト」を立ち上げたりと、活動を共にしてきた2人。その中で、たびたび話題に上っていたのが、イギリスの動物保護の仕組みだった。
そこから「イギリスの現場を実際に見てみたい」という石田の言葉をきっかけに、番組化。イギリス、台湾、そして今回のトルコと、年1回のペースで続くシリーズになった。
「世界で最も動物保護が進んでいる国」と言われるイギリス、アジアの中で動物保護先進地域である台湾の次に、アジアでもヨーロッパでもなく、独自の文化を持つ国として浮上したのがトルコ。野良猫、野良犬が多い国として知られ、特に猫好きの間では以前から特別な場所として有名だったという。石田自身も以前から「トルコってすごいよね」と関心を寄せていた。

○人間を全然怖がらない…街を歩くだけで大喜び
トルコにやって来て最初に圧倒されたのは、やはり犬猫の多さだった。
「めっちゃくちゃ多いし、猫も犬も人間を全然怖がらないんです。慣れてるから、座ってるとすぐ寄ってくるし、すぐ乗ってくるし、すぐ触れるんです」(山田氏、以下同)
日本では、野良猫は逃げてしまうし、野良犬にいたっては簡単には近づけない。だがトルコでは、それが全く違った。そんなイスタンブールの街に出ただけで、石田は大喜びだったという。
驚きは街角だけにとどまらない。なんと宿泊したホテルのロビーにも野良猫が。「それを誰もシッシッてやらないどころか、入り口の端っこに猫の餌場があるんです。ホテルの人が餌をやってるんですよ」。

カフェやレストランに犬や猫が入ってきても追い払おうとする人はおらず、そんな光景に石田は「トルコ最高!」「こんなに猫や犬に優しい国はない!」と、テンションが上っていたそうだ。
衛生面の対策として、今回は現地入り前に狂犬病ワクチンを打っていたが、トルコの実情は“放置”とは違う。
「トルコの野良犬、野良猫は、動物管理センター、日本でいうと保健所みたいなところが管理していて、ほとんどワクチンを打ってから放しているんです。それに、市民がみんなで育てているという感覚なので、マメに保健所や病院に連れて行ったりしています。イスタンブール市が運営する管理センターの病院なら、野良猫は国が補助して無料で注射も打ってくれます」
動物たちへの愛が強いトルコの人たちには、“人懐っこさ”も感じたそう。ある人にインタビューをするために自宅に行くと、「こちらは何も頼んでいないのに、奥様が大歓迎でご飯を用意してくださったんです。人と人との関係も本当に近いんです」と驚かされた。
こうして様々な出会いがあっただけに、最近の中東情勢の悪化には心を痛めている。
「イスタンブールは西側なので、イランとの国境とは離れているのでまだ安心ではあるのですが、過去にはテロもありましたし、心配はあります。大きな地震があった時も、トルコの人たちは動物を置いていかず、一緒に逃げる人たちが多かったそうです。だから、どうか戦争や争いに巻き込まれないでほしいと思います」
●スケジュールより命を選ぶ「この子を助けなければ」

今回の番組で印象的な場面の一つが、具合の悪そうな猫に出会った時のこと。その日は、イスタンブールにある“猫の家”や“猫マンション”を見に行くはずだったが、石田はその猫を見つけて、「この子を放って、この先の撮影を続けることはできない」と強く希望した。
山田氏も「撮影のスケジュールよりも、この子を助けるほうが私たちの本当のやることじゃないかと思いました」と、石田の気持ちを受け止めるが、近くで診てくれる病院も分からない。
時間が夕方に近づく中、石田は「今日中に病院が見つからなかったら、段ボールでも何でも用意して、私の(ホテルの)部屋に泊める!」とまで志願したが、これまでイギリス、台湾の旅も同行してきたスタッフのチームが石田の思いに応え、病院を見つけ出し、運ぶためのゲージを購入し、運良く診察を受けることができた。
その医師は撮影にも理解を示してくれた上、保護活動を積極的にしていることが分かり、取材が思いがけず広がっていくことにもなったのだ。
今回の旅では他にも、街で傷ついた犬を見つけ、「この子を助けなければ」と石田が立ち止まる場面が発生。イギリスや台湾では、路上でケガをした動物に出会うことはほとんどなかったが、トルコならではのハプニングだったようだ。

○シャツがビリビリに破られても「やられた(笑)」
番組を見て伝わってくるのは、常に素をさらけ出す石田の姿。バラエティでゲスト出演する際の奥ゆかしい様子とは全く違い、かわいい犬猫にとびきりの笑顔を見せ、傷ついていれば深く悲しむ。
そして現地では一流俳優と気づかれることもなく、「犬猫好きで手伝ってくれる人」という存在に。ラフな格好でいることもあり、保護施設のスタッフが「ちょっとここ押さえてて」と気軽に頼み、石田もそれに自然と応じるのだ。
以前、台湾の猫村で餌やりをしていると、後から来たスタッフに“新しいスタッフ”だと勘違いされたこともあったが、本人は特別扱いされなかったことを「うれしかった」と喜んでいたという。
今回のロケで山田氏が、石田の動物愛を「本物だ」と再確認したのが、愛護団体の施設を訪れた際のこと。そこには膨大な数の野良犬が保護されており、中に入ると大型のゴールデンレトリバーたちが一斉に寄って飛びかかってきた。普通なら少し怖さを感じるほどの状況だが、石田は全くひるむことなく、一匹ずつに「みんなおいで」「寂しかったね」「ごめんね、ごめんね」と声をかけていた。

この施設のロケでは、石田の服装が途中から変わっていくが、それは衣装替えではない。
「犬に飛びつかれて服がドロドロになるので、着替えたんです。しかもシャツは1枚、背中から犬にビリビリにされちゃって。でも“やられた(笑)”って笑ってましたね」
ここでは犬や猫に餌をあげる手伝いをする予定だったが、現場では巨大な鍋で餌を作る作業に取り組むことに。山田氏は「いくらなんでも危ない」と思っていたが、当の本人は自ら進んで、喜びながら鍋をかき回していたという。
しかも、その日は石田の誕生日。山田氏は、有名俳優の誕生日にトルコの施設で犬の餌を作らせてしまっていることに、少し申し訳なさを感じたそうだが、やはり本人は「かえって記念になって良かった」とニコニコしていたそうだ。

石田は自分のことを、あのムツゴロウさんをもじって“ゆりごろう”と呼ぶことがあるだけに、その愛情は犬猫にとどまらない。
「馬やヤギにもすぐ“こんにちは”と言って触るんです。それで今まで噛まれたりとか、ひどい目に遭ったこと一回もなくて、彼女にはみんな懐くんです」
番組の中で、石田は猫の保護活動をしている人たちに、「あなたの雰囲気はとても穏やかだから、猫が膝を離れませんね」「温和なエネルギーを動物たちはすぐに感じ取る」と言わるシーンがある。彼女の中には、動物が心を開く不思議な力が宿っているのかもしれない。
●「正解は一つではない」番組に託した思い
このシリーズを通して、山田氏が一貫して伝えたいのは、「動物との付き合い方に正解は一つではない」ということだ。
「イギリスみたいに愛護団体がものすごく頑張って、すごくルールを決めて、きちんと犬と猫の命を守るというやり方もある。台湾では2017年まで殺処分をしていたのですが、そこから方針が変わって犬猫を助けるためのシステムが構築されています。そしてトルコは、市民のみんなが保護活動家のような存在。現地のコーディネーターも、いつもポケットに餌を入れ、そこに猫がいたらあげていました」
それぞれの国に、犬猫に対する文化や歴史がある。だからこそ、どれか一つを“正解”として押しつけるのではなく、まずは違いを見ることが大事だと考えている。
「日本は、どうしても野良猫、野良犬とか保護猫、保護犬という話になると、“猫は絶対家から出しちゃダメ”だとか、“高齢者は保護動物を飼うのは難しい”といったルールの話になるんですよね。もちろん、動物の命のためには厳しいルールは必要な面もあるけれど、大切なのは人間も犬も猫も、みんなが仲良く一緒に幸せに暮らすことだと思うんです」

トルコの旅で登場する猫の餌の自動販売機も、その象徴の一つだ。
「ああいうのって、日本なら“あんなところに餌が放置されたら不衛生じゃないか”と言う人も出てくるかもしれません。でも一つのやり方だから、それで幸せになってる子がいるなら、いいのではないかと思うんです」
だからこそ、この番組を“トルコ礼賛”にしたいわけではない。
トルコは近年、法律が変わり、野良犬は保護されることになったが、「狭いところにたくさん入れられて、閉じ込められてかわいそうだと思う場面もありました」と、課題を目の当たりに。トルコでは殺処分は行われないそうだが、石田もそれを見て、「あれは狭くてかわいそうだよね」と、心配していたそうだ。

この番組は、かわいい動物たちの姿に癒やされて楽しく見ることもできれば、日本の動物保護や共生のあり方を考える入口にもなっている。山田氏は「ゆり子さんの魅力も楽しめますので、ぜひ、いろんな視点で見ていただけたら」と呼びかけた。

●山田あかね東京都出身。テレビ制作会社勤務を経て、1990年よりフリーのテレビディレクターとして活動。ドキュメンタリー、教養番組、ドラマなど様々な映像作品で演出・脚本を手がけている。2010年、自身の書き下ろし小説を映画化した『すべては海になる』で映画初監督。東日本大震災で置き去りにされた動物を保護する人々への取材をきっかけに手掛けた監督2作目『犬に名前をつける日』(16年)は、国内外で評価され続けている。映画『犬部!』(21年)では脚本を務めた。また、22年2月24日に起きたロシアによるウクライナ侵攻から約1カ月後、映画『犬と戦争 ウクライナで私が見たこと』の取材を開始し、25年に公開された。
