山田邦子、片岡鶴太郎、柳沢慎吾…80年代に輝いた「レジェンド」が今、お笑い番組で再評価される理由
ネット上でも話題に
今年、「笑点」(日本テレビ系、8月25日放送)の演芸コーナーに俳優の柳沢慎吾が出演したことが、ネット上で話題になっていた。普段は芸人が出ているこの場所に現役の俳優が登場するのは異例のことだ。
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笑顔で颯爽とステージに現れた柳沢は、緊張するような素振りも見せず、鉄板ネタの「ひとり甲子園」を熱演。約7分にわたって柳沢はノンストップで動き続け、見る者を圧倒した。最後は「いい夢見ろよ! あばよ!」とお決まりのフレーズで締めた。
80年代にブレークしたタレントが再注目されているのは、柳沢に限らない。たとえば、芸人・俳優の片岡鶴太郎もヨガのスペシャリストとして多数のバラエティ番組に出演している。
10月31日にAmazonプライム・ビデオで配信開始された大型バラエティ「最強新コンビ決定戦THEゴールデンコンビ」でも片岡が出演していた。即席コンビを組んだ芸人たちが、さまざまなシチュエーションで即興コント対決をするという企画。片岡は彼らと共にアドリブで息の合った演技を披露。レジェンド芸人としての貫禄を見せつけた。
また、80年代から90年代前半にかけて一時代を築き、「天下を取った唯一の女性芸人」と言われている山田邦子も、近年の活躍が目覚ましい。2022年には「M-1グランプリ」の審査員に抜擢されて、その役目を果たした。
あれだけ注目度の高い番組で、出場する芸人の人生がかかった審査をするというのは、常人ならば耐えられないほどのプレッシャーがかかるものだ。しかし、かつてのバラエティ女王だった山田にとっては、このぐらいは大したことではないのだろう。涼しい顔で堂々と審査を行っていた。彼女は翌年にも審査員を務めていた。
ここで挙げた3人をはじめとして、80年代に一世を風靡した俳優や芸人が、最近になって再評価されるケースが目立っている。それにはいくつかの理由が考えられる。
1つは、テレビの主な視聴者層が高齢化していることだ。80年代に熱心にテレビを見ていたような世代は、テレビ視聴が習慣として根付いているので、今でもテレビを見ている。だからこそ、その層をターゲットにした番組作りが行われている。かつて人気だった俳優や芸人などは、この層の視聴者をひきつけるのにちょうどいいのだろう。
潜在的な憧れも
80年代からテレビを見ている世代は、今では中高年になっている。彼らが当時のスターの現状を見れば、自分たちと近い世代のタレントが今でも生き生きと活躍している姿に勇気をもらえるに違いない。
次に考えられるのが、80年代の好景気の時代に対して、人々が潜在的に憧れを抱いているということだ。今の時代、国民は厳しい状況に置かれている。長期の経済停滞とデフレを経て、今では物価は上がり始め、社会保障の負担率も上がり、人々の生活は苦しくなるばかりで、明るいきざしが見えない。
そんな中で、多くの人が好景気の時代のキラキラした雰囲気を取り戻したいと感じているのではないか。80年代に活躍したスターには底抜けの明るさがあり、当時の空気を感じさせてくれる。そこに人々が希望を見出しているのだ。
当時を知る世代の人々だけではなく、今の若い世代にとっても、80年代レジェンドスターの存在は一種の刺激になっているのではないか。芸人顔負けの個人芸と圧倒的な明るさを持っている柳沢慎吾。ヨガにはまりすぎて独特すぎるライフスタイルを送る片岡鶴太郎。最高月収1億超えの化け物じみた数々の伝説を持つ山田邦子。
そんな彼らは、共演する年下の芸人やタレントから見ても興味深い存在である。それは視聴者にとっても同じだ。珍しい天然記念物の動物を見るような目で楽しめるところもあるのだろう。
芸能界は生き馬の目を抜くようでないと生きていけない 厳しい世界である。そこで長年生き残っているというだけでも、並大抵のことではない。80年代スターの再ブレークの要因は、彼らが経済的にも文化的にも豊かだったかつての日本を象徴する存在だからなのだ。
ラリー遠田
1979年、愛知県名古屋市生まれ。東京大学文学部卒業。テレビ番組制作会社勤務を経て、作家・ライター、お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など多岐にわたる活動を行っている。お笑いムック『コメ旬』(キネマ旬報社)の編集長を務めた。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり〈ポスト平成〉のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)など著書多数。
デイリー新潮編集部