(※写真はイメージです/PIXTA)

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仕事に打ち込み外で懸命に働いてきた人も、定年を迎えれば家にいる時間が増えるでしょう。そんなとき、夫婦の関係がセカンドライフに与える影響は決して小さなものではありません。本記事では、Aさんの事例とともに熟年離婚のライフプランへの影響について、社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が解説します。

「夫が外で働き、妻は家庭を守るべき」と考えている人の2極化

Aさんは、学生を卒業してから、持ち前の運動神経を活かしたいと消防士を志願し、公務員となりました。念願の消防士になってからは、仕事、仕事の毎日。鍛えることも仕事のうちと、休みの日も常に体を鍛えていました。そんなAさんは女性と付き合うこともなく、消防署の先輩から紹介された女性と結婚しました。

Aさんの40年近くにおよぶお勤め。現役最後には消防署長に昇進、現場から遠ざかってからも仕事の苦労は絶えません。いまとなっては、帰宅するとご飯を食べてお風呂に入り寝るという作業だけをしていたように思います。

そんな家庭を振り返ることが少なかった夫には、家を留守にすることを心配し、妻を労う言葉をかける人と、空気のような対応が当たり前と声がけをしなかった人とで、家庭を守ってきた妻がどのように考えていたのかは想像できるでしょう。

なにもいわずとも妻はわかってくれているという時代ではありません。夫の対応次第で、セカンドライフは大きく変わってくるのかもしれません。

セカンドライフの幕開けは妻との温泉旅行を計画

定年間近になると、さすがのAさんも今後の生活が気になるようです。いままで家庭を顧みることなく、仕事に没頭できたのは、妻が家庭をやりくりしてくれたためと感じるようになり、定年後は、妻と一緒に旅行でもと秘かに考えていました。

一方妻はというと、夫と同じ思いを抱いているとは限らず……

ある日の夕方、珍しく早くに帰宅したAさんは、部下に頼んで予約してもらった温泉旅行のチケットを手にしています。スマホを使いこなせないAさんは、部下に頼んで紙のチケットを発行してもらったのでした。照れながらも妻へ話を持ちかけます。すると、妻からは1枚の紙を見せられました。その紙はなんと「離婚届」。「まさかホームドラマでもあるまいし……」と冗談半分に受け取るも、真剣な面持ちの妻を前にAさんはたじろきます「なにに不満があるんだ。まずは話し合おう」。

いままでなにも言わなかった妻が口を開きます「子ども2人も独立し、守るものがなくなりました。約30年、会話の一つもなく冷えた関係の私たちがいまさらなにを話せばいいのでしょうか。いままで家庭を守ってきたので、離婚し財産分与をしてください」。

「浮気もしなかったし、公務員として安定した収入も保ってきたのに! なにを言い出すんだ!」Aさんは声を荒らげます。妻もたまらず言い返し、「いまさらあなたと楽しく旅行なんて行く気にもなれません」と大号泣……。

どうやらAさん夫婦は、「冷めきった関係」と思う妻と「空気のようにわかり合える存在」と思う夫というすれ違いが起きていたようです。離婚するなんて考えてもいなかった夫は、離婚届を破棄します。一緒に温泉旅行チケットも破り捨てました。

定年間近に思いもよらない流れになった夫は、その後も早くに帰宅してもなにもすることがなく、会話もありません。

夫婦のすれ違い

家の中の動線は交わることがなく、まるで一人暮らしをしているかのようです。ただし、妻はこれがいままでと変わらず当たり前だといわんばかりに毎日を過ごしているように見えます。

Aさんの65歳時の年金は公務員ということもあり、月20万円となっています(妻の年金は含まず)。厚生労働省によると、2024年度の厚生年金保険は夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額は月額23万483円でした。

妻の年金額(老齢基礎年金の満額分)を除くと月14万4,483円、標準より高いことがわかります。しかしながら、離婚したらどうなるでしょう。年金分割によって婚姻期間中の上乗せ部分は按分割合によって半分になり、財産分与で貯蓄も退職金も半分になり、老後破産になる可能性もあるでしょう。

すれ違いのままか離婚するのがいいのか、仕事の苦労が終わったのに、家庭での居場所がなく生活することに苦悩することになりました。

仕事一筋だった夫の居場所

現在、65歳のAさんは、家に居場所がないため、近くの公園を散歩したり、大型スーパーのフードコートで時間を潰したり、パチンコ店に朝から並んだり……。そんな日々を過ごしています。仕事一筋だったAさんは気分転換になるような趣味等もなく、今日はなにをしようかと時間を潰すことだけを考える毎日です。

妻の態度は変わらず冷めたままで、このまま妻は自分が先に亡くなるのを待っているのではないかと不安になってきます。

夫婦関係で崩壊するセカンドライフプラン

仕事だから、なにもいわずとも理解しているだろうと、家庭を任せっきりにした代償はあまりにも大きかったようです。いまだ妻に歩み寄る隙もなく、Aさんにとってはまさかのセカンドライフの幕開けに。大誤算となりました。今後、卒婚になるのか、復縁できるのかは時間をかけ、納得いくまで話し合いをするしかないのかもしれません。

もし、夫婦関係で、自分が養っている、なにも言わずとも相手はわかっているはずと思っている人はAさんのように寂しいセカンドライフになる可能性があります。また、仮に離婚した場合による財産分与は、セカンドライフに大きな支障をきたすでしょう。いまからでも遅くないので、お互い歩み寄る行動をとることをおすすめします。

参考資料

厚生労働省PressRelease「令和6年度の年金額改定についてお知らせします」https://www.mhlw.go.jp/content/12502000/001040881.pdf

三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
代表