〈わいせつ保育士に懲役14年判決〉ネットは「男性保育士いらない」の声…それでも現場が「必要」とする理由とは

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勤務先の都内の保育園で少なくとも7人の女児にわいせつ行為をしたとして計7回逮捕され、不同意性交等罪などに問われた元保育士、長田凪巧被告(27)の第8回公判が11月14日、東京地裁(室橋秀紀裁判長)で行なわれ、地裁は長田被告に懲役14年の実刑判決を言い渡した。

〈一目でわかる〉「男性保育士がいて良かった」保護者や女性保育士が語るその理由とは…

判決報道を受け、ネット上では「男性保育士はいらない」といった声があがっている。一方で、保護者や現場の保育士は男性保育士の必要性を訴える。男性保育士は、本当に必要ないのか? 保護者や現役の保育士を取材した。

おむつ替えや着替えに抵抗も

母親のAさんは、娘が保育園に通っているとき、男性保育士が何人かいたと振り返る。ちょうどその頃、男性保育士によるわいせつ事件が報道され、おむつ替えや着替えの際に、男性保育士が担当するのに抵抗があった。

保育園からは「女性保育士も含む複数で見ているので」と言われた記憶がある。一方で、背が高く若い男性保育士は、幼児たちに人気があった。男児の多いにぎやかなクラスは、男性の保育士が担任になって、うまくまとめていた。

「おむつ替えや着替えは、なるべく女性の保育士に担当してほしかったです。でも先生たちも忙しいので、ほかの先生の目があれば仕方ないかなと思います。ただ、自宅でのシッターは絶対に女性がいいです。男性シッターで保育士の資格を持っていても、わいせつ事件が相次ぎましたよね。密室で1対1にさせるのは避けたいです」

一方、3児の母親であるBさんは、「男性保育士は遊びがアクロバティック」とその良さを挙げる。でも、男性だからというより、個人によってタイプが違うと感じる。

「女性的な男性保育士もいるし、暗めな人もいる。我が家が当たった男性保育士には、悪そうな人はいなかったけど、少し変わった人が多かったかな。あと、同年齢の女性保育士と比べると、精神的に幼いなと思いました」と話す。

一方、5歳児の娘を持つ父親のCさんはこう語った。

「男性保育士は絶対に必要です。2年前に保育園に泥棒が入ったんですが、犯人をその場で取り押さえてくれたのは男性の保育士でした。ウチの保育園は運動会やイベントの準備は男性の先生が積極的にやってくれますし、発表会の太鼓指導や山登りも男性の先生がいないと回りません」

お漏らし対応、着替えも男性保育士

厚生労働省が公表している資料「保育士の現状と主な取組」によれば、2020年の保育士の男女比率は男性が約4%、女性は約96%だった。5年ごとの調査を見ると、2010年は男性保育士の割合は約2%。2000年は約1%だったので、男性保育士は少ないが増えていることがわかる。

保育士歴およそ30年の女性保育士に、男性保育士の良いところ、悪いところについて聞いた。

この女性保育士が仕事を始めた頃、少しずつ男性保育士が現れ始めたという。

「同期が全部で30数人あまりいる中、5人ぐらいは男性だったかな。気にするお母さんから、男性保育士におむつを替えてほしくないとか、着替えのときは男の先生は嫌だっていう声はあがっていました。でも実際は、男性も女性も同じ仕事をしていましたよ。

『男性だからこれはやらなくていい』ということはないです。トイレも連れていくし、園児がお漏らししたら、すぐ対応する。保育は待ったなしですから。男性保育士は嫌だとか、そういう声があがると、男性保育士が気の毒です。『僕は行けません』とか言われても、私たちも困りますしね。

私の身近に男性保育士の事件はなかったので、性犯罪を目的にして職場に入ってくる人がどういう感じなのかはわかりません。周りにいた男性保育士は、ちょっと変わっていたけれど子どものことを一番に考えていたと思います」

人柄や個人の性格が大事

保護者に警戒されがちな男性保育士の中には、子どもに人気がある人もいる。

「アクティブに遊んでくれたり、運動遊びなどは活発で助かる。抱っこするにも、腕にぶら下げて遊ぶにも、男性は力があるので。

ただ、男性保育士はみんな人気があるかっていうと、そういうわけではない。性別よりも、大事なのは人柄です」

昨年、大手学習塾「四谷大塚」で起こった講師による盗撮事件は、保護者たちに大きな衝撃を与えた。

その他、学童保育やベビーシッターなど、子どもに関わる場での性犯罪の報道は後を絶たず、かといって、利用しないと生活が成り立たない家庭もある。日本版DBSの導入も予定されているが、表に出ていないケースもあり、万全な体制ではないのが現状だ。

「結局、『そういう男性保育士を採用したのが悪い』という話になると思います。採用のときに見極められたらいいですが、それは難しい。面接しただけで、わかるのでしょうか?

ただ、男性保育士が排除されるようになれば、男性保育士は萎縮する。誠実に仕事と向き合う男性保育士だっているのに、犯罪が多いと、そういう目で見られてしまう。『男性保育士は大丈夫?』みたいになると、働きづらいだろう、気の毒だなって思うこともあります」

必ず保育士が2人以上で、は無理?

採用時の判断が難しいとなると、職場でトラブルが起きない体制にするのはどうだろうか。学校や学習塾などで、異性と2人きりにならないように子どもに教えるのも自衛手段の一つだ。保育園の保護者が気にするおむつ替えや着替えなども、複数の保育士が立ち会う体制にできるように思うが…。

保育園の持ち場で、保育士が1人になってはいけないというのは、難しいですね。保育士が何人かその場にいると犯罪の抑止力になるとしても、人手が足りない保育園だったら無理かなと思う。

比較的、働く人の多い公立の保育園でも、やっぱり1人になることはありました。お昼寝のときとか、保育士が交代で休憩を取り、1人で見て回ったりする。常にというわけではないですが、1人で見なければいけない時間帯は必ず出てきます」

それでも、「男性保育士を雇わない」という考えはおかしいと、この女性保育士は考える。

「やっと男性保育士が増えてきた。この数十年、年月をかけて、ようやく男性保育士が普通になってきたのに、安全を意識しすぎて雇わなくなるのは、せっかく積み上げてきたものがなくなるような感じがします。

力仕事とか、高いところに手が届くとか、不審者の侵入に対する防犯の対応や、ヤンチャな子の対応など…。ほかに、男性保育士がいると精神的に助かる部分も大きいんです」

 男性保育士がいることで、職場の空気も変わってくるという。

 「誤解を恐れずに言えば、現状の保育現場は女性中心の職場が多く、人間関係がギスギスしがちです。私も、転勤先で男性の上司がいない園もありました。用務の高齢男性でも、男の人がいると職場の空気が変わって、優しくなれる。確かに、女性だけでも頑張れば何でもできますよ。今だって精一杯、男並みにみんな闘っています。

それでも、男の人が職場にいるというのは健全だなと思います。表現が難しいですが、男女バランスよくいるといいですね」

信頼関係が壊れていく

こうした男性保育士をめぐる問題により、保育士と保護者の間にも変化が出てくる。保育士と保護者の間では、信頼関係が大事だ。例えば集団生活の中で子どもが小さな怪我をしたときに、普段からの信頼関係があり、園や保育士からきちんと説明を受ければ、「やむを得ないことだった」と、おおごとにはならないだろう。

 「ですが、こうも男性保育士のわいせつ事件が話題になると、何かあるたびに、保護者も『本当に大丈夫なの?』と疑心暗鬼になり、空気が殺伐としてくる。子どもにとってもよくないし、保護者と保育士の関係もピリピリしてしまいます。

性犯罪は許されないですが、せっかく頑張ってきた男性保育士が働けなくなるのは残念すぎます。かといって、採用時に見抜くのも難しい。保護者も子どもも保育士も、安心できる保育をするには、どうしたらいいでしょうか」

この保育士の投げかけを、子どもに関わる仕事をする人たち、保護者、みんなで考えていきたい。

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取材・文/なかのかおり 集英社オンライン編集部ニュース班